運命の相手<リリー視点>

あの方が私に気持ちを向けて下さらない事は分かっていた。

皇女シンシアの美貌や、血筋を持ってしても駄目だったのだから。


分かっている。

分かっているのに。

それでも、諦めきれない。


あぁ、あの美しい瞳に映るのは何故私ではないの?

あの方の声が呼ぶ名は、何故私の名じゃないの?

あの方の腕に抱き締められるのは、何故私じゃないの?


確かにあの方の妻は美しい。

私よりも美しい。

でも、辺境の伯爵令嬢じゃないの。

私は皇国でも指折りの名家の娘、普通の貴族であれば、より上位の家格との婚姻を望むものなのに、何故なの。

淑女でありながら、紳士の皆様の中に混じって働くなど、紳士の皆様に失礼だとは思わないの?

淑女の本分も分からぬ愚か者だわ。


何故、私と踊って下さらないの?

他の令嬢達のように、殿下にうつつを抜かしたりなんてしない。

私には貴方だけなのよ。

初めてお会いした時からずっと…!

私の運命の相手は貴方なのに!!


…私は許すわ。

あの女を第二夫人とする事を。だから、だから私を貴方のものにして欲しい。

そうすれば分かっていただける筈、私が如何に貴方に相応しいのか、絶対に分かって下さる筈よ…!

私こそが、公爵になられる貴方の妻に相応しいということを…!

その為の品位、教育、マナー、どれを取っても、あの女は私に敵う訳ないのよ!!


なんとかして、あの女を追い落としたい。

あの方に相応しくない事を、あの方に分かっていただかなくては…!


……アァ、そうだわ。


今度の夜会で、お父様に手伝っていただいて、あの女に媚薬を口にさせましょう。

ルシアン様を呼び出すのはお父様にお願いして。あの目障りな周囲の者達を側から引き離して、私自ら、あの女に媚薬を飲ませてやるわ。


そして、休憩室で休ませている所に、あの女に秋波を送っている方達を向かわせれば、あの女は身を持ち崩すわ。

それから、何食わぬ顔をしてルシアン様を休憩室に連れて行けば、百年の恋も覚める筈。

妻のあり得ぬ姿を見れば間違いなく。


失意のルシアン様をお慰めするのは私よ。

大丈夫、みんな殿下に夢中になっているもの。

誰も私を邪魔しないわ。


アァ、ソウヨ。

それが良イわ…。


待っていテ、ルシアン様。

私が、貴方を癒して差し上げまスわ。

身も、心モ、私が…。

待っていて、ルシアン様…愛シい方…。

私の運命ノ相手…。


ソウヨ、分カラナイ。

分カル必要ナンテナイ。

ソウヨ、諦メナイ。


私ヲ見テ。

私ノ名ヲ呼ンデ。

私ヲ抱キ締メテ。


私ノ愛シイ方、ルシアン様…。

待ッテイテ下サルデショウ?

私ガ、貴方ノ運命ノ相手デスモノネ…?

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