2019/08/15(木)

 昨日の考えをまとめて、「小説とは何か」という問いに対する私なりの答えを出すことにする。小説とは、架空の時間が流れる文章のことである。昨日も書いたように、ものごとの性質について書き並べただけの文章は小説ではない。それは評論とか哲学書とか、別のジャンルに属するものだ。また、現実の時間の流れを記録した文章も小説ではない。それはある種のエッセイ、ノンフィクション、あるいは伝記などである。われわれが経験していない架空の出来事がそこに書かれていて、しかもそこで時間が流れているというリアリティがあるときだけ、その文章は小説であると言われる。

 小説を読むとき、われわれの現実の時間も流れているということを忘れてはならない。しかしその現実の時間と小説内の時間とでは流れる速度が違う。例えばわれわれが小説のある一ページを一分かけて読むとき、小説内では三日の時間が経過していたり、あるいは逆に、そこに書かれているのはある登場人物が一瞬のうちに思ったことであったりする。時間の圧縮と伸長。これはおそらく小説の重要な技法の一つだろう。演劇や映画では、時間の伸長は(スロー再生などを作品内で用いるごく特殊な場合を除いて)できないし、時間を圧縮することもできない。圧縮しているように見えるのは、場面と場面のあいだの時間を飛ばしているからであって、例えば「私は次の三日間もその日と同じように過ごした」と書くのと同じ仕方で時間を圧縮することはできない。小説だけが、時間の長さを自由に変えることができる。これが何を意味するのかについては、また日を改めて考えたい。


 明日からしばらく海外に行くので、ウェブ環境次第では更新ができないかもしれない。その場合は、書き溜めたものを帰国後に公開する。

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