いい加減にしろ1(ニック視点)
「おはよ、ポール。今朝は早起きなのね」
俺達の前に立ったポールは、険しい顔で俺とリナを睨みつけているというのにリナはそんなポールの様子には気が付いてもいないといった感じで呑気に声を掛けている。
最近のポールは朝出掛けるギリギリまで起きてこない。
リナが用意した朝食を、おはようの言葉も無く不機嫌そうに食べて迷宮に向かう道は無言だ。
正直言えば不愉快の一言だけど、自分で答えが出せるまで放っておこうというリナの意見に俺達は何も言わずに見ているだけだった。
それを考えると今目の前にいるポールは何か変わったのかと、そう言えなくもない気もする。
ただいつも以上に不機嫌な顔で、いつも以上に眠そうだけど。
「……おはよう。ポール」
リナの挨拶に返事をしないポールに、俺も片手を挙げて声を掛ける。
ジロリ。
そんな音がしそうな視線がポールから向けられて、一瞬身構えるけれどそれ以上何もなくポールはただリナを睨みつけているだけだ。
うーん、これってどうしよう。
ポールがこうなっている一番の理由は、勿論ヴィオさんが出て行ってしまったって事だ。
俺にもポールにもヴィオさんは憧れの冒険者で、目標で、剣の師匠で、頼れる人で、ついでに言えば兄ちゃんで父ちゃんの様な存在の人だった。
だったじゃない、今でもそうだ。
孤児院出身の俺達四人は下級冒険者になって七星のまで上がった頃、迷宮攻略が上手く行かず魔物を狩る技術も上がらずという状態だった。
そんな時にヴィオさんとリナに出会って、ヴィオさんから冒険者の基礎と戦い方を習ったんだ。
今考えると俺達は、適当としか思えない剣の振り方をして、相手の属性とか弱点とか何も考えずに魔物と戦って、迷宮攻略は情報を集めて必要なものを準備してやるものなんだなんて考えも無かった。
まだジョンもトリアも魔力がそんなに多く無く、魔力回復薬を一日の攻略に必要な数を買うのも大変だった頃だ。
くたくたになるまで迷宮に一日入っていても入ってくる金より出ていく方が多い、そんな日が続いて俺達は冒険者としてやっていけないかもと落ち込んでいた頃でもあった。
そんなどん底の頃に二人と出会って、色んな事をヴィオさんに教えられて、俺達は実力をつけて行った。
星が減って、中級冒険者になって今の迷宮に入れる様にもなった。
戦える力がついて来たし、中級冒険者として自分で考えて動けるようになってきたというのに、俺達はヴィオさんに頼りっきりだった。
いつまでたっても俺には、いいや俺達には、ヴィオさんは強くて頼りになる人で、そんな人が自分の実力に不満があって悩んでるなんて想像もしてなくて、迷宮攻略が進まなくなってるのを今後自分が足を引っ張るだろう。なんて不安に感じてたなんて、そんな事をヴィオさんが考えてたなんて思いつくはずも無かった。
出ていくとヴィオさんが言ったあの時、誰かがそれに気がついていたら、俺達はきっと死にものぐるいでヴィオさんを止めたと思う。
ヴィオさんの足にしがみついて、泣いて縋って絶対に止めた筈だ。
そうしなかったのは、俺達がヴィオさんに捨てられたんだと誤解してたからだ。
後々ヴィオさんの言葉を思い出して考えて、実は俺達は誤解してたんだと気が付いたけど。
でも本当にそうなのか、自信はない。
年が離てるから、俺達は自分の腕が落ちるなんて怪我でもしない限り無いと思ってる。
怠けてたら別だけど、毎日毎日迷宮に入って魔物を借り続けてて腕が鈍るとかはさすがに無いと思う。
成長も無いのかもしれないし、現状維持は出来てるってだけかもしれないけど。
俺達にはまだまだ時間があるって、そうどこかで呑気にしてたんだ。
だから、ヴィオさんが年齢のことで焦って、自分が足を引っ張る存在になるかも、生存率が下がるかもなんて悩んでるなんて誰も考えて無かったし、ヴィオさんが出ていく理由だって俺達に不満があるからだって思って、だから止められなかったんだ。
それて、それはまだどこかでそっちが本当の理由なんじゃないかって俺は思ってるんだ。
だって、自分達がいかにヴィオさんに甘えて依存してたか嫌になるほど分かっちゃったんだから。
「お前ら、何してたんだ」
気が済むまで睨み終えたのか、ポールはボソボソと話し始めたけど、何を聞きたいのか分からなかった。
俺、自分の考えに没頭してて何か聞き逃してたのかな。
そんな疑問が出る程、ポールの質問は唐突過ぎたんだ。
だって、あんなすごい勢いで走ってきて聞くことがこれ? 何か用事があって俺達を探してたんだろって思うじゃないか。
どうしたんだ、ポール。
「何って、走ってたのよ」
「二人で、朝からコソコソと出掛けて?」
「コソコソ?」
リナは思い切り首を傾げている。
コソコソって、人目を避けてるみたいな言い方される様な真似なんて、俺達してないよな。
堂々と門番に挨拶して、朝の担当が誰であっても「おはよう。今日も早いな」なんて声を掛けられる程度にはリナだけでなく俺も認識されている。
もう俺だって早起きして鍛錬するのは日課になってるんだ。
「コソコソだろ。二人で示し合わせてさ」
「二人で、まあ確かにそうだけど。これってポールにわざわざ報告して許可取らなきゃいけない話なのかしら、どうして? ポールがリーダーだから?」
珍しくリナが喧嘩腰な感じで、両腕を組み話している。
なんか怖いんだけど、笑ってないリナの横顔滅茶苦茶怖くないか。
え、なんで今そんな雰囲気になるの。
ポールの質問の意味も分かんないけど、リナのその態度の理由も分かんないよ。
「許可とかそういう話ししてんじゃない。ふざけるなよ」
「じゃあなんなの? 今までまともに会話しようとすらしてなかったくせに、急に何なのよ。ポールこそふざけないで」
うわあっ、真面目にリナが怒ってる。
さっきドニーに見せてた優しい顔はどこ行ったんだよ。
なんで二人共喧嘩始めちゃったんだよ。
「ふざけてないっ」
「あっそ、ニック行きましょう。時間の無駄だわ」
時間の無駄。
リナ、それマズイよ。
「何だよそれ、俺と話す時間が無駄だって言いたいのか? ニックと二人きりの邪魔するなってことなのか!」
え、ちょっと待ってなんでそんな話になるのさ。
「ポール何が言いたいんだよ」
コソコソとか二人きりとか、一体ポールは何を気にしてるんだ?
「何って、だって二人は恋人とかそういうのになったんじゃないのか、ヴィオさんがいなくなったからって、リナそんなの」
「はあっ、ポール馬鹿すぎるわ」
「俺とリナが? 恋人? 何をどう見たらそうなったと思うわけ」
あんまりにもあんまり過ぎる話に、俺とリナは呆れるしか無かったんだ。
※※※※※※※※※※※
月曜日ワクチン接種してから体調不良続いてぐったりしてます。
毎回熱と頭痛が酷いんですが、これって何とかならないものなんでしょうかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。