36.やらかしました

「ほ、本当に会わせてくださるの? そもそも私に会ってくれるかしら......」


 心配そうにぶつぶつ呟きながら後をついてくるその子を見て思わずクスッと笑ってしまう。


「大丈夫ですよ。あ、でもその服は汚れちゃうかもしれませんね」


 きっと高いのであろう白と水色のドレス。騎士長がいる訓練場に行けば土で汚れてしまうだろう。

 そう思って言うと、思ったより衝撃を受けたようで、


「そ、そんな、私、でもこの色はあの方の、会うならこの色の服で......」


 と言って涙目になってしまう。


 ーーあ、そうか、騎士長の髪は白だもんね。


 確かに少しでもアピールしたいのであれば、騎士長の髪の色が入った今の可愛らしいドレスが良いのだろう。とはいえ汚してしまうのはなんとももったいない。

 そこで少し思案し、


「あ! それなら、私の服を着ますか? この間街で買ってきたばかりなので新品ですよ」


 と言うと彼女は少し迷った後、無言のままこくん、と頷いた。




「ここが貴女の部屋なの?」


 一歩中に入ったその子は目を丸くして固まっていた。装いからして貴族であろうその子の部屋からすれば、かなり狭く感じるのだろう。


「はい。ここが私の部屋です」


 そう答えると案の定、


「こんな狭いなんて......」


 とぼそっと聞こえてきたが、どうしようもないことなので軽くスルーさせてもらってシュルカも中に入った。

 そして、


「ここにあるのがこの間買ってきた服です。」


 と言ってクローゼットを開く。瞬間その子は、これにするわ! と青いワンピースに飛びついた。


「え? それで良いのですか?」


 ーー騎士長の髪の白にこだわっていたはずでは?


 だが、その子がこくこくと激しく頷くので、


 ーーこの子にとって着られるものがこのワンピースくらいだったのかな? やっぱり新品とはいえ庶民のものだしなぁ。


 と自分を納得させ、了承した。

 そしてその子の着替えを手伝いーーこのドレスはいつか取りに来るから置いておいてちょうだい! と言われたーー再び訓練場へ向かう。




 訓練場に行くと、騎士長は外にはいなかったのでレオンの世話でもしているのだろうと思いあたり、獣舎の方へ向かう。


 と、訓練場へ近づくにつれその子はシュルカの後ろにぴったりと張り付いて隠れるような体制になっていった。


「ちょ、歩きにくいです......!」


 そう言うとはっ! と赤い顔をして服にしがみついている手は離してくれるのだが、またすぐにひっついてくる。仕方なくそのまま獣舎に入ろうとすると、


「こ、この中に、いらっ、いらっしゃるの?」


 と今までで一番緊張した声色で聞かれた。


「はい、中にいらっしゃると思います」


 と答えると、


「そ、そう。そうなのね」


 と言って深く深呼吸して、


「貴女、ここまで連れてきなさい」


 とご命令なさった。

 正直言ってその命令には


 ーーなんでやねん。


 と突っ込まずにはいられなかったが、自分の立場を知られている以上変に邪険に扱うわけにもいかないので、


「わかりました。少しお待ち下さい」


 と言ってシュルカだけ中に入った。

 そこはいつも通り薄暗かったが、シュルカにとってはいつも通りの薄闇で安心できるくらいだ。


 奥に向かって歩いていると、きゅんきゅ~ん、と甘えた声が聞こえてきた。その声の求めるところを察して陽の当たるところにあるひとつの柵を開け、銀色の毛玉を抱き上げる。


「フテラ、ここに騎士長は来てる?」


 そう問いつつ柔らかい毛を撫でると、


『んきゅ~ん、きゅ!』


 と気持ちよさそうに返事をした。

 その声に微笑みつつ


「ありがと」


 と伝え、更に奥に向かう。

 そしてそこにいた人影に向かって


「騎士長。シュルカです。騎士長にお客様がいらっしゃっているので呼びに来ました」


 と呼びかけると、驚いた顔がこっちを向く。


「シュルカ? この時間は君は......って、え? お客様? 俺に?」


「はい」


 返事をすると騎士長は、ふむ、と頷いた。


「ありがとう。伺おうか」


 入り口におられますよ、と言って案内をし、入り口近くから見えた青い服に向かって


「あのーー」


 と話しかけようとして、


 ーーそういえば名前を聞いてなかったな。


 ということに気がつき呼びかけるに留まったのだが、その瞬間青い軌跡が横を通り過ぎ、シュルカの後ろにいたリード騎士長にびたっとくっついた。


「あの! あの、私......!」


 上ずった声で叫んだその子は、騎士長にしがみついたまま騎士長の顔を見るべく上を向いたその瞬間、真っ赤だった顔を一転、真っ青に染め上げたかと思ったら、


「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁈!!!!」


 と奇声を上げて後ろ向きのまま凄い勢いで走り去った。


「「...... 」」


 気まずい沈黙が流れる。

 抱きつかれたときには目を白黒させていた騎士長は、今や枯れ木のように呆然としている。


「あ、あの......し、失礼しますッッ!」


 居たたまれなくなったシュルカは、そう叫ぶが早いか女の子の向かった方へ走った。


 ーー逃げたわけじゃないです騎士長! でも、

 なんか、本当に、ごめんなさい!


 そうして心の中では謝罪しつつも、とりあえず今は女の子を優先しよう、とシュルカは決心した。

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わたし、隣国の人質ですが幸せになります 瓶覗しろ @kamenozoki-shiro

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