006.話が通じません
夜会ですよ、夜会。
しなくて良いのにルシアンが要望した夜会。
薄っぺらい私のノーミソで考えたけど、王家は連日使いを送って来たり、先日の突撃から考えても皇族の私に会って、アドルガッサーでの王家の復権を認めて欲しいとか言うのだろうと思う。
私も大概、物忘れが激しいからアレなんだけど、この前王太子に突撃されて思い出したんですよ。
ルシアンに媚薬盛った王妃さ、まだこの国の王妃なんだよね。ご健在なの。
うちの
しかもルシアンが言う事には、祖母はここの王家が潰したラルナダルト家の令嬢だと言うではないですか。この件に関しては恨みもつらみもないんだけど、やっぱりもやもやする訳ですよ。それがなければ私はこの世に生まれていないんだけど、それとこれとは話が別って言うか。
挙句ルシアンが、ラルナダルト家を継ぐ事になっちゃったりして、糸がこんがらがり過ぎているけど、はっきり言えるのは、王家の要望を聞く気にはなれない、って事です。
だってさ、色んなものとっぱらったとしても、あの王太子率いる王家じゃたかが知れてそー……(遠い目)
真っ直ぐな気性っぽいんだけど、どうなのカナー。
「どうしたの?」
考え事をしていた私の手を、ルシアンが撫でた。
「色々と、思い出しておりました」
王妃、いるよね、きっと。
王太子もいるよね、間違いなく。
王様は…情報少な過ぎて影薄いからどうでも良い。
隣の人はきっと何か考えている筈で。
……つまり、平和な夜会ではなさそうだ、という事です。
そう言えばこの前、乱入して来た王太子を回収してくれたいぶし銀な人は、ラルナダルト家の片腕と呼ばれていた家のご隠居なのだそうだ。
隠居したんだけど、息子の当主が急逝してしまった為、孫が後を継いだものの、事実上の当主と言う事だった。
あの人も今日の夜会にいるのだろうか?
ルシアンの手に自分の手を重ね、扉の前に立つ。
やだなー。
重ね重ね言ってる通り、私はモブなんですよー。生粋のモブなんです。
何だか色んな属性が付いてってますけど、属性付いたからって私の気質までは変わらない。残念なまでにモブはモブのままなのです!
扉が開き始めたのと同時に、広間に入場者が知らされる。
「ミチル・レイ・アレクサンドリア・アルト・ディス・オットー殿下およびルシアン・アルト伯爵、ご入場です」
手を引かれて広間に足を踏み入れると、全員が一斉に頭を下げた。
あぁー……緊張するのでやめて下さいませー……。
広間の一番奥の壇上には、席が4つ並んでいる。
王と王妃、それから私とルシアンの席だと思う。
赤い絨毯を真っ直ぐに進んで行く。
王と王妃は立ち上がると、王は頭を下げ、王妃は膝を折り、頭を下げた。
「このような素晴らしい夜会へのお誘い、嬉しく思います」
これはね、アビスにそう言うように言われたの!
なるほどね、って思いながら覚えました。
「殿下をお招き出来る栄誉に浴しましたる事、アドルガッサー王家の誉れにございます」と、王が答えて頭を上げる。
貴族達も頭を上げる。
私が椅子に座り、王、王妃、ルシアンの順に腰掛けた。
話しかけられたくない私は、マナーお構いなしにルシアンの方に身体を寄せ、王から話しかけづらい雰囲気を作っておく。これはね、そうして良いって許可をルシアンから得ています。
アドルガッサーの貴族達が続々と挨拶に来る。
あからさまに、王への態度と私への態度が違う。王、めっちゃ軽んじられてる感じ。普通なら不敬だけど、この王家に関しては致し方ないかな、って思う。
だってねー、さっき挨拶した後に、王も王妃も私の事をジロジロと品なく見るし、王妃はまだ諦めてないのか、ルシアンを熱っぽい目で見てたんだよねー。
しかも何だねその、胸をこれでもか!と強調したドレスは!あれですか、胸の小さい私に対するあてつけですか?!
カチンと来たので、これでもかとルシアンに甘えてみる。
え? やきもち焼いてるのかって? そうですが何か?
