33.お土産を渡しました

「そう、それでその弓になったんだね。」


 リィナさんが頷く。


「はい。ひとまず弓自体の練習をしなきゃいけないので、魔道具としての使用はまだ先ですし。」


 そう言って弓を撫でる。実際、練習を重ねるにつれて手への馴染み方も良くなってきていた。


 それもそうだね、と言いながらリィナさんが綺麗な笑顔をこちらに向けた。


「街はどうだった?」


「そうですね......シャリリグランではできなかった買い物もできて凄く楽しかったです! あっ、そういえばリィナさんにお土産を買ってきたんです!」


 そう思い出して1つ手を打つと、鞄からゴソゴソと取り出す。


「お土産?」


 リィナさんは驚いた顔だ。


 私からすれば散々お世話になったのだからお礼にお土産を、というのは当たり前のことだ。

 そして贈り物の経験に乏しい私が散々考えて決めたのは、お守りだった。というのも、この国では騎士がいる家族は節目ごとにお守りを贈るのだそうで、街にもたくさんの種類があったのだ。

 その中で選んだのは、濃いブルーと白が綺麗に入り混じった模様の布が金平糖の様な形に編まれ、更にその先に青い房がついたキーホルダーのような形のものだった。


「これは......凄く綺麗だね。」


 嬉しそうなリィナさんを見てほっと息をつく。

 リィナさんはしばらくキーホルダーを眺めると腰から剣を取り、剣の柄の先にキーホルダーをつけた。


「これでシュルカは常に私を守ってくれているというわけだね?」


 ちらっとこっちを見て笑ったリィナさんがイケメンすぎて、思わず顔が赤くなるのを感じた。


 かっこよすぎるよ! 女官さんたちが陰でキャーキャー言うわけだよなぁ。たまたま色々教えてもらって接点があっただけなんだけど、なんだか得した気分だ。


 そうやって2人で向かい合って微笑みながら、ほくほくと幸せに浸っていると。


「私もそれをもらえるのかな。」


 そう肩越しにボソッと呟く声が聞こえてきて、私は驚いて振り返りつつ、あ、この声はーーと思って距離を取る。


「やぁ、シュルカ、リィナ殿。今日は一緒に弓の練習をしようかと思ってね。」


 なんて言いながらさりげに近づいてきたその人は。


「ーーカイル。今日、じゃなくて今日、だよね⁈ 」


 やっと暇になったんだよね~、と言ってここ数日昼休憩中に現れては午後はずっとシュルカの横で剣を振っていたカイルだった。


 いくらなんでも王太子にしては暇すぎじゃないかな、と私は思っているけど。


 ちなみに、カイル始めラーサやロウラにもお土産は買っていない。その理由にはもちろん金銭的なものもある。だが、1番の理由は違う。


「もう、カイルにはお土産は買ってないよ。4人で遊びに行こうってこの間話したでしょ。」


 ロウラたちのところへお見舞いに行ったとき、いつか街に遊びに行きたいね、なんて話をしたのだ。何か買うのであれば、そのときにみんなの意見を入れて買いたいと思っていた。

 でもやっぱり、王子が外に出るのは難しいかな。

 その心配がなかったわけではないけれど。

 そう考えながらカイルを見ると、カイルが優しく微笑んだ。


「そうだったね。近いうちは無理かもしれないが、数ヶ月後には行けると思うから楽しみにしているよ。」


 その返事に安堵して、なら良かった、と返すと、もう一度ニコッと笑ってくれた。


「それにしても。」


 カイルが話を続ける。


「弓がなくて買いに行ったという話だったね? 今日は私も弓をやろうと思って倉庫に行ったけど、普通にあったよ? 弓。」


 剣の練習をするなら私の横でやる必要ある? とずっと疑問に思っていたのだが、今日はどうやら弓をやるみたいだ。ーーじゃなくて。


「え? そんなはずないけど...。」


 ちょっとその言葉は聞き捨て難い。

 すると、横で話を聞いていたリィナさんもこう言った。


「あぁやっぱりあったよね。私もこの間シュルカの弓を見繕う前に、と思って見に行ったらあったからおかしいなとは思ったんだけど。」


「えっ! そうなんですか?」


 となれば、これはカイルがからかっているというわけでも無さそうだ。


「前に騎士長と見に行ったときは、確かに変なのが数個あるだけだったんですが......。」


 うーん、とみんなで考え込んだと思ったら数秒後にカイルがあっ、と声をあげた。リィナさんと2人でカイルを見ると、あ、いやごめんなんでも、と言葉を濁し、


「まぁどっちにしろ、フテラの魔力に合わせて、となればいずれ買う必要があったのだろうし、シュルカの気分転換にもなったなら良いんじゃないか?」


 なんて雑にまとめてきた。

 私としてはその濁した言葉の先が気になるのだが、カイルが話さない以上どうしようもないし、言っていることは確かだ。


「...そうだよね。それより練習しなきゃだしね!」


 そう答えてリィナさんと別れると、2人で訓練場に向かった。




 -・*・-

 訓練を終えたあと、私は食堂向かって爆走していた。ちなみに心の中では


 厳しすぎるよカイル! 自分ができるからってあんなにこにこしながら‼︎


 というカイルへの愚痴で溢れていた。

 そう、カイルは私より断然弓が上手かった。まぁ王太子として英才教育を受けてきたのだから当たり前といえば当たり前なのだけど。

 そして練習にあたっての自身への姿勢はとても厳しく、今日は同じ練習をしていた私にもその横槍がグサグサと飛んできていた。


 ーーとはいえ夜ご飯ギリギリって、そりゃないよ!


 食堂を使えるのは6時から8時までと決まっている。そして練習が終わったのは7時半、食堂までは歩いて10分かかるから、食べる時間も考慮するとかなりギリギリだった。


 なんとか無事にーー幾度か女官に二度見か三度見くらいされたかもしれないけれどーー辿り着くと、カウンターへ向かう。


「あの、私のご飯はどこに?」


 尋ねると、担当の女官が困惑の目を見せた。


「シュルカ様は本日は夕食はいらないとお聞きしておりましたので、既に片付けてしまったのですが、違いましたでしょうか?」


 そして言った言葉に私は開いた口が塞がらない。


「え、いらない?......え?」


 よりにもよって、このお腹がめちゃくちゃ空いているときに?


「は、はい。あの、そのように申しつかっております。」


「そんな......。」


 ちなみにここのご飯の余りは回収され作り直されて女官や下働きの人たちのご飯になるので、実質私の分はないということだ。


 ぐぅぅぅぅ。


 虚しくお腹の音は鳴り響いた。

 とはいえ、その悲しみを女官さんにぶつけることができるはずもなく。


 私は沈んだ気持ちのまま部屋に戻り、少しでも空腹を感じる時間を短くしようと、早々に布団に入ったのだった。

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