087.王太子妃効果は凄まじい
翌日、モニカにバレンタインデーはどうだったかと尋ねたところ、顔を真っ赤にして視線を背けた。
これは、モニカからしたのでは?!
進んでますねー。順調ですねー。
再来月の結婚式が待ち遠しい感じで、なんか乙女ロードをスムーズに進んでるようで若干羨ましい!
いいんだいいんだ、私にはルシアンという超絶イケメンで、私を溺愛し過ぎて監禁しちゃうような旦那様がいるんだから、いいんだー。
………いいのか、自分…。
「今日は帰りにカフェに寄って、バレンタインデーイベントがどうだったのか確認しようと思っています。」
「あら、それなら私もご一緒したいわ。」
「モニカはお忙しくていらっしゃるでしょう?私が代わりに聞いて参りますわよ?」
王妃教育も大詰めなんじゃないの?
そう尋ねると、さすがにもう終わってます、と言われた。
さすがモニカ。
「こんな風にお買い物も、じきに出来なくなる身です。今ぐらい、許されますわ。」
それは、確かに。
正式に王太子妃となれば、警備などの関係もあって、そうそう街には降りられなくなる。
今も警備の人間は付いてはいるものの、規模が違うだろうしね。
「それに、城の兵士より、ミチルのナイトであるルシアン様の方がお強いでしょうし。」
下手な兵士よりはね、間違いないと思いますよ。
ルシアンは卒業と同時に城に上がることが決まっていて。
だから私も、ルシアンとこんな風に放課後を楽しむのは残りわずかなのだ。
「大人になるのも楽しみですけれど、やはり少し、寂しいですわね。」
「本当に。
あ、ミチル、毎月私に会いに来て下さいませね。」
「ルシアンが許したら、参りますわ。」
ひっきーな上にソフトな監禁はありえそうだからね。
それに、ルシアンが働いてるのに自分だけ遊んでるのもねー、気がひけるんだよねー。
「何をおっしゃるのです、私のいる場所にルシアン様はいらっしゃるのですから、お喜びになりますわ。」
あ、そうか!
「でしたら、ルシアンに差し入れも出来ますわね。」
「そうですわ。何でしたらミチルも王城で働いて下さればいいのに。」
それはルシアンが許さないと思うナー…。
お義父様が言っても絶対に許すまい…。
私も、アレクサンドリア領をアビスに任せっぱなしはよくないしね。
ちゃんと領主として頑張らねば!
あ、アビスにチョコ贈るの忘れてた!
今日買って帰って、すぐに送らなくちゃ!
放課後、ルシアンとモニカ、フィオニア様の4人でカフェに行くと、店員がみんなグロッキーだった。
何があった…。
なんでこんなにボロボロなんだい、イケメンズ。
店長を任せているエリアス(店員の中で一番のイケメン)に話を聞いたところ、ここ数日は朝からバレンタインチョコの販売で店内がてんやわんやだったと。
作っても作っても間に合わず、休みなしで作り続け、販売しまくりだったらしい。
初年度なのに、なんでそんなに…?と思ったら、王太子の婚約者がチョコを王太子に贈る、というのが貴族令嬢にあっという間に広がり、未来の王太子妃様と同じことをすれば自分達も…!ということらしい。
ははー…王太子妃効果凄いなー…。
確かにその効果を狙ったんだけど、予想以上だなぁ。
「予約表を見せて下さいませ。」
エリアスはすかさず予約表を持ってきてくれた。
ふむふむ。
これなら何とかなるかな。
「予約の入ってない日があれば、その日をお休みにと思ったのですが、大変ありがたいことに常にどなたかがご予約を入れて下さってる様子…。
ですが、ここ数日の皆さんの働きぶりは通常の営業量を上回りますから、予約はこれから二週間の間は通常の半分以下にしてシフトを組み直し、皆さんお休みを2日間取って下さいね。勿論、その間のお給料は保証致します。
身体を休めるのでも、心を休めるのでも結構です。
これは、絶対です。」
「は、はいっ!ありがとうございます!」
癒しの空間を謳っているのだから、イケメン達に疲れが見えるのはいかんのです。常にキラキラしてお客様を迎え入れていただかなくてはね。
とりあえず、大成功だったことは間違いないんだけど、それはモニカと王子のおかげだから、来年はもうちょっと考えないとなぁ。
つい、ため息を吐いてしまう。
「カフェのこと?」
セラの問いに頷く。
うっかり忘れてたけど、もうあと二ヶ月もないんだよー。
「ラトリア様は基本領地にいらっしゃるし、モニカは王太子妃になりますし、ルシアンはお城に上がりますもの。
一人で頑張らなくては。」
思った以上にやることいっぱい!
