29.街に来ました

「うっわぁ‼︎ 本当に綺麗な街ですね!」


 そう言って走り出そうとした瞬間後ろから抱きしめられて思わず固まると、目の前を馬車が走り抜けていった。


 それを見送ると、後ろからふぅ、と溜息が聞こえる。


「......全く、放っておけないな。」


 そろっと後ろを振り返るとリード騎士長が苦笑していた。


 ーーうぅ、やってしまった。


 実は今、リード騎士長と2人きりで王都の街に来ている。そして街のあまりの綺麗さに、そしてシャリリグランとの違いにとても興奮してしまったシュルカは、危うく馬車に轢かれそうになって騎士長に助けられたわけだが。


 そもそも、今日2人で街に出ることになった理由は数日前に遡る。




 その日シュルカは、"相棒との仲を深める"訓練を終えたことを報告した。終えた、とは言ってもとりあえず第1段階はクリアしたというだけで、仲を深めること自体はそれこそ生きている限り続けていくものだけれど。

 ともかくそれをリード騎士長に告げた。

 そして次の訓練が始まったのだが。


 ガキィッ!


 と鈍い音が訓練場に響くと、次いでズザザッという音とともにシュルカは投げ出された。


 実はふたつ目の訓練とは、剣だった。

 曰く、


「魔法のみに頼ると、相棒に何かあったとき途端に無力になる。自身が扱える武器があることは保険にもなるし、実際剣の方が強いときもあるからね。」


 とのことで、魔物駆りといえど剣は必須らしい。そして本来なら同じ団に入った新人と組んで練習をするのだが、なにせ魔物駆りに入ったのはシュルカひとり。

 そういうわけで、貴重な時間を割いて騎士長が直々に教えてくれていた。


 しかし、シュルカには剣の才能が絶望的と言って良いほど無かった。


 確かに特別鍛えてはいないけれど、お茶よパーティよと自身を磨くのに必死な貴族階級だったわけでもないシュルカは、少なくとも平均程度には筋力はあるつもりだった。


 とはいえその下手さはそれで賄えるレベルでもなかった。


「うーん、これは、なかなか......。」


 騎士長も戸惑いを隠せない様子だ。

 そしてそれはシュルカも同じく。


 ーーなんでだ⁈ 私言われた通りにやってるよね? リード騎士長もだいぶ手を抜いてくれているみたいなのに、毎回馬鹿みたいに吹っ飛ぶのですが。


「ふっ、シュルカはリズム感がないんだろうね。」


 通りすがりに後ろから言葉の刃でグサーーッ、とやってきたのはリィナさんだった。


 ーーリズム感。あ、そういえば......。


 小さい頃、母親が歌っていた子守唄を覚えて口ずさんでいたら、母親に凄い目で見られた記憶がある。なんだっけ、確かーー


「シュルカは音はあってるのにリズムが酷すぎるわね。」


 と呆れた顔して言われた気がする。

 つまり、そういうことだ。


「あぁ、剣を打ち合うにもリズム感がいる、のか......? まぁそうなのかな?」


 ーー騎士長、困惑させて申し訳ないです。


 うーん、じゃあどうしようかな? としばらく悩んだ騎士長は、


「シュルカは弓を基本の武器にしようか。剣ももちろん練習して貰うけど、それはあくまでいざというときの保険用として、普段は弓での攻撃をベースにしよう。」


 と提案してくれた。

 そしてその後弓を取りに行ったわけだが、弓を使う人はあまりいないとの言葉の通り、変にごてごてと飾りがついた古いやつやシュルカには大きすぎるやつなど、使いづらそうなのが数個あるのみだった。

 そこでまた考えこんだ騎士長は今度は、


「じゃあもうシュルカ用のを買いに行ってしまおう! 休暇も近いしね。」


 とニコッと笑った。




 とまぁ、そういうわけで今街に来ているのだ。

 だが武器を買うためだけっていうのもつまらないとの騎士長の言葉により、普段着なんかが足りていないシュルカの買い物に付き合ってくれることになった。


 ーーデートとかそういうのじゃないからね。


 そう自分に言い聞かせ、確認するようにちらっと騎士長の顔を伺う。

 すると視線に気がついた騎士長はにこっと微笑むと、


「この先に俺が街に来るといつも食べる団子が売っているんだが......シュルカももし良ければ食べないか? もちろん奢るよ。」


 と聞いてきた。

 シャリリグランにいたころ買い食いはしたくてもできる余裕もなかったシュルカは、憧れの買い食い! とテンションが上がって、


「はいっ! 食べたいですっ!」


 と元気よく返事をした。

 騎士長はその淑女らしさのない返事に少し驚いあと、クスッと笑い


「じゃあ行こうか。この時間は人が多いから気をつけてね。」


 と言って、なんとシュルカの手をとり歩き始めた。


 ーーええっ! 自然にそういうことやっちゃうのズルくないですか!それとも貴族としては普通なの? 当たり前なのかな⁈


 なんて、シュルカが困惑していることも知らずに。

 そしてお団子の屋台の前に着くと、


「おやじさん、久しぶり。団子2本よろしく。」


 とお金を渡しながら注文する。どうやら店主と顔なじみになるくらい沢山通っているようだ。

 店主さんはこっちをちらっと見るとニヤッと笑って、


「はいよ、にいちゃんの彼女さんができた記念に1個ずつ追加してやったぞ!」


 と言ってお団子を差し出した。


 ーーん⁈


「ちょっ! おやじさん、彼女では......。」


 リード騎士長がそう訂正しようとするも、


「んん? 違ぇのか? だいたいにいちゃんみたいな女嫌いが手なんか繋いでるならそうかと思ったが。」


 なんて店主さんが呟いたのでシュルカもついつい反応してしまう。


「えっ、女嫌い⁈」


「そうよお嬢さん。こいつ、女の化粧臭さとか表と裏の性格の違いとかにビビってやがるんだよ。ま、こんな優良物件を女が放っとかねぇのは分かるがな。つっても、お嬢さんのその驚きようじゃ、お嬢さんに対しては普通ってことだな。こりゃ、今はまだしもこれからに期待ってとこかな? はははっ!」


 ーーえええええ。流石に私は無いと思うんだけど......どっちかというと手のかかる妹的な感じ、だよね、騎士長?


 そう思って顔を見上げると、騎士長が口を開けて固まっていた。


「......リード騎士長?」


 呼びかけると、そのとき私が騎士長の顔を見ていることに気がついたようで、


「ッ‼︎ 」


 と声を上げると目をそらして手で顔を隠してしまった。


 ーーえ、なんですかその反応は。


 困惑していると、ゴホン、と小さく咳払いした騎士長は店主さんに目を向けて、


「......シュルカは部下で妹みたいなものだ。あんまり弄ってやるな。」


 と言って歩き出そうとする。

 店主さんはそれを見て目を細め、ふーん、と呟くと再度ニヤッと笑って


「ま、今日はこんなとこにしといてやるよ! お嬢さん、こいつについて知りたかったらいつでも来いよ~!」


 なんて声を上げて手を振っていた。

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