王太子妃の幸福<モニカ視点>

「と、言う訳だったんですのよ。」


私の説明に、ジークが苦笑しました。


「なるほど。突然モニカが私を喜ばせる事を言い出したのは、セラフィナによる特訓があったからなんだね。」


何故突然、自分に愛の言葉を口にするようになったのかと、結婚式の翌日、二人きりのブランチの際に尋ねられたのです。


それにしても、気になってらっしゃったのなら、もっと早くにお尋ねになればよろしいのに、何故今なのかしら?


ジークは不意に私を引き寄せ、お膝の上にのせました。

初めの頃は恥ずかしくてたまらなかったけれど、今は伝わるジークの体温に、胸に幸せな気持ちが広がる。


「何故、今頃になってお尋ねになりましたの?」


私の素朴な質問に、ジークはまた、苦笑なさって。


「何故って、その質問をした所為でモニカからの愛の言葉がなくなって欲しくなかったからだよ?」


ジークの唇が私の頰に触れます。


「たとえモニカのその言葉が本意ではなかったとしても、モニカに会いたかったと言われるのも、慕ってると言われるのも、嬉しかったから。」


「お慕い申し上げているのは、本当ですのよ?」


そっとジークの頰に触れる。

ジークはにっこり微笑んで、それからちょっと意地悪な顔をなさる。


「知っているよ。

剣術大会で、モニカが私を想ってくれているのがはっきり分かったからね。

でもホラ、モニカ、色々と拗らせていたからね?」


セラフィナ様にも言われたのです、拗らせてるって。

それは、自分でも分かっているのです。


恋愛に憧れ、その夢が砕けて、それでも自分の思う夢を自分なりに追いかければ良かったのに、怖くて、二の足を踏んで。

挙句ルシアン様とミチルにその夢を勝手に押し付けたりと、随分自分勝手であったと思います。


それが、ジークの婚約者になって、あんなにも大切にしていただいていたのに、その気持ちを何処かで信じられなくて、恋に溺れないように、溺れて、後になって傷付くのは自分なのだからと、素直になれなくて。


でも、ジークを好きになる気持ちは日増しに強くなっていき、自分の中の矛盾を嫌でも実感して苦しかった。

そんな時にセラフィナ様から課題を与えられて、最初は課題なのだから言うのだと、これは恋に溺れているのではないのだと、己に言い聞かせていました。

今思えば、何を言い訳しているのだろうと、自分の愚かさにため息が出ますけれど。


「それに、途中からモニカの言葉には気持ちがこもるようになったから、そんな質問をする必要がなくなったんだよ。」


気が付けば、課題の事なんて忘れて、会いたかった、寂しかったと口にしていましたものね。

私もだよ、とジークが返してくれる度に、胸が打ち震えましたもの。


「それにしても、皇女には感謝してるよ。彼女の事で昇級試験を受けていなかったら、未だに学生の身分で、まだモニカを自分の物に出来ていないんだから。」


「まぁ…」


ジークの言葉に顔が熱くなります。


「ですが、そうですね。私も、嬉しいですわ、こうしてジークのお側にいられる事が。」


微笑んだジークの唇が、私の唇に触れる。


「モニカ、昨日の式での誓いの言葉は、私の本心だよ。

貴族同士の婚姻は契約によるものが多い。王族も言わずもがなだ。

モニカは、王太子妃に相応しい家格に資質を持っていた。それが私にとってどれだけ嬉しい事だったか、君に分かるかい?王族でありながら、自分が心から望む相手を娶る事が出来る幸せが。」


胸がぎゅっと締め付けられる。

愛しいと言う気持ちで胸に溢れてくる。


「それは、私もですわ、ジーク。

家の役に立つように教育される貴族の娘が、真に己の想う方と添い遂げるなんて、夢のまた夢ですもの。」


ジークの頰に両手を添えて、唇に口付けする。

私の腰にジークの腕が回され、身体が重なる。まるで、対になる貝殻のように、ぴったりと重なる。


「愛してるよ、私のモニカ。」


「私もですわ、ジーク。」




挨拶も満足に出来ないまま、ミチルはルシアン様と皇都に向かったという知らせを受けて。


ジークが呆れるように言った事には、ルシアンが暴走して、ミチルが部屋から出られなくなり、そのまま出発の日になった、と言う事でした。


「暴走?ルシアン様がですか?監禁ではなく?」


失笑するジーク。

彼も、ルシアン様がミチルを溺愛するが故に、監禁するのではと危惧していた一人。


「ルシアンの執事によると、価値観の相違によるすれ違いが解消した事による暴走らしい。」


意味が分かりません。


「それ以上詳しくは聞けなかったから、次にアレクサンドリア女伯に会った時にでも聞いてみるといいよ。」


「そうしますわ。でも、一年後ですものね、お二人が戻って来るのは…寂しいですわ。」


ジークは私の腰に腕を回して自分の方に抱き寄せると、艶めいた目で私を見下ろした。

この目をするのは、閨事の時なのです。ですから、もしや、と思うと、恥ずかしさで顔が熱くなってしまいます。


「寂しいなんて思っている暇は、モニカにはないかも知れないよ?」


そう言ってジークの顔が私の耳元で、囁くように言ったのです。


「私は一人っ子だったから、3人ぐらい欲しいよ、モニカ。

寂しがっている暇なんて、なさそうじゃない?

今からでも始めた方がいいぐらい時間がないと私は思っているけど?」


あまりの事に恥ずかしくて、ジークの腕から逃れようとする私のを、ジークが仄暗い笑顔で見つめます。

あぁ、この笑顔を向けられると、ぞくぞくしてしまって、力が入らなくなるのです。


「愛しているよ、私のモニカ。」

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