一人じゃないから出来ること

「ヴィオさんにとって些細な事だったのかもしれませんけれど」


 俺にだって些細な事なんかじゃない、でもユーナが言うみたいに何度も思い出す様な話では無かったと思う。

 ユーナと出会ったのは、ポール達に別れを告げて拠点から離れ、辻馬車に揺られてヤロヨーズまでやって来た時だった。

 知り合った下級冒険者達に冒険者の知識を教え込みながらの道中は楽しくて、自分は指導者に向いているのかもしれないなんて考えながらこれから先どうするなんて考えられずにただフォラボラを目指そうとしていただけだった。

 ユーナを娼婦と間違えた男達に追いかけられて、路地裏でしゃがみ込み泣いていた彼女を連れ町を出た。

 突然異世界に来てしまったと思ったら知らない男達に追われていたと言うのに、俺に会えたから自分は運が良いと言う彼女に、俺は戸惑って自分は外れの方だと言えば、自分は人を見る目はある、俺は外れなんかじゃないと言い切った。

 あれはたった一ヶ月程度前の話だ。

 ユーナともう何年も一緒にいる様な気すらしているのに、まだたったそれだけしか経っていない。


「些細な事じゃない。だが大袈裟だ」

「そんなことありません。ヴィオさんと出会えなかったら私どうなっていたか分からないですし、あの時ああして慰めて貰えたから私今こうして強気でいられるんです」

「強気なあ」


 ユーナの世界じゃそうなのかもしれないが、この世界の女性も子供も強いからなんていうか俺にはユーナは繊細過ぎる様に見えている。

 繊細だし、優しすぎる。

 俺ならラウリーレンに羽を返しただろうか、生まれ変われないのは自業自得だと判断してもおかしくない。

 ユーナはラウリーレンの怪我を治し、羽を返した。

 それでも十分罰になると言って、許さないと言いながらあれは許した者の行動だと俺は思う。


「強気ですよ。私結構強いし強かなんですから。だからね、ヴィオさんがへこんでても無理矢理引っ張りまわしますし、嫌な事は嫌って言いますし、出来ない事ははっきりそう言います。ヴィオさんに沢山おねだりして我儘も言うかもしれませんよ」

「ユーナのは我儘なうちに入らないさ」


 ラウリーレンじゃないが、ユーナはお人よしだ。そんな彼女が言う我儘なんて言われても微笑ましいだけだ。


「そんなことありませんよ。我儘言いますよ、ヴィオさん叶えて下さいね」

「ああ、なんだ」

「年齢の事とか、ヴィオさん気にしているのかもしれないですけど、もう三十だなんて思って落ち込んだりするの、一人でしないで下さい」

「ん?」


 予想外の、我儘なのか? っていう疑問しか湧かない事を言われて反応に困る。

 さっきからユーナは何が言いたいんだ。


「ヴィオさんは私を励ましてくれました。私が泣いてる時、不安になっている時優しくして励ましてくれました」

「……」

「一ヶ月ちょっとですけど、ヴィオさんが誰よりも強くなりたいって考えてるいるのも、強くなる為なら過激過ぎることもする人だって分かってます。でも、もう三十だとか年齢には勝てないなんて、そんな悲観的な事思ってるなんて知らなかった」


 そりゃ、言って無かったからな。

 情けないだろ、守るとかずっと一緒とか言いながら自分の能力に不安があるなんてそんな恰好悪い事言えるわけがない。


「ヴィオさんって、ギルドの人達にも他の冒険者にも頼りにされていて、何でも出来てだから弱みなんて見せたり出来ないのかもしれないですけれど、私にまでそうしないで欲しいんです」

「だが、それは」


 言っても仕方ない事だ。

 誰に言っても、俺がもう三十になって年齢的な衰えを感じ始めているのは確かで、そんなの誰に話してもどうすることも出来ない。


「確かに年齢を重ねて諦めなくちゃいけない事ってあるのだと思いますけれど、もうじゃなく、まだ三十ですよ。まさかこの世界例えば五十歳で殆どの人が亡くなってしまうわけじゃありませんよね」

