085.愛され女子は難しい
ルシアンの糖度は上がりっぱなしだ。
そのうち私は溶けてなくなると思う…いや、本当に。
心なしか、以前のような、何となく暗さを伴った笑みは浮かべなくなったような?
何だろう?
セラに聞いたら、口が笑って、目が笑ってなかった。
ただ一言、間に合って良かったわ、と言われた。
?
間に合う?何に??
…とりあえず、何かやばかったんだな、ということだけは分かった…。
学園が始まった。最終学年の、最後の学期が。
もうすぐ私も卒業です。
大人の仲間入りを果たす訳です。
目下の所、転生者ということもあって、お茶会などは参加するのは良いけど、主催はしない方が良いと言われてる。
参加するのも、お義母様と一緒ならいいけど、単体は駄目とのこと。
淑女らしさが欠落している私としてはありがたいけど、これ、お義母様がいなくなったらどうしよう…。
セラ、女装して付いて来てくれないかな…。
夜会も、ルシアンがいない場合は参加しなくて良いし、ダンスもしなくて良いので、大変助かる。
ルシアン以外とくっついて踊るのはどうも苦手…。
「ミチル、ご機嫌よう。」
久しぶりに会ったモニカがあまりに眩しくて驚いた。
何だろうこの、愛され女子感は。
…はっ!もしや?!
ちらっと王子を見るけど、王子はにっこり微笑んでるだけで、表情が読めない。
「ご機嫌よう、モニカ。
近いうちにお時間をいただきたいんですの、カフェの件で。」
にっこり微笑んで、勿論ですわ、と返してくる。
…なんだろう、モニカが眩しすぎて直視出来ない…。
研究室の奥の部屋に私とモニカ、セラの3人でこもり、セラが淹れてくれたお茶を飲む。
後で絶対王子とのこと聞き出しちゃうぞー!とか思っていたけど、これ、絶対聞いたらノンストップだと思うんだよね。だから聞かないでおこう…。
やぶ蛇と言うか、何と言うか…聞いたらあまりの惚気に私が吐血しそう。
そこに至るまでの過程を遠巻きに見守るのは楽しいけど、いざくっついてからの惚気は聞く側も恥ずかしいよね。
そうそう、私もねー!なんて、自分とルシアンの話をする姿を想像したら吐血しそうになった…あれを!あの甘々を話せだと?!
つくづく己の女子力の無さを痛感した。
「セラフィナ様のお陰で、私、殿下との仲が深まりまして…。」
ぽっ、と頰を赤らめてモニカは言った。
や、やっぱりその先に…?!
まだ結婚前なのに?!
破廉恥!!
「それは良かったわ☆」
うふふ、とセラがにっこり微笑んで言うと、ちら、と私を見る。
うん?
「うちも何とか間に合ったわ…。」
その間に合うって、何のこと…。
私とルシアンのことなんだろうけど、間に合う間に合わないと言われるようなことあったかなぁ…?
間近に控えてるのって、卒業ぐらいだよね。
卒業したら私とルシアンの間に起きること?
ルシアンが私にすること?
セラのこの、引きつった感じ…。
………あぁ、うん…。
「ごめんなさい、セラ。ようやく分かりました…。」
乙女ゲームで言うなら監禁バッドエンド的な。
そうか、だから最近ルシアンから仄暗い感じを受けないのか、そういうことか…。
え、でも何で回避したんだろう?
何かした覚えないんだけどなぁ…。
「でも私、何もしていない気がするのですけれど…。」
セラは首を横に振って、「それ以上考えなくていいから、気にせずルシアン様にドロドロに愛されて、受け入れてくれれば世界が平和にまわるから、そうしてちょうだい」と言われた。
色々不穏!
モニカが「あぁ、ルシアン様に監禁されるのは免れたのですね?」と楽しそうに言う。
?!
驚いている私に、モニカは当然です、という顔をする。
「多分、ルシアン様とミチルをよく知る方達は、このままだとミチルが屋敷に監禁されると危惧してらっしゃったと思いますわよ。
ルシアン様のあの執着と溺愛は異常でしたもの。
私は好ましく思いますけれど。」
え。
「以前お会いした時より、ミチルの雰囲気が柔らかくなりましたものね。」
そうかなぁ?
「ふふ、良い事ですわ!少女から大人へ!先日読んだ本にもそう言った描写がありました。」
「?!」
待て待て待て!
…モニカ、一体どんな本を読んでるんだい…?!私はちょっと、いや、かなり不安になったよ…?!
「もうじき卒業ですね」と言って話を変えてみる。
モニカは卒業して直ぐに、王子との結婚式が控えてる。
王子が待てないらしい。モニカ、愛されまくりです。
国王夫妻が仲睦まじいのは大変喜ばしいことなので、良いんだけどね。
夫婦仲が良いのは大事。
結婚式には私とルシアンも呼ばれていて。
お義母様が結婚式に出席する用のドレスを作ってるらしい。ここまで来ると私の専属デザイナーみたいだよね。
お義母様、本当に女の子が欲しかったんだな…。
私とルシアンの間に女の子が生まれたら、大変なことになりそう…。
……私とルシアンの間の子…?!
