★★★ Excellent!!!
気付いていないだけで、誰しも傷ついている。 君名 言葉
小説に毒を吐くというのは、実は簡単なことではない。
SNSでの病んだ投稿とはハードルが違う。本来、文学作品とは、綺麗で、純粋で、ハッピーエンドであるべきだと私は思う。この汚い現実世界からの逃避手段の一種として、小説も存在しているのだと思っていた。
だが、この「行方不明」を読んで考えが変わった。
苦しくて辛い気持ちを吐露して文字に起こすというのは、ハッピーエンドより数倍も難しいのだ。
誰も、執筆によって自分が苦しい思いなんてしたくないに決まっている。それでも、世界に、他人に対して心の空虚な何かを伝えようとするこの小説に、感動した。
若くして酷烈な人生を送る主人公に、思わず胸が痛み、このような経験がなくとも自然とヒステリックになってしまう。
知らない世界に足を踏み入れたにも関わらず、喉は乾き、冷や汗が滴り、おぞましい感情に胸が支配されるのがこの作品である。
リアルすぎる描写に、人間が誰でも持つ痛みというものが、垣間見えた気がした。
気付かないだけで、私たちは常に傷つき、さながら濁世の闇である。
主人公の向こう側にいる作者が、この小説によって救われ、荊棘から抜け出せることを切に願いたい。