第3話「固有魔法使い」
素早い移動速度に合わせた抜刀術、名前は雷光一閃。雷の如く、光速の如く、移動しながら剣戟を放つ技。この世界の魔法で身体強化をして、生前よりも素早く繰り出す事が出来ている。それによって見えない斬撃を放つこの技は、初見であれば防ぐのは愚か、回避する事が容易ではない。
「……あら、それで終わりかしら?リーサさん」
「っ……!?」
だがしかし、彼女は私の剣戟を弾いた。姿勢を一切崩す事無く、表情を苦しくする事も無く、日常的行動をこなすようにして一閃が弾かれた。あの盗賊の人でさえ、反応出来なかった一閃のさらに上の速度を初見で……
「くっ……」
「距離を取った。という事は、今のは予想外だったのね。初めてかしら?貴女が技を弾かれたのは」
「……否定はしません。けれど、謎ですね」
「謎?」
「はい。どうして防げたのか、初見でありながら私の剣を迷いも無く弾いた。それだけで驚愕に値します」
「それは私にとって容易な事。初見であっても、知っていれば止められるわ」
さっきも同じような事を言っていたが、何かしているのだろうか。でも彼女が魔法で何かしていたとしても、その何かをしていた形跡は何処にも無い。それどころか、魔法を使った瞬間を確認していないのだ。
「……」
「そんな怪しい者を見るような視線を向けないで欲しいわ。私はただ、自分の切れる手札を切っているだけよ。ただ、それが少し分かり難いだけ。でも、もう少し剣を交えれば、貴女なら分かるかもしれないわね」
もう少し剣を交えれば分かるとは、どういう意味だろうか。けれど、何をしているのか種が分からない以上、迂闊に行動をしてしまうのは危険だろう。だがしかし、このまま何も分からない状態で戦うのも危険かもしれない。
私の剣が通じないというのは、この世界では初めての経験だ。
「ふふふ……」
「?……何が可笑しいのかしら?」
「いえ。分からない事があるなら、試すのが一番手っ取り早いですよね。その意見には同感です。貴女の言う通り、私はもう少し貴女と剣を交えようと思います」
「(殺気?なるほど。ここから本番という訳ね)」
何をしたか知らないが、彼女の言う通りだ。分からないなら、分かるまで剣を振り続ければ良いだけの話である。我ながら単純な考えで浅はかだが、そもそも生前と違う世界という時点で初めての経験でしかない。
それも同じ年頃の人間が相手なら尚更である。
「――!」
もう一閃を放つ必要は無い。左右からのフェイントを混ぜつつ、ただ剣戟を打ち込むのみ。刀身が見えるという事は、抜刀術を使う者としては不名誉なのだが……仕方が無いだろう。
それにしても、いくら打ち込んでも受け流されている。しかも平然としている様子で、フェイントを入れても普通に対処が出来ている。スポーツ選手だって、情報に無い動きを対処するのは難しいと聞くのに。
「……」
「どう?種は分かったかしら?」
「いえ、まだ分かりません。ですが、読まれているなら速度を上げれば良いだけの話です」
「そうですか。そんな短絡的な答えでは、合格点はあげられませんわね」
前に駆け出したと同時に薙ぎ払うように振るった刀は、やはり受け流されてる様子に疑問を浮かべる気力を失いつつある。もはや受け流されても、それが当然と思ってしまう程に自然だ。
非の打ち所が無い以上、変に疑えば反感を買う恐れがある。ここは彼女の顔を立てるように負けて……
「――それは許しませんよ、リーサさん」
「っ?」
「言ったでしょう?知っているって。……私は貴女がどんな事をしようとしても、最初から知っているのよ?わざと負けるなんて、私が望むと思っているのかしら?」
「……そうですね。(思考が読まれるという事であれば、私の攻撃を対処出来たのも頷ける。ならば、無心で刀を振るだけの事)」
――自然に身を任せ、彼女との距離を縮める。
いくら思考を読めるとしても、無心であれば対処が出来ないはずだ。そう思って振るった刀だったが、彼女は口角を上げて前に駆け出した。距離を縮めた私と同じく距離を詰めて、勢い良く大剣を振り上げられた。
回避に間に合ったものの、対処出来ずに後方へと飛ばされる。空中で体勢を立て直したのだが、視線を戻した途端に急接近した彼女が視界を埋めていた。
「(しまった!間合いに入られたっ)」
「この程度で驚かないで欲しいわ。私の本気は、まだまだですわ!!」
彼女は剣を振るいながら、そんな事を言って笑みを浮かべる。余裕綽々という雰囲気が伝わって、私は何だか苛立ってしまった。なんとなくだが、見下されたような気がしたのだ。
「知っているから防げる?ふふふ、それは良かったですねぇ……相手の思考が読める固有魔法をお持ちで!」
「フフ……へぇ、これが固有魔法使いって事は理解出来たのね」
「否定しないのですね。能力が分かれば、何も考えなければ良いだけの事です!」
「本当にそうかしら?」
「っ!?」
私が前に出た瞬間だった。擦れ違うようにして耳元へと近付いた彼女は、目を細めながら囁いた。その言葉を聞いた時、私は耳を疑う結果となった。
「それでは満点は与えられないわ。――榊原理沙さん♪」
「今、なんて……!?」
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