31.弓を買いました

「とりあえず3つじゃが...。」


カウンターの上に弓を並べながらおじいさんが私を見た。


「弓の特性を見るに、お嬢さんは魔物駆りとお見受けした。となればかなり値は張るが、懐は大丈夫かの?」


うっ。

痛いところを突かれたと思ったが、すぐさまリード騎士長がこう答えた。


「あぁ、それなら魔物駆りの予算からお金が下りるから気にしなくて良い。この子に1番あったのを選んでほしい。」


そしてそのまま私に目配せする。


「シュルカ専用ではあるが、魔物駆りとして使うものだからね。ここは出させてもらうから安心してくれ。」


申し訳ない気持ちもあるが、今はどうしようもない。いずれ必ず返そう、と決めて今は頷く。


「それじゃ選ぶとするかの。ま、1つずつ持ってみたらわかるじゃろ。」


おじいさんはそう言うと、早速1番右の黒い弓を一本の矢と一緒に私に渡してきた。


「それじゃ、簡単に魔力を流して弓を打ってみるのじゃよ。」


言いながらカウンターの奥の的を指差す。


「えっ実際に打つんですか⁈ 私、弓は1回も持ったことすら無いですけど...。」


下手したらつるすら引けず、引けたとしてもまともに狙って打てるはずがない。さすがに危険じゃないだろうか?


だが、おじいさんは意味ありげににやっとすると、


「大丈夫じゃよ。そもそも、からの。ま、詳しいことは置いといて実際にやってみればわかることじゃ。」


何だか気になる言い方だったが、ひとまずやってみようと思って弓に魔力を流し込む。そして矢を構えようとしたが、その瞬間、


バチィッ‼︎


と弓が音を立てた。


「わぁっ⁈」


驚いて思わず弓を落としてしまった。だが、慌てて拾ってもう一度魔力を流そうとしても流せないことに気がついた。

どうしよう、壊しちゃった⁈

そう思って恐る恐るおじいさんの方を見ると、


「ふむ。それはダメじゃな。次のもやってみなさい。」


と言われ、言葉に従って真ん中の弓を取ると、今度は初めから魔力が流せなかった。するとまた次、と言われたので左の弓を取ると、手に取った瞬間じわっと掌が暖まるのを感じた。


ーーこれ、だ。


何の根拠もないけど、そう例えばあのとき、フテラと呼び合って出会ったときのような繋がりを感じた。

その、何百年も生きてきた木の幹のような深い色合いをした弓にゆっくりと矢をつがえ、つるを引く。


とんっ。


という音がしたと思うと、矢は見事的の真ん中に刺さっていた。


「えっ! 」


驚きの声を上げると、ふぉふぉっと笑いながらおじいさんが説明してくれた。


「魔道具と人にも相性はあるのじゃよ。お嬢さんの場合、火の弓じゃな。魔物駆り特化の弓は魔法師から魔物を通して弓に魔力を流し込まれ、魔道具として使われる。つまりその弓はお嬢さんの魔力の中に残っていた、魔物の相棒の魔力と引き合ったんじゃろう。そして今的に当たったのは、弓が認めた証。とは言ってもこれは初めの一本だけだからの、練習はしっかりとするんじゃよ?」


なるほど、火の


「「えっ?」」


騎士長と声が被った。恐らく、いや確実に、騎士長も同じ疑問に突き当たったのだろう。だって、フテラはフェンリルなので光魔法に適性が高いはずなのだ。それなのに火の弓と引きあったとは一体どういうことなのだろうか。


その疑問をおじいさんに伝えると、


「理由は分からんのぅ。じゃが、魔道具が間違えることはない。確かにあの火の弓がお嬢さんの相棒と相性が良いのじゃよ。使っていればいつかわかるじゃろ。」


とあっけらかんと言った。


正直、それで良いのかそれで⁈ と思わなくもなかったのだが、いざとなれば交換もすると言ってくれたのでお金を渡しお礼を言って店を出た。




「...大丈夫ですかね?」


とはいえ心配にはなるもので、一応騎士長に確認してみる。


「うーん、まぁ、フテラもただのフェンリルでは無いみたいだしなぁ...。ともかく、使ってみなきゃ分からないだろうね。」


騎士長も首を傾げつつ、そう言った。


あ、そうか、そもそもフテラは卵から生まれてるしフェンリルの特徴が全部当てはまるとは限らないのか...。


相棒のそんな忘れがちだった特徴を思い出した。


「まぁおじいさんが言うように魔道具を信じるなら、間違いはないんだろう。...それより、服を買いに行くんだろう?」


騎士長は不安げな顔をしていたのであろう私を見て、こう仕切り直した。


ーー服!


その言葉を聞いて今日の目的ーー元はついでの目的だが、私にとっては割と本命の目的ーーを思い出して下がりかけていたテンションが一気に上がる。

もともとシャリリグランでは、必要最低限の枚数を身長が伸びるたびにあちこち直しながら着ていた。つまり今日は、久しぶりに新しい服が買えるのだ。


しかも今の私の懐状況なら、ある程度自由に服が買える!


そう思えば、先の不安なんて吹っ飛んで、意識せずとも口は弧を描く。


「そうでした! もうあまり時間無いですね、急いで回っちゃいましょう!」


そう言うと騎士長の腕を引っ張り、ラーサに事前に聞いておいたお店に向かって走った。

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