「何をそんなに深く考えてるの?ワタシがいるじゃない?」
あっけらかんとセラが言う。
「え?」
「これからきっと、ミチルちゃんは、最低限でも表の世界に出なくてはならなくなるでしょ。
執事として側にいたいけど、そろそろ厳しいとは思っていたのよ。」
「セラ、凄い名案です!私、心強いです!」
おねーさまぁぁぁ!!
一生ついて行きますーっ!!
「そうそう、ルシアン様が、ミチルに護衛騎士を付けるって言ってたわよ。」
護衛騎士?
何故私に?
「女性しか入れない場所があるから。さすがにそこはワタシも入れないし。」
「セラならイケル!」
サムズアップ!
「そんな訳ないでしょ!
それで、護衛騎士を何人か付けるって言ってたわ。」
わー、過保護ー。
「そうそう、ワタシもその一人に入るわよ。」
でもそれってダイジョーブなの?
ユー、侯爵家令息じゃ?
「奔放なセラフィナ・サーシスが、何やったとしても別に何てことないわ。フィオニアが上手くやるわよ。」
奔放ねぇ。かなりの常識人だよね、セラ…。
多分フィオニア様より…。なんとなくそんな気がスル。
「何故、私に護衛を?転生者だからですか?」
「表向きはそうだろうけど、単純にルシアン様が心配だからだと思うわよ。なんだかんだとこれまでも命狙われてるし、これからは側にいられなくなる事の方が多いからね。
護衛もワタシ以外全員女性で固めるっておっしゃってたし。」
確かに、キャロルと教団には酷い目に…。
普通の令嬢ならありえないような目にはあってるなぁ。
しかもどちらもルシアン関連と。
イケメンの側にいるのは命がけか…。
「ただ、社交界でミチルちゃんを守る人がいないから、ラトリア様を強引に結婚させようとしてるのよ。」
えぇ?!そんな理由で?!
いや、めちゃくちゃ助かりますけどね?
「大奥様のデザイン仲間に、大変美しいご令嬢がいるんですって。その方を紹介してくれとルシアン様は大奥様におっしゃってるみたいで。大奥様も乗り気で。」
ラトリア様ご本人の意思は?!
「特にこだわりないみたいよ。
嫉妬深いとか、愛を必要以上に求めるとか、そういった方は苦手みたい。」
意外。あんなに優しいのに、サラッとしてるんだなー。
「ラトリア様は、ミチルちゃんに優しくしてくれて、弟のルシアン様にちょっかいを出さない方なら、大丈夫だと思うわよ。」
…ねぇ、なんでそんなに条件が具体的なの。
もしかして前に何かあったの?!
ルシアンに関して言えば、ラトリア様はブラコンだからあり得るとは思うけど。
「それでね、大奥様が、そのご令嬢とミチルちゃんを会わせたいっておっしゃってるのよ。」
いや、そこで何故私と会うんだい。大事なのはラトリア様との相性では?
さっき言ってた私に優しくって本気なの?
