ポポを迎えに4

「ユーナふざけるな。一応ここ迷宮だからな、緊張感を持たないと」


 と言いながら、魔物が近くにいないのは分かっているから笑いつつ相手をしてしまう。

 下級と中級の違いはあるが、ユーナといると何ていうかちょっと気が緩む。

 迷宮の中で気が緩むのは良いと言える話じゃないが、ポール達と森林の迷宮に入っていた時の様な、攻略が上手く行かないとか思う様に進まないという悲壮感が無いが、中級冒険者の俺にしてみたらだいぶ格下の冒険者が入る難易度がかなり低い迷宮にいる焦りとかもない。

 魔物を狩って無邪気に喜んでいるユーナを見て自分も喜んでいるし、ここに一人で一つ目熊を狩っている時には感じなかった、迷宮攻略の楽しさを久しぶりに感じているんだ。

 ユーナと一緒に迷宮に入って、ああ、迷宮の攻略って楽しかったと思い出した気がするんだ。


「すみません。つい、ヴィオさんが揶揄うから」

「いや、俺は真面目にユーナには腕力での攻撃は向かないと、おっと」

「だ、か、ら。そういう事でこれをしてるんじゃないですってば」


 今度は拳じゃなく杖でユーナは俺に攻撃する振りをしてきた。

 杖は以前買ったユーナの胸位の長さがある杖ではなく、俺の手の中に納まりそうな短いものだ。

 基本ユーナは杖を使わない方が魔法の発動が上手く行く。

 杖を持ち詠唱する。杖無しで詠唱する。杖ありで詠唱短縮する。杖無しで詠唱短縮するだと、杖無しで詠唱短縮するが一番成功率が高いらしい。

 それ杖が必要無いんじゃないかと思うんだが、ユーナはまだ下級になったばかりの冒険者初心者、つまり魔法使い初心者でもあるから杖は持っていた方がいいとギルが言っていた。

 この杖は、杖に紐が付いていて首から下げられる様になっている。

 普段は杖無しで魔法を使って、人目がある時は杖を使う様にする為にこの長さの杖をライに作って貰ったんだ。

 ちなみに作成代金はギルが払った。

 ラウリーレンの迷惑料だそうだ。

 それでギルの気が済むならと思い、素直に払って貰った。


「分かった分かった。俺が悪かった」

「……悪いわけじゃないですけど。ちょっと、何て言うかです」


 何て言うかってなんだ。

 膨れて不機嫌ですという風を装っているのも、何て言うかどう反応していいか困る感じだ。

 まあ、ユーナが何か我儘言っても不愉快にならない自信はあるが、これ、どっちか言えば俺が怒らせているよな。


「悪かった、揶揄ったつもりはないんだが、不快にさせたなら悪かった」


 こういう時は何が悪かったか分からないがとりあえず謝るというのが一番悪いというのは分かっている。

 よく、リナにそれで怒られた。

 悪かった理由が分からないなら謝らないで下さい。ヴィオさんそういうとこですよっ! とリナに何度怒られたか分からない。


「揶揄ったつもりが無いなら良いです。私の過剰反応ですから」

「揶揄ってない。ユーナが張り切ってるのを見たら俺まで楽しくなっただけだから」


 ユーナとの攻略は、俺に余裕があるということもあるだろうが、楽しいんだよ。

 だからそれを素直にユーナに告げる。


「楽しいですか」

「ああ、楽しい。ユーナがどんどん魔法が上手くなっていくのも分かるし、どれだけ勉強して来たのかも分かるから、余計に楽しい」

「そ、それは良かったです。私も楽しいですから、一緒ですね」


 なぜここで照れるのか分からないが、ユーナは照れた顔でそっぽを向いている。


「どうした」

「いえ、気にしないで下さい」

「気になる」

「うう、なんだか私だけ楽しいって思ってたんじゃないと思ったら、嬉しくなっちゃっただけなんです。迷宮攻略で楽しいとか変かなって内心思っていたので、ヴィオさんも一緒で嬉しくなっちゃったんですっ」


