30.似た者同士でした

 少し早歩きで屋台から離れて行く騎士長を追うと、騎士長は少し行った先の広場で止まり、近くのベンチに腰掛けた。

 そして私にも座るよう目で促し、


「さっきはすまない。おやじさんは俺が子供の頃からの知り合いだから、何かと世話焼きなんだ。だからシュルカは気にしなくて良いよ。」


 と困り顔で言うものだから、私も慌てて頷いた。


「大丈夫ですよ! 私だって騎士長のことは上司かつお兄さんみたいに思っていますし......。第一、私なんて騎士長みたいにかっこよくて優しい方には不釣り合いですよ。」


 まぁ、これは本音だ。リード騎士長は爽やかなイケメンで、しかもこの若さで騎士長にまでなっている凄い人なのだ。庶民上がりで、隣国の人質なんて危うい立場の私にはもったいない。優しい人だからこそ幸せになってほしいし、それはシュルカでは果たせない役目だ。

 だが、それを聞いた騎士長は、


「違う! シュルカは十分可愛いし俺どころか......ってあぁ、そうじゃないな。えっと、もちろん俺も彼女だとかそういう風には......いや、だからと言ってシュルカがダメとかそういうのでは無くて! いや、それも違うな。」


 とそこまでを一気に言うとひとつため息をつき、私の方を見て苦笑するとこう言い直した。


「......俺は、こういうのに慣れてないんだ。貴族の女性の、あの押しの強さがどうしても苦手で避けてきたからだろうな。シュルカとは話せるから不思議なんだが......まぁ、とりあえず、変な空気にしてしまってすまない。冷めないうちに団子を食べてしまおうか。」


 そして私に団子の串を一本渡そうとする。


「くふっ。」


 が、私は笑いだすのを耐えきれなかった。

 だって、騎士長がまさかこんなに取り乱すとは思っていなかったんだもの。

こんなにかっこよくてモテそうなのに、本人は女性慣れしていなくてこの焦りよう、意外でしかない。


「ふふっ、すみませっ、ふ、でもそんな取り乱さなくても......ふ、ふふふっ。」


 どこかのツボにハマってしまった私は、しばらく笑いが止まらなかった。

 そしてどうにか笑い終わって


「...ふぅ。笑いました。」


 と言うと騎士長はじとっとした目で私の顔を見た。


「あぁ、凄く楽しそうだったぞ? シュルカ。」


 恨みがましい口調だ。さっきの取り乱しようといい、今までに見たことのない反応。


「ふふ、すみません。でもなんだか、騎士長でも苦手なものがあるのだと思うと親しみがわきますね。」


 すると少し驚いた顔をする。


「普通はそんなのだらしないと呆れるところだと思うが......親しみ?」


「はい。私が貴族の考え方に慣れていないからかもしれませんが。私は普段の騎士長のなんでもこなせちゃう器用なところと、今の騎士長の苦手なものに対して不器用になってしまうところ、どっちもあるからこそのリード騎士長だと思いますし、呆れたりするはずないですよ。」


 そんな言葉を意外そうに聞いていた騎士長は、


「そんな考え方もあるのか...。」


 と呟くと、


「ありがとうシュルカ。気が楽になったよ。」


 と言ってにっこり笑った。

 その姿を見て強く思う。


 ーー何よりこの笑顔があるなら、何も問題ないと思うんだけどなぁ。


 と。




 その後、団子を一緒に食べ(めちゃくちゃ美味しかったので今度また行こうと決めた)、ひとまず1番の用事を済ませてしまおうと武器のお店に向かった。


 中に入ると、壁に飾られている多くの武器が薄暗い店内でちらちらと光を反射して、なんだか宝石箱の中の様に綺麗だった。

 思わず私は


「うわぁ...凄く綺麗。」


 と声をあげて見入ってしまう。

 すると、誰もいないと思っていたカウンターの下からニョキッと人が出てきて


「良い目をしてるのぉ? お嬢さん。」


 なんて声をかけてきた。

 いきなりの登場に驚いて後ずさりしてしまった私の肩をぽん、と叩いたリード騎士長がその人物に話しかける。


「リィナ・カロリアという者の知り合いなのだが、預けているものはないか?」


 そのおじいさんは納得したような顔で頷くと、


「あぁ、あやつの知り合いかの。どうりで、じゃの。うむ、預かっておる。今持ってこよう。」


 と言って奥に入っていった。

 それを見送ってからこう尋ねる。


「......騎士長、リィナさんの預かりものってなんですか?」


 騎士長はあぁ、と言って眉尻を下げた。


「俺は女の子の団員を持ったことがないから、どういうところを気をつけたら良いのかとかわからなくてな。リィナに先に見ておいてもらって、いくつか見繕ってもらったんだよ。」


「え......それじゃあ、預かりものって私の弓のことなんですか?」


「そうだよ。何か不都合があった?」


 その言葉には首を横にふる。


「......私、こんなに色々して頂いちゃって良いんでしょうか。」


 ふと数ヶ月前の自分を思う。あの頃、私は本当に普通の庶民だった。それが、今やたくさんの人にたくさんのことを教えてもらって、相棒までできて日々暮らすのに事欠くどころか楽しむ余裕すらできている。

 こんなにも上手くいってしまっていることが、少し怖くなる。本当に私はここに、


「私はここにいて良いのかって考えてそうだ。」


「ッ!」


 思いっきり見透かされてた?


 ふっ、と騎士長が笑った。


「ここに来る前、シュルカが俺に言っただろう。どっちもあるから俺なんだと。俺は割とそれに納得したが、シュルカは自分にはそう思わないのか?」


「あ...。」


「忘れてたみたいだね? ーーシュルカは、自分に厳しすぎるんだ。もっと俺たちを頼ってくれて良い。」


 そう、なのだろうか?


「頼ってほしい、かな。可愛い可愛い妹に頼られるとお兄ちゃんもお姉ちゃんも嬉しいんだよ?」


 ーーーーん?


「ちょ、せっかく良い感じなのにそこでお兄ちゃんですか?」


 今のは明らかにちょっとした感動シーンではなかろうか。お兄ちゃんにぶち壊されたけど。

 すると、騎士長がもう耐えられないといった様子で笑い始める。


「ははっ! 少し意趣返しだよ、さっきのシュルカはかなり笑ってくれただろう。」


 その言葉に口を尖らせる。


「ーー思ったより、執念深いですね?」


 騎士長もニヤッと笑ってこう重ねた。


「ーー思ったより、からかいがいがあるね?」


 視線がかち合うと、2人でははっと声に出して笑った。


 途端、出てきたおじいさんがんん?と私たちを見やって、


「なんじゃ、仲睦まじいのぅ?」


 なんて言ったので、2人して声を合わせて否定するのだった。

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