053.羞恥なプレイのお茶会です。

お義母様と一緒に王城にやって来た。

何の為って、王妃様主催のお茶会の為です。


王妃様がお義母様も呼んでくれたのは本当ありがたい。

モニカもいるけど、彼女は王太子妃としてそこにあるのだから、私と一緒にいる訳にもいかないし。


とは言え、私は消えたいぐらい恥ずかしいのだけど…。

何故って?ロリータファッションで屋敷の敷地外に出てるからですよ!!

いえ、ロリータファッションがどうのとかいうことではなく、私が着てて大丈夫なのかってことです。

これでも私、既婚者です…。


白い少し透けるような素材のシャツは襟が少し高めで、控えめなフリルが付いている。

肘のあたりに絞る用のリボンが付いて、袖口は広く、レースが三重になっている。

スカートはフリルオンフリルでふんわり広がっている。

その上に、ミストブルー地に細かい花が描かれたキャミソールワンピの緩いのを重ねて着ている。

生足は見せられないから、きっちり白いタイツと、膝まである編み上げブーツ。

そして頭にはアルト侯爵領産の小さいサファイアたちをふんだんに使った花をあしらったヘッドドレス。

長々書き連ねましたが、一言で言うと、お人形さんが着るような格好な訳です。ロリータファッションです。

メイクもばっちりです。そう、お人形さんっぽくなるように、頰にピンク色のチークががが。


案内され、サロンに足を踏み入れると、既に到着していた方たちから扇子越しに見られる。

びっくりだよね、ロリータファッションだものね!

私もびっくりだよ!泣きたいよ!


サロン中央には最も絢爛なドレスを着た美しい方が。

ブロンドの髪はキレイに結い上げられて、頭の上にはティアラ。王妃様だろう。

陛下も美形だったけど、王妃様も美人!王子が美形なのも当然の結果ですよ!

王妃様の横にはモニカがいた。ワインレッドのベルベットのドレスは、モニカによく似合ってる。

周囲の方たちも、淑女に相応しいドレスですよ…。

私のこの場違い感たるや!


お義母様にならって王妃様とモニカに挨拶をした後、私は指定された王妃様の隣に腰掛けることになった。

おっ、恐れ多いんですけども…。


「シーニャ、これは貴女がデザインしたドレスなのでしょう?」


と、私が着ているロリータドレスを話題にする王妃様。

えぇ、と満足げに頷くお義母様。


「それにしてもミチル嬢はよく似合っておいでだわ。

噂通り、妖精のようですもの。」


なんたる羞恥プレイ!


ロリータファッション着て妖精とか言われちゃうとか!

本当勘弁して!!


「本当に、ミチルによく似合ってるわ。私ではとても着こなせませんわ、羨ましい…。」


羨ましい?モニカ、それ本心で言ってる?!

副音声とかない?!


「ルシアン様が溺愛なさるのも分かりますわ。本当にお美しい。」


「お人形のような陶器のような白い肌。羨ましいわ。」


「アレクサンドリア伯爵家の美形揃いは有名ですものね。」


あちこちから謎の賛辞が続きますが、私のHPは物凄い勢いで減っていっておりますよ!!

それはもうゴリゴリと!!


お茶とお菓子が運ばれて来て、会話の単位がバラけていく。

私は王妃様とお義母様とモニカの4人で話していた。

私とモニカが手がけているカフェの話も話題に上がって、個室の存在を知った王妃様は、今度予約して陛下と行くらしい。

個室使用料高いけど、陛下たちなら平気だろう。


時折他の方とも会話をしていたところ、廊下で叫び声が聞こえた。


…あ、やな予感。


王妃様とモニカの表情も一気に無表情になった。

お義母様の笑顔は逆に怖い…。


ドアが開かれると、今日も真っ赤なドレスを着た皇女がサロンに入って来た。

呼ばれてないのに来ちゃった!!


