愛する人<ケツァ視点>

ショロトルはいつものように寝てる。イツラコリウキは起きてる。


「オメテオトルは?」


「寝てるヨー」


そう言ってイツラコリウキは笑った。


全ての人格がしている事が見えてるオメテオトルだけど、たまに寝る。

母親みたいに口うるさいオメテオトルが寝てる時は、僕やイツラコリウキにとってチャンスだ。オメテオトルにバレないように遊ぶ。結構バレちゃうんだけど、唯一バレてない事がある。


それは僕が今、夢中になってるアニーの事だ。

気が強くて頭の良いアニー。恋人を失って傷付いていた時に知り合った。

彼女が酔っ払った奴らに絡まれてるのを助けたのが、知り合ったきっかけだった。酔っ払いどもを皆殺しにして遊ぼうと思って、殴り倒してとどめを刺そうとしたら、アニーに止められ、腕を引っ張られてその場から逃げた。


逃げた先でアニーには感謝されるどころか怒られた。腹が立って怒る彼女を殴ろうと思った時、彼女の目から涙がボロボロと溢れた。

気が付いたら涙を拭いてた。

初めて会ったばかりなのに、酔っ払い達の反撃で僕が傷付いたらどうするんだと泣きながら、真剣に怒る。

もう、人が死ぬのを見るのは嫌なのと泣くアニー。

変な女だって思った。他人の事なんて、どうだって良いだろうと思うのに。

それが、アニーと僕の出会い。







しばらくして、オメテオトルが寝てる時にまた、遊びに出かけた先でアニーに会った。

偶然かと思ったらそうじゃなかった。アニーはあれから僕の事を探していたのだそうだ。

酔っ払いに恨まれて襲われたのではないかと心配だったらしい。

そんなの、ある訳ないのにね。


オメテオトルが寝てる時が、僕とアニーの会う時間になった。イツラコリウキは分かっていて、知らんぷりをしてくれた。

変人なイツラコリウキは、青春を応援するヨ! とか言ってた。面倒くさかったからそう言う事にしておいた。

アニーには何をしてる人間なのかと聞かれて、王族だとはさすがに言えないから、城に勤めてる兵士だと答えた。

酔っ払いを軽くあしらったのもあってか、アニーは直ぐにそれを信じた。

アニーは研究施設で働いていると言った。


研究施設で働いているアニーは、マグダレナに攻め込む話を素早く耳にしたようだった。

戦艦の建造に携わってるとの事だから、嫌でも知ってるんだろうな。


「ケツァ、貴方も行くの……?」


行かない。でも、城の兵士と言ってしまってる。仕方なしに嘘を吐く。


「兵士だから戦争に行くよね」


アニーは俯いて、それから思い詰めた顔で言った。


「戦争なんて、駄目よ」


正確に言えば僕ではないけど、オメテオトルとイツラコリウキが王を唆して戦争を引き起こそうとしてる。

そうだね、とも言えなくて、僕は何も言わなかった。


その日、アニーは僕を自分の部屋に招き入れた。それがどういう意味なのかは分かる。

アニーが僕に好意を抱いてくれている事は分かってる。僕が彼女を好きな事を、彼女も気付いてる。

でも、僕は王族だ。関係を結ぶ訳にはいかない。

だけど、アニーとの口付けは甘くて、僕は抵抗出来なかった。口付けぐらいなら良いのではないかと思った。

一人用の狭いベッドにアニーに押し倒された時、さすがにこれ以上は駄目だと押し除けようとしたのに、アニーは何か誤解したようだった。

とても驚いていたけど、大丈夫、と言った。

何度も大丈夫よ、と言った。


アニーは優しく、甘かった。

王族であるのにショロトルはそう言った事を済ませる事を拒否していた。

初めて知る女の人の身体に、それが好きなアニーだったのもあって、僕は結局されるままにアニーを求めてしまった。止められなかった。


もう、無理よ、と疲れ果てた顔をして言うアニーは、嬉しそうに見えた。

それからまた、大丈夫よ、と言った。


愛してるわ、ケツァ。


初めて向けられた愛の言葉に、胸が震えた。


僕も、僕もアニーが好きだよ。初めて人を好きになった。愛してるよ、僕のアニー。

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