「ミチルちゃん、顔が赤いわよ。何を想像したのか言ってみなさい。ルシアン様に伝えておくから。」
?!
「な、何もっ!」
「嘘おっしゃい。今ここで素直に言うのと、褥でルシアン様に言わされるのとどっちが良い?」
鬼?!
鬼なのね?!
セラは有言実行タイプなので、観念して話す。
ベッドで自白よりはマシ…なような…。
って言うか、言わないっていう選択肢がないのは何故?!
もしかしてそれ、監禁エンドに関連するのか?!
「も…モニカと殿下の結婚式に着ていくドレスを、お義母様が作って下さっていて…お義母様は女の子がいたらそれは可愛がってらっしゃっただろうなと…。」
なるほど、と、セラは頷いた。
「ミチルちゃんとルシアン様の間に女の子が生まれることを想像して赤面したと。」
「全部言わないで下さいませ!」
うふふ、とモニカがにこにこしている。
何でこんな言葉攻めを受けて…はっ!そうだ!私はカフェでのイベントをモニカに相談したかったんであって!
こんな羞恥プレイを受けている場合ではなかった!
「そんなことより、カフェのことですっ。」
「赤い顔でそんなことを言ってもねぇ。とりあえずお茶飲んで、ミチルちゃん。」
お茶のおかわりを淹れてもらったので、それを飲む。
…ほっ。美味しい。
えーと、平常心平常心。
深呼吸深呼吸。
「カフェでチョコレートイベントを行いたいのです。」
セラにしたのと同じ説明をモニカにすると、目をキラキラさせる。よし、掴みはオッケー!
「私も殿下に贈りますわ。」
うんうん、結婚を間近に控えた王太子とその婚約者が率先してやってくれたら、間違いなく流行ると思う!
「ミチルも贈るのでしょう?」
「はい、手作りしようと思っております。」
モニカがしょんぼりした顔になった。
どうした?可愛いよ?
「私もミチルみたいに色々作れたら、殿下に喜んでいただけたのに…。」
「自分で言うのも何ですが、普通、侯爵家の令嬢はお菓子作りしませんよ?記憶を取り戻す前は、私もそんなことしませんでしたし。
モニカが気にすることではありません。その分、メッセージカードに想いを込めればいいと思いますわ。」
そうですわね、と言ってモニカが機嫌を回復させた横で、セラがため息を吐く。
どうしたんだい、超ド級美人。ため息もサマになるね?
「ミチルちゃんって、他の人の事なら的確な事が言えるのに、どうして自身の事になると駄目なのよ?」
えっ、ひどっ!?
今日のセラ酷くないですか?!
「わ、私もルシアンにメッセージカードを贈りますよ?」
「じゃあ聞くけど、何て書こうとしてるの?」
「……いつもありがとうございます。」
「それただの感謝だから…愛の告白は何処にいったのよ。」
ゆらり、とセラが揺れ、私の前に立った。
笑顔なのに!笑顔なのに怖いよー!!
「こ、口頭でも伝えるつもりですわ!」
「それが出来てないから色々ギリギリになったのに、不可能な事言ってるんじゃないわよ。」
セラ軍曹がガチで怖いです!
モニカ、へるぷっ!
「も、モニカは何て書くおつもりですか?」
モニカはうーん、と首を傾げる。
「愛を込めて、とカードには書くつもりですけれど…やっぱり想いは直接伝えたいですもの。」
…おかしい…。
そんなに違わないことを私もモニカも言ってる筈なのに、この差は何なのだろう…。
「面倒だから、ミチルちゃんはカードに"私を食べて"とでも書いておきなさいよ。」
「破廉恥!!」
パティシエと相談して、カフェに出すチョコレートを使ったスイーツと、プレゼント用チョコを決めていく。
ある程度種類を作って、モニカたちにも食べてもらって、最終的にはカフェ用スイーツ2点と、プレゼント用5点にする予定。
個人的にちょっとこの前痛い目にはあったものの、フォンダンショコラなんかいいと思うんですね。
ショコラ・ボンボンとか。
変わり種として、ほうじ茶チョコレートとかどうかな。
オペラとかガトーショコラとか、ザッハトルテとかも好きだったなー。チョコレートプリンとかもいいなぁ。
そう言えば、お客さんは女性ばっかりなのかな?男性もいるのなから、もっとシンプルな味の物を用意した方がいいかも知れない。
ラトリア様からのお手紙に、新しい磁器をカフェに送って下さるらしいし。
今度はどんな食器かなー。
また燕国イベントをする時用に、和っぽいのも作ってもらえないかなー。
生成りの器で、南天を描いた奴とか。
今度作らせてもらいに行こうかな!
