1-9 新生再起のロリドラゴン

◆サーミリヤ大森林:【ナナシ・リクヤ】


新たなる仲間、フィズを迎え入れた俺。


で、その後の生活がどう変わったか。





「……いやまぁ、大して変わってないね。狩猟スキルが上達して、このままだと森の住人になりそうってくらいだね」


「おい貴様、新しい世界を見たいという私の要望はどうなった」




───えー、結論から言えば、未だにこの森から足を踏み出しておりません。俺がもしラノベの主人公とかだったりしたら、読者にそろそろ飽きられてる頃合いだと思います。



いや確かに、正直俺もそろそろこの森からは出たいんですよ?


一応俺も文明人の端くれ。その文明から隔絶された地でワイルドに生きていくのにもちょっと限界がある。

────とはいえ恐ろしいことに、ほぼ地面に雑魚寝のこの現状にも慣れ始めている訳だが。しかしそうは言っても、そろそろ本格的にマットレスが恋しい。体が頑丈とはいえ、人として雑魚寝はいかがなものか。



………だがしかし、余裕ができると楽をしたくなってくるのが人間の性というもの。




何を隠そう、フィズはこの森の生態系において頂点に君臨している。したがって、大抵の魔物モンスターはおいそれと近寄ってこようとすらしてこない。


故に夜はぐっすりと熟睡できるようになったし、互いが側にいるときに限るが、契約によってフィズの桁外れの身体能力を共有できるようになったので、狩りの際も一方的に相手を蹴散らせるようになった。



つまり、正直この森で生きていくのがヌルゲーになってきたという訳なのだ。




ここにいれば食料にも水にも困らない。家族もできた。もうここが俺の家ってことでいい気もしてくる。住めば都とはよく言ったもので、俺は日々この森暮らしを快適にしていくのが楽しくなってきている始末である。そんなこんなで、あれよあれよと二週間ほど経過してしまった次第だ。




「さてはここから出たくないなどと、とんでもない甲斐性無しぶりを発揮しようとしておるな?しておるだろ。付き合いは短いが、私もお前という人間が大概わかってきたぞ」


「人をニートかなんかみたいに呼ぶんじゃないよ……仮にも契約者でしょ!」






本当に失礼なドラゴンだ。俺はこいつをこんな風に育てたつもりはない。



「何を言い出すか、貴様に育てられた事実はない!……というか、貴様ちょっと私に気を許しすぎてキャラ変わってきておるぞ!!」






とかなんとか、アホなことを言い合える程にこいつとは打ち解けている。少なくともそれはここ一週間の収穫だ。



俺はなんというかその、あまり人付き合いは得意ではない。だてに20年間ぼっちで過ごしてきていないというわけだ。

加えて自覚があるくらいに単純な人間性をしている。


こいつとは、所謂「吊り橋効果」というやつで猛烈に感情移入していただけで、暫く過ごせば冷静になって、上手く付き合っていけなくなるのでは、という懸念があったほどだ。




しかし一週間経てども、フィズと居て過ごし辛いと感じたことはなかった。




「……なんだ、その気色の悪い物欲しげな目付きは……」




それはひとえに、フィズが────あまりにも厳つい見かけによらず────コミュニケーション能力に秀でていたから、というのが大きい。



「おいリクヤ、折角なので故郷のことを話してみよ。異世界とやらには些か興味がある」


「リクヤ………その虫は本当に喰うのか?緑色で青臭いぞ…何、意外と美味とな?ほうほうほう」


「今宵も安心して眠るがよい。なに、我らに手を出そうと思う獣はおらんさ。奴ら、本能で力の差を感じ取っておる故な」



なんだかんだで、俺たちは似た者同士っぽい(と、俺は勝手に推測している)訳だが、特にフィズはなんていうか、「他者との触れ合い」に飢えている。

なので、こんな風にことあるごとにこちらの様子を伺い、かなりの頻度で声をかけてきてくれるのだ。




やがてそれは会話に繋がり、会話は相互理解に繋がり、それは親密になることに繋がる。なんだ、人と仲良くなるのってこんなに簡単だったのか、と、在りし日を想い後悔するほどに。………ま、こいつドラゴンだけど。