「これはどういうことかしら?!」


既にお怒りです。

っていうか怒ってるとこしか見たことないかも。


「これはこれは皇女様。大変お上品なご登場にございますこと。皇国流ではそうなさるのかしら?」


扇子で口元を隠しながら、オホホ、と笑って王妃様が先制パンチを食らわした。


皇女はギリギリと扇子を握りしめる。お、今回は折らないんだな。扇子の在庫が尽きたか?

扇子が気になるようになってきちゃったよ。今回は何処でへし折るんだろうとか。


「そんなことはどうでもいいわ!何故!この私を!お茶会に誘わないのかと聞いているのよ!」


「これまでお誘いしてもお断りされることが多ぅございましたし、皇女殿下のお気に召すお茶会を田舎者如きには用意出来ませんので、お誘いするのも無礼かと思った次第ですわ。」


王妃様に田舎者って言ったんだな、皇女…。


「行くか行かないかを決めるのは私よ!」


誘う人にも権利があるだろうよ…。


「左様でございましたか。

今回は我が国の淑女を集めたお茶会にございます。そういった意味でも、皇女殿下は会の趣旨とは外れておりまして…申し訳ございませんわ。」


王妃無双きたー!!

王妃つえー!

将来モニカもこうなるのかな?!カッコいい!!


「いいから、私の席を用意しなさい!」


負けないな、皇女!?

引こうよ!!


周囲の婦人たちも、扇子で口元を隠したまま、批難の目を皇女に向けている。


用意された椅子に座ると、皇女は当たり前のようにお茶を飲み、お菓子に手を出した。

うわぉ、品性の欠片もないです。


示し合わせた訳ではないけど、私たちはそのままロストア語で会話を続けた。

皇女が床をカツカツ踏む音が聞こえるが、みんな無視している。

さすがです、淑女は怖いっス。


「ディンブーラ皇国語で話しなさい!」


我慢出来なくなった皇女が叫ぶものの、王妃様は困ったようにしれっと言い放った。


「…ですが…本日は先ほども申し上げた通りこの国の淑女との語らい…ロストア語をお話しになれない殿下には、少し、厳しいかと…。」


退席しろと促すものの、ここで帰るなら苦労しない。

めげない皇女は、帰らない。


王妃様は呆れたようにため息を吐くと、「仕方ありませんわね。皆さま、皇国語でお話しましょう。」


そこからはみんながディンブーラ皇国語で話し始め、皇女の眉間のしわを若干減ったものの、誰も皇女に話しかけない為、すぐに皺は戻った。


「ミチル様とルシアン様は昨年ご結婚なされたのよね。」


「卒業を待たずにご結婚だなんて、熱烈ですわぁ。」


「あのようにステキな方に強く望まれての婚姻だなんて、本当に羨ましい…。」


…あ、なるほど。

そういうことなのか…。


「呼ばれてもいないのにわざわざ追い駆けてくる方もいらっしゃる程の美貌ですものねぇ。」


「ほほほ、恥ずかしいこと。」


直接言わないけど、これ色々大丈夫なのかな…。


皇女が唇をギリギリ噛み締めてる。

ひぇぇっ!


「兄上はレンブラント公爵を継がれて、ルシアン様がアルト侯爵家をお継ぎになることも決まり、ミチル様のような素晴らしい令嬢とご結婚なさいましたし、侯爵家は安泰ですわね。」


うふふふふ、とお義母様は扇子越しに微笑む。


「あとは孫が楽しみですわ」


まっ、孫!!


突然のことに恥ずかしくなって、頰が熱くなった。


私を見た婦人たちは、にこにこしている。


「まぁまぁ、なんとお可愛らしいこと。」


「清楚可憐で慎み深く恥じらいもお持ちになって、淑女たるもの、こうでなくてはね。」


明らかに皇女をけなしてらっしゃいます。

その比較対象が私なのは明らかにおかしいです…。


「その上アレクサンドリア領もお治めになってらっしゃるなんて、私には真似出来ませんわ。」


本当に、と婦人たちはうんうん首肯する。


私自身何も言ってないのに、めっちゃ居心地悪い!