「さすがにそれは無いが」

「だったら、まだまだこれからじゃないですか。体の衰えなんて言うの早いです」


 そうなんだろうか、だが、でも。

 実際に俺は思う様に動けなくなって、だからもう限界が来たんだと諦めて。


「まだ、俺は強くなりたい。諦めるなんてしたくない」


 トレントを狩った時、俺は以前の様に動けるようになったんじゃないかってそう気が付いて浮かれたんだ。

 一つ目熊を大量に一人で狩り続けて、身体能力がもしかしたら上がったんじゃないかって、まだ俺は諦めなくていいんじゃないかって。

 だが、本当にそうなのか分からないんだ。


「諦める必要なんて無いです。体にいい食事をして、ちゃんと睡眠を取って、休む時はちゃんと休んで、そうして体を労わっていけばきっと今まで以上に動ける筈ですしもっともっとヴィオさんは強くなれるって私信じてます」

「ユーナ」

「私、運がいいことに料理っていう良い能力持ってるんですもん、美味しいだけじゃなく体に良いもの沢山作ります。美味しいもの食べたらきっと元気出ます」

「そう、だな」


 俺はさっきそんなに情けない顔していたのか、だからユーナは休憩なんて言って美味いもの食わせてくれて、俺が言った言葉を話始めたのか。


「ユーナの作るものは美味いから、それ食べただけで元気が出るな」

「出ますよ、絶対出ます。だから一人で悩まないで、話してください。私も言います隠さずに言います。不安なことも悲しいと思ったことも、嬉しいのも楽しいのも」

「そうか」

「二人で悲しくなって、どうしようも無くなった時は美味しいもの食べましょう。寒い時には温かいスープとホカホカの焼き立てパンを食べて、じゅうじゅうお肉を焼くんです。想像しただけで楽しくなってきますよね」

「そうだな」

「一人で落ち込んでいたらずっとそのままになるかもしれませんが、二人なら大丈夫だと思うんです。きっと大丈夫です」


 ユーナが俺を励まそうとしてくれる、それだけで元気になる。

 でも、ユーナには俺がずっと目指していた天空の迷宮を諦めた話なんてしてないんだよな。ポール達と別れて一人になってユーナと出会ったなんて話もしていない。

 それは、まだ話せない。

 俺がまだ自分の中で割り切れていないから、だから話せないんだ。


「ヴィオさん、私も強くなります。色々まだ怖いですけれど、強くなってヴィオさんと一緒に迷宮に入り続けますから、だから一人で無茶したりしないで」

「無茶?」

「トレントキングと戦う時、私も行きますから。一人で行かないで下さい」

「え、あの、それはさ」


 ユーナも一緒に戦うのか? トレントキングとそれはまだ無理だろ。


「トレントキングには話通じそうですし、きっと大丈夫です。側で見てるくらいなら戦えって言われたら私だって戦います。ヴィオさんと一緒にいるっていうのがそういう事なら、私覚悟決めます」


 なんでいきなりそんな覚悟なんて、ユーナ自分が下級になったばかりの冒険者だって自覚ないのか。

 トレントキングがどれだけ冒険者にとって脅威なのか分からないのか。


「おい、ユーナ」

「我儘、叶えて下さいね。ヴィオさん」


 それは我儘の域を超えてるだろと呻いても、ユーナはにっこりと笑うだけだったんだ。



※※※※※※

何度か書き直したんですが、しっくりこない感じ……。

その内書き足しとかするかもしれません。


ギフトとコメントありがとうございます。

仕事は落ち着いてきましたが、十二月頃に忙しくなりそうなのでそれまで書き溜め出来る位になっていたいです。

 


 

 


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