「……で、そこが問題でもあるんだよなぁ……」


「む、何の話だ」




このサーミリヤ大森林から少し足を伸ばした所に、大きな都市があるらしいことを、実は俺は知っている。


その名も「王都インティシウム」。そのままズバリ「インティシウム王国」なる国の主要都市だ。



実はサーミリヤ大森林も、件の王国の領土内に存在している訳だが、この森には危険な魔物モンスターが群生しているため近寄ろうとする人間はいない。


そんな、言わば「秘境」の類いであるここに対し、王都は王城を中心として築かれた城下町で、その歴史も古く、この世界的に見てもそれなりの規模の文明レベルであるとかなんとか。以上ライブラリ調べ。


初めの内は王国という言葉の響きに、元の世界でゲームをやってた頃なんかのワクワクが甦ってきたりしていたものなのだが……最近ある問題に気付いてしまった。



問題っていうのは、王都のその繁栄ぶりだ。ちょっと想像していただけるだろうか。


文明が発展した都ともなれば、それはもう人で溢れかえっているいるわけで。で、そこにこのごっつい好奇心の塊ドラゴンなんかを連れ込んだ日にはどうなるか……




「ちょっとした騒動だろうなぁ……いかんなぁ……確実に面倒なことになるなぁ……」


「だから、何の話をしておるのだと言うに」






結晶竜クリスタル・ドラゴンだって、れっきとした魔物モンスターの一種だ。いくら俺の”契約者”ファミリアと言ったって、全ての人に理解してもらえるとは限らない。



「……いやね、フィズが人間にでもなれたなら、どこにだって行けるんだけどなーとかそんな話」


「ふん、何だそんな事か。であればすぐに解決できる。


リクヤ、”ちょっと”痛いが我慢せよ」



とかなんとか、俺の冗談に何やらよくわからん返答をしたかと思ったら。





がぶっ。






俺の一本しかない腕を、唐突に何の躊躇いも遠慮もなく、





「痛っっっっっっった!?!?」


「こんなもの甘噛みの範疇であろう。男なのだから我慢せよ」


「どこが甘噛みだ!結構な量の血が出ちゃってるんですが!?っていうかいきなり何すんだ!!」



あ、ドラゴンの歯って一本一本がナイフみたいな感じなんですねーとか、そんな小粋なジョークを飛ばせる余裕があるはずもなく。俺は涙ながらに抗議する。しかし犯人は微塵も悪びれる様子もなく、鼻息を漏らし語る。




「まったく、実に騒々しい奴よ……忘れたか?私とお前の契約は血を介して魂を繋ぐもの。よって、互いに血を分け合えば、その繋がりはより深く強いものになる。


───従って、このような芸当もできるようになるわけだ」




次の瞬間、フィズの巨体を光が包む。キラキラと輝く光の欠片を散らしながら、やがて光の塊となったフィズの体が粘土のようにぐにゃぐにゃと歪んで──




ぽん、とか、ぽふん、みたいな間の抜けた音と共に、光が散って─────




「……ふーむ、とはいえ初めてのこと故、何分勝手がわからんが……まぁ、これで問題はあるまい」



そこには────




見慣れぬ少女の姿があった。




しかも、生まれたばかりの、何も纏わぬ姿で。



「………………ええええええええええええ!?!?」




……………なんか今日は叫んでばっかりだ。





◆サーミリヤ大森林:その後


「──という風な感じで、リクヤから”人間種である”という要素をできうる限り借り受けた結果がこの姿なわけだ。逆にリクヤが私の血をもっと取り込めば、竜種としての姿に近づくことも可能だろうな……む、聞いておるのかリクヤよ」


「……未だに頭が追い付いてこない」




目眩がしそうだった。


いやいやいや、そもそも何故幼女なんだ。っていうかフィズって雌だったってことなのこれ?


問題を起こすことなく街に入りたいって話だったのに、これじゃあ全裸の幼女を連れ回す腕無しの男とかいう稀代の変質者になってしまいそうなんだけど……寧ろ事態が悪化してしまっている恐れがある………



「……フィズ、雌だったのか……なんかこう、この世界のご都合法則で、契約で擬人化するとみんな幼女になるとかそんな……」


「失敬な、私は生まれてこのかたずーっと雌だ。


そのぎじんか?とかいうのはよくわからんが、この見た目は……ま、実際私も亜竜としてはまだまだ幼い部類だからな、仕方あるまい」



そう言うフィズをまたしげしげと眺める。おっと、流石に全裸のままだとヤバイので俺の外套を羽織らせてることはここに明記しておこう。



ステータス画面上はこうだ。






『フィズ』


HP:700/700


MP:900/900


|種族:


「亜竜種」デミ・ドラゴンLv10


「水晶蜥蜴」シャード・リザードLv10


「結晶竜」クリスタル・ドラゴンLv6


「竜人族」ドラゴニュートLv5



職業クラス

「契約者」ファミリア



状態:『血盟契約』ブラッド・サイン






「契約者」ファミリアとなったことでステータスが向上しているだけでなく、どうやら種族としてのレベルも上がっているようだ。レベルというのは、単に経験を積む以外にも上げていく方法があるらしい。

そういう意味では、条件が厳しいだけに契約の恩恵はかなりのものだと言える。



フィズが言うには、「結晶竜」はかなりの長命種で有名らしく、優に500年以上は生きるということだった。中でもフィズは100歳にも達していない若い世代の部類で、「水晶蜥蜴」と呼ばれる幼年期から成長したばかりなのだとか。



特筆すべきなのは、『竜人族』という新たな種族として生まれ変わったことだ。容姿の激変はこれのせいというより、この種族になったからこの容姿になった、という感じなのだろうか。



夜のような深みを持つ長髪は腰まで伸びており、ゆるゆるとウェーブがかかっている。うっすらと青みがかっており、鱗にもあった不思議な虹色の光沢があってとても綺麗だ。


幼さはあるが、目鼻立ちがくっきりとした美形で、可憐というよりはどこか神秘的な印象を受ける。宝石をくりぬいたかのような碧の瞳は、眺めていると吸い込まれそうになる美しさがある。


背丈は俺の半分ほどで、まだ体の凹凸はあまりない。つまり人間換算で言えば、フィズは10歳前後の子供ということになる……そう、あの巨体でだ。つまり、成熟した「結晶竜」はもっとデカいということなのだろうか……




「お前がロリでよかった……変な意味じゃなくて」


「ロリ…?とは、なんだ?」



俺の呟きを今のお前に拾われるのは不味いので黙秘を貫かせてもらう。



────しかしこうして見ると、『竜人族』と言うだけあって、フィズには人間離れした特徴があった。



頭には二本の角がひっそりと生えているし、外套から覗く手足には、よく見れば鱗や結晶がまばらに生え、腰の辺りからは、だいぶ短くなったが立派な尻尾も生えている。

ファンタジー系の世界でも、ややニッチな部類の存在だが、そういう点では俺のぼんやりとしたイメージと大体合致する見た目をしている。



「……まぁ、色々生えてるけど、外套をフードみたく被れば平気か……?」


「そうか!では早速王都へ向けて出発だな!ふふん、前々から一度は行ってみたいと思っておったのだ!!」




目を輝かせながらこちらに乗り出してくるフィズ。

いや待て、そのなりでその体勢は不味い。見えちゃいかんものが見えてしまう。ちょっと倫理的によろしくない。


俺は慌てて目をそらしながら、この先の事を考えて……ため息。ちくしょう、そういうちょっと危ないイベントとか渡りたくないんだけどなぁ!どうせゲーム風だからってこんなフラグはたてたつもりはない!




「……こりゃ改修が必要だな。俺の未来と名誉のために」


「何故だ!こうして人の姿になったからもうよいではないか!」


「むしろ人の姿だから問題なんです!ちょっと大人しくしてろ!」






◆大森林出口付近:【変質者予備軍】


森から足を踏み出した俺は、その太陽の眩しさに目を細める。常に霧の発生しているあの森では、このように日の光が差し込んでくる場所はほとんどない。目の前にはうっそうと繁る木々の群れは無く、ただ広陵な草原が広がっているばかりだった。


遠くの方に目をこらせば、ぼんやりと建造物が見える。あれがこれから向かう「王都インティシウム」だろう。




「む……この布、というやつ……ごわごわして好かん」


「我慢しろって。結構作るの大変だったんだから」




隣のフィズには、外套を裁断し、インベントリのアイテム作成機能をフルに使うことで、なんとか服らしく加工したものを着せている。といっても、マントをそのままワンピースに無理矢理改造したようなものなので、着心地は随分と悪いかもしれないが、そこは我慢してもらうしかない。



「……俺みたいなの、受け入れられるかな」



村の事を思い返す。この奇妙な身の上は、人と関わっていく上でまた壁になるのではないのだろうか。


しかし、あの時と違うこともひとつある




「………ふん、少なくとも、お前が孤立することだけはあるまい。なに、ここがダメでも、人の都なぞ探せば他にいくらでもあるのだろう?」


「……それもそうか。


よし、行こう」






今の俺は、を言う機会が減った。

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