 照れているどころか、赤くなってユーナはそんな可愛い事を言う。

 これは、俺の方が照れるだろ。


「苦しいより楽しいと思う方が良いと思うぞ。ユーナと一緒の攻略は俺も楽しいって思っているし、そのいいんじゃないか」

「楽しいですか? ヴィオさん」

「ああ、楽しい。ユーナがどんどん魔法が上手くなっているし、魔物も上手に狩ってるし狩り方も上達してるから、余計にな」

「上達してますか?」

「ああ、かなりな」

「良かった、そう言ってもらえるの凄く嬉しいですっ。よし、やる気が更に出ましたよ。ヴィオさん私やっちゃいますよ」


 なぜか更にやる気になったユーナは、もの凄くやる気になった顔で右手を俺に差し出した。


「なんだ」

「魔物寄せの香、一番時間の短いもの下さい」

「ああ、本気でやるんだな。ゴブリンが大量に出て来るのはユーナには恐怖だと思うがいいんだな」


 この子はこの世界に来た初日でゴブリンを、多分安全地帯の能力で狩ったらしくてそれで恐怖に震えてたってのに完全にそれ忘れてないか。

 大丈夫か、大丈夫だと信じるぞ、良いんだな。


「大丈夫です。私、ヴィオさんが諦めない限り一緒に冒険者するって決めたんです。ヴィオさんが弱気になったら、私が手を引いて引っ張ってあげられる位に強くなるって決めたんです」

「ユーナ」

「それがヴィオさんと一緒にいるってことだと思うから。虫はまだ無理だけど迷宮の魔物は逃げずに狩ります。私、ヴィオさんが驚くくらい強くなりますから」


 むんっと、ユーナはまた、ふぁいてぃんぐぽーずというものをして、俺に示してくれるんだ。

 ユーナは俺と一緒に居るために強くなるんだって、そう決めたって示してるんだ。


「分かった、じゃあ俺が少し離れた場所で香に火を点ける。そこで魔物が現れるからユーナは魔物を狩り続けてくれ。ユーナが無理そうなら俺が狩るが、そうでない限りユーナ一人で狩るんだ、出来るか」

「はい、大丈夫です」


 ユーナが頷くから、俺は笑って場所を移動したんだ。





「よし、ユーナ、魔物寄せの香を使うぞ。これを使うと三十を数える間魔物が出続ける。簡単に言えば三十体の魔物が出る。狩る速度が早ければもっと魔物が出る。いいか、無理なら俺が狩るから焦らずに狩るんだ」

「分かりました。大丈夫です、魔物寄せの香使って下さい」


 ユーナは何故か杖を右手に俺に頷いて見せた。

 この層ででるのは、ゴブリンとコボルトだから冷静に対応出来れば無茶な事ではないんだが、ゴブリンの見た目は大丈夫なんだろうか。

 不安はあるが、ユーナが対応出来ないのであれば俺が狩ればいいだけだからその辺りは気が楽ではある。


「三数えてから、火を点ける。良いな。一、二、三」


 声を変えてから火を点けた。

 効果時間が短い香。三十だけ数える短い時間だが、ユーナは上手く狩れるだろうか。


 香から煙が立ち始め、すぐに魔物が現れ始めたから俺はユーナの魔法の邪魔にならない位置で、でも狩ろうと思えばすぐに魔物が狩れる位置に素早く移動する。


「風の刃! 燃えつくせ、炎の輪舞!」


 俺の心配を余所にユーナは危なげない様子で魔法を連発している。

 炎の輪舞って、今まで使えてたか? 俺の記憶違いでなければ今のは新しい中級魔法な気がする。


「風の刃! かまいたち!」


 今度は風属性の下級魔法と中級魔法の連続使用だ。

 ユーナは全属性の適性があるせいが、何でもかんでも覚えている。

 どうもその辺りはギルが面白がって教えまくったらしいが、まさか教えたギルも人族のユーナがこんなに短期間で使いこなすとは思っていないだろう。


「かまいたち、かまいたち、かまいたち!!」


 中級魔法を連続で使うとか、あり得ない程の使用回数だ。

 俺が呆れて見ている内に、三十数える間だけの効果はあっさりと切れて魔物が発生するのも止まった。

 

「ヴィオさん見てましたか、私出来ましたよ!」


 ぴょんぴょんとその場で飛んで、ユーナは俺に出来たと知らせて来る。


「ゴブリンが大量に出て来てちょっと驚きましたけど、ちゃんと魔力操作出来ましたよ。魔物が沢山出て来ても、慌てずに魔素で魔法発動出来ちゃいました。私大丈夫ですよ。ヴィオさんと一緒に魔物寄せの香で大量に魔物を狩るの私出来ますよ。ヴィオさんと一緒に魔物寄せで集めた魔物狩れますよっ」


 喜び勇んだその顔で、ユーナは俺と一緒に魔物が狩れると言い張ったんだ。

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