第3話「憤怒のリーサ」
「っ……出来た。出来たぞ、嬢ちゃん!」
鋭い刀身を眺めながら、メシアは笑みを浮かべた。数日間に及ぶ徹夜続きで、丹精を尽くしに尽くした武器。それが完成した事で気を抜けたその一瞬、店の入り口に誰かが入って来た鐘が鳴る。
「……誰だ。今は取り込み中なんだが?」
『メシア・グランツだな?』
「……そうだが、客なら営業してる時に来てくれ。今から店を閉めるんだから」
『そうか。それは上々だな』
「……?」
何者か分からない人物の背後から、ゾロゾロと店の中へと人が足を踏み入れる。その人という人がメシアを囲み、ニヤリと笑みを浮かべて武器を肩で担いでいる。そんな者達を見据えていたメシアだが、一歩も退く様子は無く言った。
「アタシの工房で
『別に狼藉はしない。こちらが望むのはただ一つだ。最高の武器を打てという依頼だ』
「客……のようには見えない。どう見てもその辺に居るゴロツキだろ」
『ゴロツキ、か。まぁ当たらずも遠からず……その通りだ。打てとは言わない。そのままこの辺りの武器を貰い受けるだけだ』
「っ……させると思うか?」
『思わんな』
ゴロツキとメシアがそう言った数秒後、店の窓が割れる。凄まじい物音と怒号が闇の中で響くが、誰にも気付かれる様子は無い事にメシアは違和感を覚えた。
「……くっ、人避けの魔法か」
『そうだ。悪いが潰す為には徹底的にやらせてもらう主義でな。助けを呼んでも無駄なのは一目瞭然だ』
「(奥にある武器を見つかる訳にはいかない。盗賊如きにあの武器を……リーサの武器を触らせる訳には)」
『ふむ……おいテメェら、工房の奥を見て来い。こいつは何か隠してるぞ』
『へい、頭っ!』
「っ、させないっ!――土の精霊よ。くっ!?」
『おおっと、魔法を発動させる訳無いだろう』
メシアが魔法を発動しようとした時を見計らって、その者は彼女に向かってナイフを投げた。刺さりはしなくても、掠り傷を負ったと同時にその者は不適な笑みを浮かべる。
『外したか。だが、そのナイフは特別製だ』
「くっ……痺れ薬か」
『動けばさらに回る毒付きだ。ククク、そのまま動けず黙って見ているんだな』
『頭っ!!!有りましたぜ!こいつは上物だ!』
『ほぉ、これは良い武器だな』
「(リーサの武器っ!?)それに触るなっ――ぐっ!?(体が動かない、もう毒がっ)」
『有り難くこれを頂戴して置こう。他の武器はこれに免じて見逃してやる。テメェら、拠点に戻るぞ』
『へい』
「ま、待てっ……!く、そ……!」
そのままメシアは去って行く盗賊に手を伸ばし続けたが、届く事は無く視界が霞んで行った。意識が完全に遠退いたメシアは、翌朝に周囲に暮らす住人に見つかり療養所にて運ばれる。
その噂を耳にしたリーサは、ハッとした様子で屋敷から飛び出してラルクの街へと向かった。療養所に辿り着いた時には、目が覚めたメシアがリーサを見て顔を俯かせた。
「――すまない。アタシのミスだ。せっかく作った嬢ちゃんの武器が、盗賊如きに奪われちまった。っ……すまねぇ」
「メシアさんが無事なら大丈夫です。それよりも、傷の具合はどうですか?」
「アタシは大丈夫だ。けど、嬢ちゃんの武器は……」
リーサの視線はメシアの身体へと向けられていた。要所要所に掠り傷があり、切り傷が存在する。盗賊に攻撃され傷付いた事が分かると、リーサはメシアの前で目を細めて言った。
「メシアさん、その方々は何人でしたか?」
「……8~10人だったが、それを聞いてどうするつもりだ?」
「いえ、ちょっとお礼参りに行こうかと」
「ば、馬鹿を言うな!嬢ちゃん一人で何が出来……――!?」
その時、メシアは気付いた。リーサの身体から魔力が溢れ出ている事、纏う空気が凍て付いている事、そして……笑みを浮かべている事に気付いた。
「確かに私だけじゃ何も出来ません。けどメシアさん、私の両親が誰なのか知っていますよね。どうするという問いは、それが答えとして受け取っていて下さい。では、行ってきます」
「あ、おい嬢ちゃん!!(ったく……流石あの二人の子供か。お前の血、継ぎ過ぎだろフレア)」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「リーサお嬢様、急に飛び出されては困ります!お嬢様に何かあったら……っ!?」
「シェスカさん、探知系の魔法は使えますか?」
「え、ええ……心得ておりますが、一体何を探知なさるのですか?」
「今から数時間前の間にメシアさんの工房、近付いた人間を洗い出して欲しいんです。今すぐに」
「構いませんが、今すぐにとなりますと多少のズレがある可能性がありますが」
「構いません。一番は、その盗賊の拠点さえ分かれば問題ありません。私自ら、粛清しに行くだけです」
私の剣を奪ってくれたのだ。それ相応のお返しという物をする必要がある以上、私も何も準備せずに行くのは危険だろう。それにしても、複数人で女性一人に暴力とは……
「すみません、シェスカさん。これ以上、苛立ちを抑える事が出来なさそうです」
「は、はぁ……あまり無茶な事はしないで下さいね?お嬢様(目が笑っていませんよ、お嬢様)」
「私の剣……ちゃんと返してもらわないと……ふふふふふふ」
私は屋敷へ戻り、演習用の木刀を持ち出した。木刀であっても、他人に振るった事は一度や二度ではない。しかし、それでも人を傷付けようと思えば出来るのが木刀だ。
真剣でなくても、変わりなく戦えるだろう。服は……適当で良いだろう。そう思っていた時、部屋を出た瞬間に見知った顔と遭遇した。
「お姉様……本当に行かれるのですか?」
「ミレイナ」
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