ルシアンに媚薬を盛った王妃を、いくらルシアンが媚薬が効かなかろうと何だろうと、許さないよね!
「ルシアン、ご覧になって」
「どれですか?」
「ほら、あれですわ」
「あぁ……あれですね」
顔を近付けて、二人だけの会話を楽しむ。王に話しかけさせなんてしないのです。
音楽が始まり、私とルシアンは中央に出て最初に踊る。二曲目になると王と王妃も広間に出て踊る。
王妃がチラチラとルシアンを見てる。ルシアンと踊りたいんだろうなー。それであれでしょ? 強調したその胸を押し付けてお色気作戦でいこうっていう魂胆に違いないよ
曲が終わって王が私に話しかけようとしたのを、ルシアンが私を隠すようにして手を引き、壇上に戻る。直ぐにアビスがジュースを持って来てくれた。
さすがです、アビス!
「今日も殿下はお美しい」
……と、私に声をかけて来たのは、噂の王太子で。
凄いなー。純粋に凄いって思う。
空気とか読めないんだろうなー。読まないんじゃなくて、読めない人なんじゃないカナ。
オリヴィエからピリッとした空気が漂って来る。
隣のルシアンからも天然冷気が。
……ってなんで私が怯えてるんだ……。
「先日はお話が出来ず残念でしたが、ようやくお話が出来ますね」
満面の笑みで言う王太子。
ルシアンからの冷気が増した。寒いよー!
「せっかくですもの、私もお話がしたいですわ」
王妃が乱入。
うむ、と王も頷いた。
どうなるんだコレー?!
ルシアンからの冷気で私が凍る前に夜会終わってホシイ!
「王太子殿下、ミチル殿下がお困りになってらっしゃいます。お控え下さいませ」
いぶし銀の人がやって来て王太子を止めてくれた。
王太子はあからさまに嫌そうな顔をいぶし銀さんに向ける。
「何を言うか、レーゲンハイム」
「そうです、そなたは融通が利かなさ過ぎますわ」と王妃も口を揃えた。
あー、うん、あれだ。
この二人、同じ言語なのに会話が成り立たないタイプだ、きっと。
ルシアンが何を計画しているのか分からないし、大人しく我慢していよう……。我慢、我慢。
「それにそなたの態度は王族に対して不敬であろう」
そう言うなり、困ったように私を見る王太子。
「カーライル王国と皇国の貴族を知る殿下がご覧になって驚かれたに違いない」
いぶし銀さんは呆れたような目で王太子を見る。
だからおまえが不敬を語るな、と私も心の中でツッコミを入れつつ、何も答えない。
何がしかの反応があると思ったのだろうに、私が無表情、無反応なものだから、王太子は戸惑っていた。
って言うか、この会話の何処にどう反応してもらえると思っているのか、逆に聞きたい。
いぶし銀さんの後ろに、少したれ目がちな、青い髪色の女性が立った。あまりにキレイなその髪色に、つい声をかけてしまった。
「ヒヤシンスが咲いているような、美しい髪ですね」
いぶし銀さんは一瞬驚いて、その女性はにっこり微笑んだ。
「アウローラ、何処に行っていたんだい」
王太子はその女性の肩を抱いた。
恋人とか婚約者なのかな?
女性が王太子の手をさりげなく払って距離を取った所からして、王太子の片思いっぽい。そして報われなさそう。
「ミチル殿下、紹介させて下さい。私の愛しい人で、アウローラといいます」
王太子はまったくめげていない様子で、アウローラと呼ばれている女性の手を勝手に取る。
……ぅわぁ……。
「王太子殿下、そのお話はお断りさせていただいた筈ですが?」
ギロリ、と音がしそうな程の睨みをいぶし銀さんが王太子に向けると、王太子は怯んだようで、アウローラさんから手を放した。
こほん、と咳払いすると、王太子は私に向き直った。
メンタル強い。メンタルモンスターか。
「ミチル殿下、我がアドルガッサーの離宮はお気に召しましたか? 星の良く見える美しい離宮にございましょう」
ラルナダルト家から強引に奪った宮を、我が物顔で自慢する姿に、頭痛がしてきた。
ちらっと視線をやると、いぶし銀さんの額に血管が浮き出ていた。
アレはかなりキテると思われる……!