皇女が何かを言いかけようとしたのを遮るように、婦人が皇女より先に話し始める。


「ルシアン様は、あのようにステキな方でしょう?緊張なさらない?」


「私、緊張で満足に話せそうにありませんわ。」


「あら、ルシアン様を見つめられるだけで毎日幸せですわよね?ミチル様。」


どんどん言葉が被せられて返事をする暇もない。


王妃様がホホ、と笑い、「ミチル嬢の人気は凄いですね。そのように矢継ぎ早に話されたら、答えられないではありませんか。」


婦人たちはほほほ、と優雅に笑う。


お茶会は淑女の戦場だよね…。実感した。


「それで、ミチル嬢、アルト伯爵のどこを好ましく思ったのです?」


「?!」


なんて恐ろしい質問!!


助けを求めてモニカを見ると、ものすっごい目をキラキラさせてた。

駄目だ!助けるどころかむしろ誰よりも聞き出したい顔になってらっしゃる!


お義母様もにこにこしながら私の右手の上に自分の手をのせた。

ロックされました。逃げられません…!


「まぁまぁ、母としてもお伺いしたいわ。

あの子はミチルにずっと夢中でしたし、ルシアン自身が惚気ますから存じ上げておりましたけれど、ミチルがルシアンのどこに惹かれたのか、是非。」


こ、こここ、これはピンチですよ!

味方が一人もいませんよ!!


なんて、なんて答える?!

どう答えるのが正解?!


かつてない程に全力で頭をフル回転させる。

だって、婚約そのものはアルト侯爵家からだったし、愚父が勝手に決めてたし!


いや、でもあの、好きは好きなんだけど。

やきもち妬いちゃうぐらい好きなのは事実なんだけど…!


「…は…恥ずかしいですわ…お許し…下さいませ。」


精一杯それだけを答えると、あちこちからまぁまぁとか、お可愛らしいわぁ、といった声が上がる。


「私の方こそ、いまだに何故ルシアンに選んでいただいたのか、戸惑うばかりですのに…。」


あぁ、駄目だ、本当に恥ずかしい!!

頰が熱いよ!


「まぁ、ご謙遜を!」


「いえ、本当に、至らないところばかりで…。」


この前もあんなみっともなく嫉妬してしまって…呆れられるかなとか、嫌われちゃうかなとか心配してたら、ルシアンに知ってるけど?って言われて肩すかしをくらいましたけども。


「それも含めて…私を受け入れて下さるルシアンには感謝しております。」


ルシアンは本当に私のこと好き過ぎて、なんだかもう恥ずかしくて、穴掘りたい。そして一人反省会したい。


「まぁまあ!ルシアン様はミチル様の全てを愛してらっしゃるのねぇ。」


ぬぁ!


その言葉に顔が熱くなった。多分耳まで赤くなってると思う!!


次の瞬間、バキバキ、という音がした。


「!」


…あ、あまりに静かで存在忘れてた。


皇女の手には折れた扇子。

怒りにぶるぶる震えている。

あ、これヤバイかも、と思った私は鉄扇を取り出して顔を隠した。


「このっ!薄汚い小娘が!」


同い年なのに!


