第14話「入学試験」
――〈学園アルカディア〉。
その学園は由緒正しい学び舎として、貴族の間で話題を振られない事は無いという程に有名な学園。その学園へと入学する為には、条件が二つ存在する。
一つは、魔法の各属性の適正がある事。あるいは、複数の適正を何かしら持っている事。そしてもう一つは、〈騎士科〉または〈魔法科〉への所属意志を持っている事が条件である。
その中でリーサは、魔法の適正がありながらも〈騎士科〉を選択し、妹であるミレイナは〈魔法科〉を選択した。そして、それぞれの試験方法は異なる。
〈魔法科〉であるミレイナの試験は、筆記と魔法の技量を見る簡易テスト。それとは逆に〈騎士科〉を選択したリーサは深呼吸をしながら列に並んでいた。
「……(大丈夫。大丈夫。あんなに剣を振り続けたんだ。対人演習であっても、遅れを取る事は無いはず……すぅ……はぁ~)」
そんな事を考えながら、リーサは短いスパンで深呼吸を繰り返して列に並んでいた。その様子を見ていた付き人であるシェスカは、目を細めて心配そうに眺めていた。
「ママ、リーサお嬢様は大丈夫かな?」
「伊達に数年間を剣に時間を費やしてませんが……どうでしょうね?演習とはいえ、実戦形式でのテストですからね。内容が当日まで不明というのは、学園長も粋な事をしますよ。本当に……」
「ほ、本当に大丈夫かなぁ!?」
「貴女が焦ってどうするんですか。はぁ……私達はただ見守るだけですよ。メイドですからね」
「うぅ、そうだけどー」
「そんなに心配なら、試験監督の方にメイドが付き添うのは有りか聞く事も出来ますが……恐らくそれをすれば、リーサお嬢様は不機嫌になりますよ。――自分の力で、勝利を勝ち取るという事に飢えているお嬢様からすれば、反則を疑われる存在は邪魔でしか無いでしょうね」
シェスカのその言葉を聞いた瞬間、ルルゥは列から戻って来たリーサへと視線を向ける。受け取った紙には対戦する相手の名と番号が記されている。それを眺めるリーサの表情は、とても真剣で下手な声掛けは余計だと悟らせた。
魔法での戦闘能力が高いルルゥでも、剣士同士の戦いがどういうものかは母であるシェスカとリーサの戦いで目の当たりにしている。それを踏まえた上で、ルルゥは小さく息を吐いてリーサを見つめて言った。
「そうだね。私もママと一緒に見守る事にするよ。だって、私もアルテミス家のメイドだもん!」
「……では客席へ向かいましょう。これ以上の干渉は、リーサお嬢様の気を散らす可能性があります」
「はぁい」
そう言葉を交わしつつも、シェスカは紙を眺めるリーサを横目で見る。その視線が微かに重なると、リーサは口角を上げて何かを言った。
声は届かなかったが、その口の動きを見たシェスカは口角を上げていた。そんなシェスカの様子に疑問を覚えたのか、ルルゥは首を傾げて問い掛けるのだった。
「ママ、どうしたの?頭でも打った?」
「……貴女は母を馬鹿にしているのですか?」
「でも今、何も無いのに笑ってたし」
「あぁ、特に意味はありませんよ。ただ……」
「ただ?」
客席の階段を上り、隣へ並ぶルルゥへ視線を送る。依然として首を傾げるルルゥに対して、シェスカはやはり笑みを浮かべ続けていた。それにまた疑問を覚えたルルゥは、何も納得出来ないままシェスカの次の言葉を待った。
やがて席へ座った時、シェスカは笑みを浮かべていた理由を言うのである。
「大丈夫です。リーサお嬢様は、誰にも負けませんよ」
「……え?」
その言葉の真意をルルゥが知るのは、これから数分後の話なのであった――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
対戦相手の名前は『カーツ・ネメシス』という人物だった。名前も聞いた事も無く、ネメシスという家名にも見覚えが無い。だが同じ騎士科を選び、剣を学ぶ事を選んだ同志だ。
これ以上ないくらいに楽しみさもあり、私の中で高揚感に満ち溢れている。微かに腕や身体が震え、武者震いが抑えながら列に並んでいるのが辛かったぐらいだ。
だがしかし、こうやって相手が決定して番号をもらった瞬間だった。私の中で何かが落ち着きを取り戻させ、平常心へと沈ませていく。だがそれはただ沈ませるのではなく、静かな闘志を抑えた状態の平常心へと変化した。
そんな状態を保っている中で、列から出た所でシェスカさんと目が合った。
「(大丈夫です。今の私なら、誰にも負ける気がしません)」
口で言うつもりも無いし、わざわざ声を出して言うつもりも無い。悪目立ちしてしまうよりも、今は目の前の戦闘に集中する事が私の出来る最善だ。ベストな状態で、ベストな動きを求め、ベストな結果を出す。その流れを掴む為には、私はこの試験で相手を倒して知らしめる必要がある。
私は戦える。――失敗を恐れる事はなく、何事にも臆さずに剣を振れると。
そう戦うと胸に誓いながら、私はシェスカさんに声を出さずに告げるのである。
――行って来ます、と……。
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