テーブルをコンコン、と叩く音がして、顔を上げると、ルシアンが微笑んでいた。
うぅ…イケメン…。イケメンが私に微笑んでる。
この前、何かでルシアンの手を引いて横に座ってもらってから、ルシアンはそれが気に入ったようで、たまにこうやって私に手を引かせて、それから隣に座る。
セラ曰く、ミチルちゃんからの自発的な行動をルシアン様は渇望してるのよ!とのこと。
私がさっきまで書いていたメモを見て、「カフェイベントの新作メニューですか?」と聞いてきたので、そうです、と頷いた。
「あ、ちゃんとルシアンに食べていただくチョコのことも、考えてますよ?」
私がそう言うと、ルシアンはふふ、と微笑んでこめかみにキスをしてきた。
あの後もルシアンにヒントをもらおうとしたんだけど、悉く失敗に終わった…。
仕方なくセラに聞いたけど、知らないと言われてしまったし…。上手くいかぬ。
出来れば好きなものをあげたかったけど、分からないままだし、もしかしたら、甘いものあんまり得意じゃないのかも?
前世でも、甘いものは食べないけど、手作りの物は作ってくれた気持ちが嬉しいから食べる、って男性、結構いたんだよね。
ルシアンもそういう人かも知れん。だからはっきり言わないのかも。
うーん…それなら、甘くないチョコ菓子?
生チョコみたいなロールケーキ生地で、甘くないクリームをたっぷり包んだ奴にしてみようかな。
…うん、そうしよう!
それに、ラズベリーソースとブルーベリーのソースをお皿の上にひいて、甘酸っぱい感じにして。
うんうん、美味しそう!
とは言え、一応念の為、もう一度聞いてみる。
「ルシアン、私以外で好きな甘い食べ物は何ですか?」
この質問の仕方も自分で言っておいてどうかとは思うけど、仕方ないのだ…。
「ミチル。」
もー!
「ですから、私以外ですっ。」
くすくす笑いながら、ルシアンは私を抱き締める。
「ミチルが食べたい。」
「駄目ですっ。」
「何故?」
「どうしてもですっ。」
どうせ抵抗しても無駄なことは分かってるけど、抵抗せずにはいられない、この可愛げのなさ…。
あぁ、自分でも可愛げがないって思う。
でも、どうすればいいのかな。
素直に言えばいいの?言っていいの?
何だっけ、上目遣いがいいんだっけ?
「私を食べて?」
…はっ!
脳内シミュレーションの筈が口にしてしまっ…た…。
ギギギ…と首をルシアンの方に向けると、予想と違って驚いた顔をしていた。
だよね?!
いきなりキャラに合わないこと言ったもん、驚くよね?!
私も驚きですよ?!
ふふっ、とルシアンは笑うと、「言い間違えたのでしょう?」と聞いてきた。
分かってるなら、分かってるならどうぞ見逃して下さい!
ルシアン様!見逃して下さいませっ!
でも、と言って私の顎を掴む。
ひぃ。
「聞かなかったフリはしてあげませんよ?」
私は首を横に振ってルシアンを押して抵抗する。
「せっかくこんな甘い言葉をいただいたのですから…お言葉に甘えますね?」
きゃーーーーーーーっ!!
…はっ!
いや、でも、逆にこれを…乗り越えられたら、可愛い愛され女子になれる…?
モニカ、何だか凄い可愛くなってた。あれはきっとセラ軍曹の特訓が実を結んだに違いない。
私も、セラの言い付け通りに…。
えっ、あの、えっと…なんだっけ…甘える?
愛の言葉を囁く…?
甘えるのだとしたら、ルシアンを押しちゃ駄目だよね。
ルシアンを押していた手の力を抜く。
また、驚いた顔をするルシアン。
恥ずかしい。顔を見ないで欲しい。
もういっぱいいっぱいです!
ルシアンの首元に顔を埋める。
「ミチルの鼓動…凄い速い。」
めちゃくちゃ緊張してますからねっ!(涙目)
涙出てきたし!
っていうかコレ、甘えになってるかな?!
ルシアンは私の身体を自分からわずかに離すと、私の瞼にキスをした。
「顔、真っ赤ですね。」
!!
「い…言わないで…。」
ルシアンのキスが頰に、唇に降ってくる。
ミチル、と私の名前を何度も呼びながら、ルシアンのキス攻撃は続く。私の恥ずか死にたい気持ちも継続中。
で、でも、これを乗り越えなくては…!
「突然、どうしたんですか?私は嬉しくて堪りませんが、ミチルはこういったのは苦手でしょう?」
おっしゃる通りですっ。
心臓が悲鳴あげまくりですっ。
精神状態も乱れに乱れておりますっ。
「…ルシアンに…。」
「うん。」
髪を撫でられる。
「愛され続けたい…です…。」
あ、これ、バレンタインで言えば良かった…!
そう思ったとき、私の身体はルシアンに抱き上げられていた。
「ルシアン?」
「…煽りすぎです。お仕置きします。」
「?!」
ええっ?!
そんなっ、凄い頑張ったのに!
愛され女子難しいよーっ!!
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