煉獄原城魔王召喚編 第四幕 天下大乱の幕開け その六

「……ううむ、わけのわからん孤島に流されてしもうたわい! 俺としたことが、うっかり信長公と離れ離れに……! ここはどこじゃあああ~っ!? のっ、信長公~っ! この水野勝成の前に、再びお姿を~っ!」


 大転輪丸に家臣たちとともに乗り込んで島原を脱出した水野勝成は、島津船団とともに天草へ向かう途中、「殿」を務めた。幕軍方の水軍が追撃してきた時のために、信長の囮となったのだ。


 ところが、まだじゃまだまだ敵方を引きつけるのじゃと粘りすぎたため、海上で大転輪丸一艘だけが孤立。島津船団を見失い、完全に迷ってしまった。

 これはまずい、と水野勝成が慌てた時にはもう、にわかな時化に巻き込まれており――。


 気がつけば、一行は見覚えのない南海の島に漂着していた。


「殿。難破しなかっただけでも強運でございますぞ。ともかくいったん下船して、この島に拠点を築くしか」


「食糧も水も尽きております。早急に確保して、その先のことはそれから考えましょう」


「済まぬのう、お前たち。俺の酔狂に付き合わせてあげく、遭難までさせてしまい……と、ほ、ほ……い、いかん。信長公とはぐれてしもうたと思うと、五臓六腑に力が入らぬ……」


 植物の種類が本土とは違う。九州とも違う。勝成一行が漂着した先は、明らかに南国の島だった。しかし、かぶき者の勝成に長年従ってきた古参の家臣団は、むしろこの種の放浪には慣れている。素早く生存拠点の確保に動き回っていた。


「魚が獲れましたが、この魚、身体が碧いです……食えそうにありません!」


「森の中に、清流を発見! 水源は確保!」


「野菜とも果実ともつかぬ珍妙な実が多数、成っております。拙者が毒味をしましょう!」


 家臣団は盛り上がっているが、彼らを南海の孤島大冒険へと追い詰めてしまった水野勝成は森(というよりもジャングル)に入りながら頭を抱え、数歩歩くたびに何度も嘆息した。勝成がこれほどに落ち込んだことは滅多にない。「本能寺の変」の夜、臆病風に吹かれた父親に無理矢理に連れられて二条城から逃げだした時以来と言っていい。


「……ああ……なんということじゃ……ようやく信長公にご奉公できる、長年の憂悶を晴らす時が来た、と喜び勇んでおったものを……島原を脱出して、これからが伸るか反るかの大勝負という時に……俺はついに、信長公のもとでは戦えぬ運命なのか。これは信忠さまを捨てて逃げた俺への神罰か……のっ、信長さまあああああ~っ!」


 勝成はついに見慣れぬ南洋の木のもとに正座すると、「俺の人生は終わった。切腹する!」と脇差しを抜いていた。


 まずいぞ。敬愛してやまない信長公をまたまた見失って殿が荒れはじめた、どうする? どうするって、こうなった殿を止めようとしたらわれらまで斬られる、と家臣たちが囁く中。


「のぶのぶのぶのぶ、うるさいわねえ。誰なのよ、爺さん? この島はわたしのシマなんだから、勝手に居着いてくれちゃ困るわね! ましてや切腹だなんて。ショバ代を払いなさいよ!」


 水野勝成は、思わず木の上を見上げていた。


 髪型は、かぶいた茶筅髷。着流しの湯帷子を羽織った美しい少女が、肩に種子島を担ぎながらカン高い声で勝成を怒鳴りつけていた。


 おおお。まるで天女のような美しさじゃ。しかしこのお姿、このお声、どこかで見たこと聞いたことがあるような……?


「そ、そ、そなたは、ど、ど、どなたじゃ? ど、どことなく、の、信長公に似ておられる。もしや、信長公のお血筋を引かれるお方では?」


「ハア? 信長って誰。わたしは、信奈よ。尾張の姫大名、織田信奈! いきなりこんなところに召喚されて、ういろうも八丁味噌も手に入らないし、お腹すいてカリカリしてるのよ! あんたこそ誰よ、爺さん? 名を名乗りなさいよ! 名乗らないと勝手に名付けるわよ? あと、ショバ代!」


 信長公が――少女に、なられた。


 水野勝成は、(もはやなにがどうなっているのか、まるでわからぬ! 森宗意軒の術式の手違いが原因か!? まさかこのお方は、別府隼人どのが言っていた『別の世界』から来た、もう一人の信長公――しかし、少女とは!?)と声を失い、そして木から飛び降りてきた信奈に「ぽふっ」と額を蹴り飛ばされていた。


「耐久試験は合格! 爺さんは歴戦の武士ね、なかなか頑丈そうじゃない? わたしの家来にしてあげるわ、名前は雉右衛門! だから。さっさと、ショバ代っ!」


 これも運命。またしても俺は信長公に巡り会うことができたのだ! ははーっ、有り難き幸せにございますうう! と水野勝成が震えながら平伏し、自らの名を名乗ると、信奈は「ああ、三河の」と微笑んでいた。その笑顔が、なんとも愛らしい。


「デ、アルカ! 爺さんは、狸の従兄弟ね! ここがどこで今は西暦何年なのか、知っていることをぜんぶ教えなさい! 以後、切腹は禁止! あんたの船を用いて、この島から抜け出すわよ! いよいよ海の彼方へ打って出る時が来たんだわ!」



(第二部・椿説信奈南国琉球行編に続く)

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織田信長バース ~召喚された全信長中最強の魔王信長とともに、徳川幕府と戦い天下布武~ 春日みかげ(在野) @kasuga-m

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