「ルシアン様が来週の土の日、向かうとお返事されてるから、その予定でいてね。」
「はい。」
ルシアンには会っておいた方がいいかも。ラトリア様もイケメンだけど、好みというのがあるし、ラトリア様より弟のルシアンが好みだったりしたら、目も当てられないもんね。
「顔合わせが済んだら、リオン様、ラトリア様、ルシアン様はゼファス様と合流して、皇都に向かわれるわ。
私達はお留守番。」
どきり、と心臓が大きく跳ねた。
「それは…。」
「いよいよね。」
バフェット公爵の長男が皇太子になる式典。
*****
ラトリア様の奥さんになるかも知れない人と会う日。
それから、ルシアン達が皇都に向かう日。
「ミチルはそんな泣きべそをかいてどうしたんだい?」
アルト公爵邸に着いて、サロンに通される。
お義父様が私を見るなり言った。
泣いてません!
「私が皇都に行くのが心配なようです。」
ルシアンはそう言って私のこめかみにキスをする。
うふふ、とお義母様が微笑んだ。
「ミチルは本当に可愛いわ。
ルシアンじゃなくても、溺愛したくなる可愛さね、そう思わなくて?ロシェル様。」
お義母様が振り返るようにして声をかけた先に、目をキラキラさせた、蜂蜜色の髪をした女性が私を見ていた。
すっごい美人!
もしかして、この人がラトリア様の?
「ミチル、こちらの方はロシェル様。ラトリアの婚約者にと私が推薦しているお方なのよ。」
ロシェル様は私に大輪の薔薇のような微笑みを向けた。
うわ、すごっ!
皇女が真紅の薔薇なら、ロシェル様は純白の薔薇といった感じだ。
切れ長の目に、白い肌、赤い形の良い唇。ぼんきゅぼんなスタイル!私のないぼんをお持ちです!
セラと並んでも遜色なさそう…!凄い!
「初めてお目にかかりますわ、アレクサンドリア女伯。
ロシェル・イグナ・シャンティカイユと申します。」
ロシェル様はシャンティカイユ侯爵家のご令嬢なのか!
シャンティカイユ家はカーライル王国でも有名な名家です。駄目貴族の私でも、お名前は存じ上げております。
顔は……ねっ!えへへ!
「お目にかかれて光栄です。ミチル・レイ・アレクサンドリア・アルトでございます。」
…うっとりした目で、ロシェル様が私を見つめるのは、何故デスカ。
私から目を離すことなく、ロシェル様が呟く。
「アルト公爵夫人、やはりミチル様は素晴らしいですわ…。」
え?私?!
「そうでしょう?何を着せても可愛らしいのよ。」
「是非、私のデザインしたドレスも着ていただきたいですわ…!」
あ、お義母様のデザイン仲間だったっけ。
っていうかなんで私なの。
もっとデザイン意欲が湧きそうなイケメンたちがこんなに揃っているというのに…!
ロシェル様はうっとりした顔のままラトリア様を見た。
「ラトリア様、私、貴方の妻になりたいですわ。
それで、ミチル様に私のデザインしたドレスを着ていただいたり、一緒にお茶をしたり、お買い物をしたいのです。」
えぇ?!結婚したい理由がおかしすぎないか?!
しかも直球!
ラトリア様はくすくす笑って「いいですよ」と答える。
「そのお茶会にたまに私も参加させていただけるなら。」
「勿論ですわ、ラトリア様。」
いいの?!そんなんで?!
呆然とする私に、ラトリア様が笑って言った。
「レンブラント家はアルト家程縛りもないし、妻とする相手に求めるものも特にない。シャンティカイユ侯爵家も同じだね。
だから、お互いの気持ちが合えば結婚するのは悪いことではないと思うよ。」
貴族の結婚は確かに利害が付き物だけど、その理由はいくら何でもおかしいよ!
「私、生涯結婚せずにデザインを趣味にして生きるつもりでしたの。」
侯爵令嬢にあるまじき発言きました。
「同じデザイン仲間のアルト公爵夫人が数年前から、ミチル様用のドレスを作られるたびに、羨ましいと思っていたのです。私にも、そんな方がいらしたらと。」
多分だけど、男性の衣装にはまったく興味がないんだね、この方達の集まり。
しかもゴスロリ好きと。
「今回、アルト公爵夫人から、ラトリア様との縁談のお話をいただいて。
ラトリア様の妻になれば、妖精姫のドレスのデザインも、お茶会も、お出かけも義姉であれば可能だという事に気が付きました。」
お待ちになって!
