第2話「鍛冶師、メシア」
「あの子、今頃は彼女と上手く話せているかしら?」
「何だフレア、リーサが心配なら着いて行けば良かったじゃないか」
「あなたがそれを言うの?さっきまで気持ち悪いぐらいリーサの事を心配していたのに」
「き、気持ち悪いは余計ではないかっ?」
馬車に乗りながら、グレイルとフレアはそんな言葉を交わしながら屋敷を離れていた。シェスカ、ルルゥを屋敷へと残し、ミレイナの護衛として留守番をさせている。時間が経てばラルクの街へと行ったリーサも戻ってくる。
「それはともかくフレア、メシアに武器を作らせて大丈夫なのか?」
「ええ。前から頼んでいた事よ。そしてこれは、彼女が昔から望んでいた事よ――」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
学園へ入学する事が決定した私は、両親から勧められた鍛冶師のお店へとやって来た。そこには褐色肌でスラッとした女性が店を営んでいた。名前はメシアというらしいが、家名はまだ聞いていない。
そんな彼女に私の両親の話をした途端、まるで自分の子供のように優しく抱き締められたという状況になったのだが……私自身、正直理解が追えていません。
「あ、あの……メシアさん、苦しくなって来たんですけど……」
「もう少し抱き締めさせてくれないか?」
「そんな抱き心地良い物じゃないと思うんですけど」
「いやそんな事無いぞ。肌も柔らかいし、髪も艶々だし、それに……」
「それに?」
「――良い匂いがするぞ。くんかくんか」
「今すぐに離れて下さいっ」
「あーこら、暴れないでくれ!服が脱がせにくいじゃないか!」
「脱がせる必要性は皆無でしょう!?」
――数分後。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「満足、しましたか?」
「あ、あぁ……すまなかった。取り乱したようだ」
肩で息をしながら、そんな事を言い合う私とメシアさん。息を整えると同時に私は、周囲にある武器や防具を眺める。その間にメシアさんも息を整えて、私が見ていた武器を指差して言った。
「そっちの武器たちには、属性魔石ってのを使って打った奴だな。右から火、水、雷って感じだ」
「属性魔石って事は、魔法を直接剣に宿らせるって事ですか?」
「まぁそうだな。世間じゃそういうのを〈魔剣〉って言うらしいが、アタシにはその程度で
属性魔石で刀を打ったら、私が魔法で火や風を纏わせる必要が無くなる。だがしかし、手間が無くなる代わりにリスクは伴うのが世の摂理。戦闘にはやはり、この手にしっくり来る剣というのが妥当だろう。
「選好み、という言葉はその魔剣には使うつもりはありませんよ。ただ、一振りしか無い剣であれば、選好みしたくはなりますね」
「ほぉ……?」
「私はアルカディアという学園に入学するのを控えております。それ故に、一振りしか無い、自分の魂を預けられる剣が好ましいです。いつでも私の思い通りに振れる剣、それが今の私には必要な物です」
私になりに真剣に言ったつもりだったが、メシアさんは鍛冶師だ。どんな意見を言おうが、選好みする者を拒否するのであればこの申し出は拒否される可能性がある。だがしかし、それでも私は隠さずにそう言った。
実際に私は、自分の半身である武器が信用出来なければ思い切りの動きは出来なくなってしまう。それならば、信頼も信用もあると理解してた方が振りやすい。
「……じゃあアタシからも、一つだけ聞いて良いかな?」
「はい。どんな事でもどうぞ」
「じゃあ、スリーサイズを……」
「っ……」
「じょ、冗談だ。そこら辺にあった武器を手に取らないでくれ。真面目な話は慣れないんだ。少しは整えさせてくれ」
だとしても、この場面で冗談を混ぜなくても良いだろうと思う私である。そう思いながら、私はメシアさんの次の言葉を待つ。
「――アタシが聞きたいのは、嬢ちゃんが新しい剣を望む理由だ」
「ですから入学の為に……」
「それはさっき聞いた。だがアタシが聞いてるのは、そういう事じゃない。剣士として、アタシの剣を持つ理由を教えてくれないか?何の為に剣を握るのも含めて」
「理由、ですか」
「あぁ」
お父様にも以前、全く同じ事を聞かれたばかりだ。それと同じ答えを言えば良いだけなのだが、私はそれでも違う事を言うのが、この流れでは正しいだろう。私の中で、剣を握る理由は自己満足に近いものを感じるが仕方無いだろう。
「私が剣を握るのは、私自身の存在証明です。私はまだ、自分がまだ優れた剣士とは思えません。まだ11歳で何を言ってるのだろうと思うかもしれませんが、それでも私は証明したい。魔法ではなく、剣でも家族を守れる事を。自分自身を守れる事を……証明したいのです。つまり、そうですね。何が言いたいかと言いますと――私はもう二度と、自分に嘘は吐きたくないと誓える剣が欲しいのです」
「……ふむ」
「魔剣は要りません。欲しいのは、私の
そう言った瞬間、メシアさんはニヤリと笑みを浮かべた。そして私の頭の上に手を置き、周囲にあった武器を手に取って言った。
「アタシの作る武器は、その持ち主に見合った物を見定めているつもりだ。だけどその辺にある鈍らじゃ、恐らくお嬢ちゃんに見合った武器は無いだろう。だから……良いよ。そこに並んでる手抜きより、アタシが研鑽を捧げた一振りの剣を作ってやる」
「っ……あ、ありがとうございます!」
「何、良いって事よ。それよりも、何か武器に要望はあるか?」
周囲にある武器は、海賊が使ってそうな武器しかない。下手な武器を選んでも、恐らく私の要望に見合った武器は無いだろう。だがしかし、私が要望するならこれしか無い。
「私が要望するのは……――」
それから数日後、私のその武器を背負って入学式に望むのである。だが、私は知らなかった。入学式前にアクシデントに見舞われてしまう事を。
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