34. 犯人に会いました

「あの...貴女。」


ん? 何か聞こえた気がするけど......私に話しかける人なんて何人もいないし、今は就業中のはずだよね。私は師団長にフテラを連れてきて~と言われてフテラを迎えに行くところだけども。


一度立ち止まったものの、そう思い直し歩き始める。

すると。


「ちょ、止まりなさいよ、貴女よ。シュルカ・シャリリグラン!」


今のは間違い無く名前を呼ばれた。

しかも、シャリリグランのことまで知っているってことは国の中枢に近い人なの? 私、なんかやっちゃったっけ......?


恐る恐る声の元を振り返る。

が、誰もいない。


「......あの?」


一応呼びかけてみると、


「な、何よ?」


なんて自分から話しかけてきたくせに疑問形の声が聞こえ、同時に柱の後ろから白いフリルがふるふると震えているのが見えた。


ーードレス?


ゆっくりと後ろに回ってみると、そこにいたのは綺麗な白と水色のドレスに身を包んだ可愛らしい女の子だった。女の子、とは言っても体は私より小さいが恐らくは同い年くらいなのだろう。綺麗な金色の髪と桃のような淡いピンクの目は、思わず愛でたくるような可愛らしさがあった。


「......私のこと、お呼びになりましたか?」


視線を合わせて尋ねる。


ーーたっぷり10秒もの沈黙の後。


「貴女、なんで......。」


目を落ち着きなく左右に揺らしながらぼそぼそ、と何かを言った。


「あの、もう一度言って頂いても良いですか?」


もう一度尋ねると、その子はうっ、と怯んだ一瞬ののち、


「あ、貴女っ! なぜそんなにも明るいのよ⁈ 」


そう叫んだ。


ーー 明るい?


「えっと、それはどういう?」


「だから! なんでそんなに元気なの⁈ おかしいでしょう⁈」


どういう意味だ。私が元気だとおかしいのだろうか。

あっ、もしかして、人質のくせに元気に暮らして調子に乗るなってことかな?


「ーー申し訳ございません。調子に乗っているつもりは無かったのですが......。」


謝罪をして、深く頭を下げる。

だが、


「な! 貴女、調子に乗ってたの⁈ 」


という言葉が降ってきて目の前の人の顔を見上げる。


「は?」


「だっ...だから! 貴女、私のこと馬鹿にしているのね⁈ せっかくこの私が水をかけてあげたり夕食を抜いたりしてあげていたのに! 貴女、全部知ってて調子に乗って......あ。」


ーーーーあ。


「ちょっ!」 「ちがっ!」


声が被る。が、怯んだその子とは反対に私は言葉を続けた。


「あれら全部、貴女がやっていたのですか?」


「ぐっ、......だ、だから、ちが、......いえ違わないけれど。」


どっちだ。いや、これは確実にやってるよね。


そうではなくて、いや、違くて......と繰り返していたその子は、数秒後に一旦沈黙すると、キッとこっちを睨んだ。


「だっ、大体、貴女があの方と仲良くなさっているからいけないのよ! わっ、私の、私の見つけた方よ‼︎ 」


そう叫ぶその子の瞳は、涙が溜まっている。


ーーあの方、とな?


どうやら、相手が取り乱すとこっちが冷静になるというのは本当のようだ。


「あの方、とはどちらのお方でしょうか?」


私の質問を聞いたその子は、決まっているでしょ⁈ と言った様子で目を見開く。


「街に! お買い物!」


街に、お買い物。


最近の自分の行動を思い出しても、誰かと街に買い物に行ったのは一度きり。そしてその誰かとはーー、


「あ!」


リード騎士長か!

そう思い至って手を打つ。


そして諸々納得した。

リード騎士長は爽やかイケメンだ。しかもあのマッチョ軍団ーー魔物駆りーーの中にいるので、その存在はとても目立つ。女官さんたちも見かけるたびに頰を赤らめ、近くに私がいれば羨望の眼差しが痛い。しかし本人は女性が苦手で、贈り物なんかも基本は断っている姿しか見たことがない。

きっとこの子も騎士長が好きなのだ。そして羨ましいがあまり、色々と嫌がらせをしてしまったということなのだろう。


それはなんて、ーー可愛い。

その真っ直ぐな乙女心はとても綺麗だ。できるなら、手伝ってあげたいと思うくらいに。


「......その方の元へ、お連れしましょうか?」


そこまで考えて心を決めると、そう提案する。

するとその子は、驚きの表情ののち、びっくりするくらいキラキラした目でこっちを見た。

だが、淑女としてあるまじき顔をしたと思ったのだろう。はっ、と何かに気がついたような表情をすると僅かに顔を赤らめてごほん、と咳払いし、真面目な目でこう答えた。


「お、お願いしても、良いかしら?」


緊張しつつも、その答えは素直だ。

そしてその前の百面相も、女の私からしても可愛らしい。

これは、もしや騎士長落ちるかな。

少なくとも、騎士長の苦手な要素の1つ、裏表のある性格はしていない。いや、正確には隠せていないだけなのだけど。


そう期待しつつーー何かを忘れていた気もしたがーーその子を連れて騎士長の元へ向かった。

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