ツカツカと近付いてきて、私の左頬を叩こうと手を振り上げたので、とっさに鉄扇を左頬側に移動させた。


「!!」


バシッという音に思わず目をつぶる。


一瞬間を置いてそっと目を開けると、皇女が右手を抑えてその場に座り込んでいた。


「誰ぞ、医師を呼べ!皇女殿下がお怪我をなさったようじゃ!」


バタバタと大人数の足音が近付いてきて、あっという間に皇女を運び出した。


「ミチル嬢、大事ありませんか?」


心配そうに私の顔を覗き込んで下さる王妃様。


「は、はい。王妃様。あの…このようなことになって申し訳ございません。せっかくご招待いただいたのに…。」


王妃様はにこにこ微笑む。


「ミチル嬢は何もしておりませんわ。

ただ、皆の問いに答え、扇子を広げただけですのに、そんな風に謝る必要などないのですよ?」


「ミチルは心優しいですから、何もしてらっしゃらないのに、自分のせいではと思ってしまったのですわ。被害者ですのに。」


「心優しい淑女を迎え、アルト侯爵家は幸運ですわね。」


「えぇ、本当に。」


それから王妃様は顔を扇子で隠し、「興が削がれてしまいましたわね。本日はおひらきにしましょう」と、閉会を口にする。


婦人たちは一斉に立ち上がり、美しい所作でお辞儀をすると、するするとサロンから去って行った。


おお、凄い。

これが完璧な淑女の振る舞いなのね…。


「さぁ、アルト伯爵が心配しているでしょうから、2人もお帰りなさい。」


王妃様に促され、王城を後にした。




帰りの馬車の中で、不安が募っていった。


大人しく叩かれておくべきだったんじゃないかと。

鉄扇は過剰防衛だったんじゃないかと思い始め、胃がキリキリしてきた。


ルシアンに迷惑がかかっちゃうかも!もしかしたらこれをネタにルシアンが連れて行かれちゃうかも!!


屋敷に戻った私は、エマやリジーたちへの挨拶もそこそこに、ルシアンを探した。


「奥様?」


「セラ、ルシアンは何処にいらっしゃるの?」


「んー?ルシアン様のお部屋じゃないかしらー?」


「ありがとう。」


階段を上がり、ルシアンの部屋に向かう。


ドアをノックする。


「どうぞ。」


中に入ると、ルシアンはソファに腰掛けてくつろいでいるところだった。


入って来たのが私だと気付いたルシアンは、笑顔になり、立ち上がった。


「おかえりなさい、ミチル。」


その笑顔を見ていたら胸が痛くなって、自分でもどうしてそうしたのか分からないけど、ルシアンに抱き付いた。


「ミチル…。」


ルシアンの腕が私の腰に回され、強く抱きしめられるとすぐに、あちこちにキスされていくので、慌ててそれを止める。


「ルシアン、私の話を聞いて下さいませ!」


「このままでも聞けますから、どうぞ。」


そう言いながらもキスは続く。

何でこんなキスするのこの人ーっ!


「落ち着きません!」


「ミチルから初めて抱き付いて下さったので、このままがいいです。」


…はっ、そうだった。

無意識とは、我ながらなんて破廉恥な!!


「ミチル、私たちは夫婦ですからね、破廉恥ではないと思いますよ?」


笑いながらそう言ってルシアンは私を抱き上げ、ソファに座った。私を抱いたまま。

もはや定位置と言っていい。


「それで、どうしたんです?私の美しい人形がそんなに慌てる理由は?」


なんか変な枕詞入ってたけど、そこに反応してると話が進まないから、とりあえずスルー!

反応すると色々身悶えたくなってきちゃうから、スルー一択です。


王城のお茶会であったこと、鉄扇で防御しちゃった所為で皇女が怪我したことを話した。


「何か罰が与えられるのではと…。ルシアンに迷惑がかかるのでは…。」


そう思ったら抱き付いてました…!

意味分からないでしょうけど!!


「攻撃をしたのはあちらですからね、ミチルは何も悪くないと思います。」


「で、でも、過剰防衛とか…。」


「いくら皇族とは言え、他国の貴族を感情のままに殴って許される訳ではありませんよ。

さすがにそれを皇女が騒いだ場合、あちらの公爵たちが黙ってはいないでしょうし。」


スキャンダルになるのかしら?


大丈夫です、と言ってルシアンが頰を撫でてくれて、ようやくホッとした。


「良かった…!このことでルシアンが連れて行かれたらどうしようって思ったら、いてもたってもいられなくなってしまって…!」


あぁ、良かった。本当良かった。

ルシアンが連れて行かれるぐらいなら、叩かれたほうがマシだよ!!


ルシアンが優しく微笑んで、頰にキスをした。

う…さっきの続きだろうか…そう身構えていると、次は唇にキスが降りてきた。

一度離れて、また重なって。


こっ、これは…なんだか貞操の危機!?


大人なキスとかされてしまうのか?!


逃げ出そうとした私を抱く腕に力が入る。


「…っ!」


か…噛まれた…唇を…。


「今日はここまで。」


ふふ、とルシアンは艶っぽく笑う。


きょ、今日はって…?!

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