私もため息とか頭痛とか諸々出て来そうなのを堪えるのでいっぱいいっぱいです!
ルシアン先生、そろそろ、何とかなりませんか!
ミチル、大分辛くなってきました……!!
「人形のようにお美しいけれど、振る舞いも人形のようでいらっしゃるのね。これではお隣にいらっしゃる伯爵も物足りないのではないかしら?」
ため息混じりに王妃が言った。
「控えよ」と王が声の音量は抑えめながら、鋭く妻を
「あら、失礼致しましたわ」
ふふん、とでも言いそうな、人を馬鹿にした表情をこちらに向ける王妃に、結構な数の貴族達は眉間に皺を寄せている。うむ。おかしいのは王族とその一派ぐらいな感じ?
ルシアンを見ると、目を細めていた。
あー、コレ、怒ってる。かなり怒ってる。王妃が私をディスった瞬間、更に冷気が増したよね。
オリヴィエからもピリピリした空気が出てる。
こんだけ空気悪くなってるのにこの二人、気付いてないの? それとも私が空気悪くしてるとでも思ってるのかな?!
ルシアンが口を開きかけたので、それを止めた。
何で止めたかと言うと、私がカチンと来ているからですね!
扇子を開き、口元を隠す。
「この国の一番高い場所に止まる鳥は、見た目こそ華やかですけれど、かしましく囀るものですね」
私が口を開いた瞬間、水を打ったようにシーンとして、ちょっと
「私のよく知る鳥は、見た目の美しさもさる事ながら、内面から美しさがあふれております。その姿はとても気高く、他の鳥に高圧的な態度も見せませんし、無駄に囀る事もありません。
ましてや、隣の木に止まる
思い出すのは、カーライル王国の王妃様や、未来の王妃であるモニカ。
二人とも己の立場を弁えて、その地位に相応しい態度をしている。アドルガッサーの王妃は姿こそ美しいけど、中身は好きになれない。
そう言うと、王妃は顔を真っ赤にした。
ちょっと直球過ぎたかなー。
「たかが伯爵令嬢風情が調子にのるでない!」
怒りを浮かべた王妃が私に近付こうとした瞬間、ルシアンが私の前に立ち、オリヴィエも剣に手をかけた状態で私と王妃の間に立った。
いぶし銀さんとアウローラさんも駆け寄って来た。
「先に不敬を働かれたのは妃殿下に御座います! その上今、何をなさろうとしてミチル殿下の前に立とうとなされたのか!」
怒りが収まらない王妃はなおも叫んだ。
「いくら皇国の皇家に養子入りしたとして、そこな小娘は元はカーライルの伯爵家の出ぞ! 妾は侯爵家じゃ! かように馬鹿にされる覚えはない!」
絶対零度の声でルシアンが言った。
「妻への無礼、それ以上は許しません」
守られてる私が恐怖で震えそうです……!
突然大広間の扉が開かれた。
見覚えのある人達がぞろぞろと広間に入って来た。
え? え? 何で?
いぶし銀さんが貴族達に向かって声を張り上げた。
「皆、控えよ! 皇国公家の方々である!」
広間内の貴族達が一斉に頭を下げた。
王も王妃も、王太子も。
私の前まで来て、シミオン様がにっこり微笑んだ。
えぇー、本当に七公家が全員揃ってるよ?
クレッシェン公まで?! アレクシア姫はどうしたの?
エヴァンズ公は私の視線に気が付いて手を振ってきた。思わず手を振り返してしまったけど、そうじゃなくて!
一体、これはどういう事?!
「やぁ、ミチル」
「伯父様……。皆さまも、一体どうなされたのですか?」
……!
もしかして、ルシアンが夜会を開かせたのは、この為?
ルシアンを見ると、にっこり微笑んでいた。
面を上げよ、とクーデンホーフ公が声をかけると、貴族達は恐る恐ると言った様子で顔を上げた。
「アドルガッサー王」
声をかけられた王はびくりと肩を揺らした。
さすがにこの状況を、自分達に有利な状況とは捉えられないよね。
「ラルナダルト家の現当主は何処に?」
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