何故ロシェル様が妖精姫のあだ名を?!
「その時点でお受けしていたのですけれど、夫人に一度ミチル様と顔合わせの機会をいただいたのです。」
…私、逆ハーだ。しかも女子のみ。
モニカ、お義母様、ロシェル様、あとセラ。
なんだかよく分からないけど、皆さまの嗜好と私の容姿が合致するらしい…。
「シャンティカイユ侯との話も済んでいるからね。と言うか、この婚姻はシャンティカイユ侯の方が乗り気でね。
後は皇都から戻ったら婚約を王室に届け出よう。婚姻はいつにする?」
楽しそうに言うお義父様。
まぁ…結婚しないと豪語していた娘が、結婚すると言ったら、父親としては喜ぶだろうなぁ…。
「半年後で。」
ロシェル様が言い切る。
え。一年置かないの?
貴族間の婚姻は、色々と準備が必要だ。
それを半年だなんて。
「妖精姫の義姉に、早くなりたいのです!」
待たれよ!
そこは嘘でもラトリア様のお側に早く参りたいのです、ぐらい言おうよ!!
ラトリア様も楽しそうに笑ってないで!
「ロシェル様、程々にした方がいいですよ?私の弟はミチルの事になると容赦ないから。」
ロシェル様ははっとした顔をして、ルシアンに向き合った。
あ、そう言えば、ルシアンを見てロシェル様は大丈夫だろうか?年下だろうけど、恋に年齢は関係ない人達はいっぱいいるからね。
途端にうっとりした顔をするロシェル様。
!
「ミチル様のお隣に相応しいご容姿ですわ。」
えっ。
「ご本人を前にして言うのも何ですけれど、さすがフレアージュ家令嬢のモニカ様が妖精姫に相応しいとおっしゃるだけありますわ。」
待って待って!
モニカは一体何処でそんなことを豪語しちゃってるの?!
「たまに王妃様のお茶会にお声をかけていただく事がありまして。その際にモニカ様がおっしゃってましたのよ。」
ぎゃーーーーーーーっ!!
妖精姫のあだ名もモニカか!!
どうすれば止められるんだ、あの人?!
いつまで続くのこの羞恥プレイ!
私、全然妖精じゃないから!そりゃ、色素は妖精っぽいよ?アッシュブロンドで緑色の瞳だから。
「ルシアン様の邪魔にならないように、ミチル様と接点を持たせていただきますわ。」
「それならば。」
私の知らぬ所で進んでいく私のハナシ…。
ふふ…。
お義父様の執事が耳打ちすると、お義父様は鷹揚に頷いた。
「猊下の準備が整ったようだ。お迎えしつつ、皇都に向かおうか。」
ラトリア様とルシアンは頷いた。
ルシアンは私の方を向いて、私の瞼と頰にキスをした。
「大丈夫。これで全て片付きます。」
またしても、何て声をかけていいのか、分からない私は、本当に駄目だ。
にっこり微笑むルシアン。
お義母様とロシェル様はホールでお別れの挨拶をしたけど、私は馬車に乗り込むまで見送りがしたくて、付いて来た。
私の手をルシアンが握ってくれる。
一つ目の馬車にはお義父様だけが乗り込んだ。ゼファス様と同乗するらしい。
二つ目の馬車にラトリア様が乗り込む。
続けて乗ろうとするルシアンの手を引っ張ると、ルシアンが少し驚いたような顔で私を見る。
「どうかお気をつけて…お帰りをお待ちしております。」
頰にルシアンのキスが落ちてきて、手が離された。
「……っ!」
ルシアンが行っちゃう!
私はルシアンの頰を両手で掴み、背伸びをして、唇にキスをした。
「!」
「…いってらっしゃいませ。」
ルシアンはすぐにとろけそうな顔になり、お返しとばかりに私に二度、キスをした。
「はい。いって参ります。」
ルシアンが馬車に乗り込むと、すぐに扉は閉まり、走り出した。
馬車が見えなくなるまで、私はその場で見送った。
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