25.寡黙な男(閑話)

「それでは、私の方から説明させて頂きます。」


 そう言って立ち上がったのは、この重々しい場には馴染まないまだ華奢な体と、それに対照的な鋭い目をした青年ーーカーティス殿下だ。


 そして、異才と名高い彼にふさわしい滑らかな語り口でことのあらましが説明されていく。


「ーーですが、尋問で"あのお方"について話させようとするも、一切口を割りませんでした。どうやら弱みを握られているようで。」


 その言葉を聞いて、奥に座っていた人物の顔がしかめられる。


「それでは、黒幕の正体は全くわからなかったということか。」


 その人物ーー陛下はそう確認する。

 カーティス殿下はその言葉をゆっくり首を振って否定すると、


「...まずはこちらを見て頂きたいのですが。」


 と言って何やら紫色の水晶を取り出す。


「これは、誘拐された6人を取り込んでいたものです。術者の意識が失われたあと光を発し、6人を解放しました。この魔法具をアラン魔法師団長に調べてもらった結果、やはりハーピーの能力"空間圧縮"を持っていたのです。」


 それを聞くと目の前に座っていた男が


「なっ‼︎」


 と驚きの声をあげ、ガタンッと音を立てて立ち上がると、


「魔物の能力をコピーし奪う技術が存在していると⁈」


 そう声を荒げた。


 かくいう私も、声を出しはしなかったがかなりの驚きを感じていた。


 その技術は、もう何百年も各国が研究を続けているものだ。とはいえここ数十年は、魔物駆りの活躍が盛んになったことで魔物に対しての実験や研究に異議を唱える者も多く、その技術の開発を諦めた国も複数あるが。

 いや、むしろそれを理由に諦めてしまえるくらいには実現不可能な技術だ、というのが最近の認識だったのだ。


 ーーそれが。


 カーティス殿下が静かに頷く。


「とはいえ回数制限があるようで、もうこの水晶は使えないようですが。...ともかく、こんな技術革命を起こすとすればしか考えられないかと。」


 とは、ここアリウェスタの北の隣国、レガーシアのことだろう。彼の国は土地の半分は氷の大地で争いのきっかけとなる豊かな土壌もないため、戦争はここ数百年起こっていない。

 そのため、軍事力よりも研究開発に国力を注いでいて、その技術力は他国の数十年先を行くとも言われていた。


「ですが、彼の国が我が国の新人騎士、魔法師を#攫__さら__#う理由はなんです? 」


 男が重ねて尋ねる。


「それですが。ここ最近、レガーシアから流入してくる民がかなり増えています。何かレガーシアで、その暮らしを脅かす重大なことが起こっているのでしょう。」


「重大なこと、ですか...。ですが、それだけで彼の国と断定するのは少々早計では?」


 男は目を細めてそう指摘する。

 全く、この男の性格も変わらないものだ。


 もちろん、この男に言いくるめられるようであるなら殿下は異才などと呼ばれない訳だが。


「無論、他にも疑わしいところがあったのです。まず、これは騎士団からの報告なのですが、最近北の森で魔物の目撃が増えているようです。それも、中位から上位の魔物が。どうやら、レガーシアから逃げてきているようだとのこと。加えて...これを。」


 そして駄目押しに出された紙に書いてあったのはーー、


「使節の派遣⁈ 」


 思わず声に出して読み上げてしまった。

 それに書かれていたのは、レガーシアからアリウェスタへの使節の派遣を検討している、という内容だった。

 すると、カーティス殿下がこちらを見て大きく頷いてこう続ける。


「これはあの演習での事件の翌々日に届いたものです。事件に関しては、あくまでシラを切るつもりのようですね。実際、こちらも決定的な証拠は掴めていないのですが。」


 その言葉になるほど、と頷いて考えを深める。


「これは、確かにかなりきな臭いですな。とはいえ断る理由もないが...いやむしろ彼の国がもしアリウェスタ王国への侵略を謀っているなら、これを機に我が国の軍事力と各国との緊密な関係を見せつけるのも良いかもしれませんね。ですが表面上はもちろん歓迎し、夜会などであちらが接触する相手を確認しつつ...。」


 ...しまった。またやってしまった。

 というのも、私にはどうも言葉に出すと考えが止まらなくなり、周りが見えなくなるという癖があるようなのだ。

 いつもは発言を減らすことでなんとか回避していたのだが、今日は驚きのあまりついついその悪い癖を発揮してしまった。


「...申し訳ありません。」


 そう頭を下げて周りの3人の様子を伺うと、殿下と目の前の男は満足げな表情をしているように見える。

 そして何故か陛下も、


「わかった。ではその使節団派遣についての我が国の対応はそなたに任せよう、コレット宰相。」


 と言って微笑む。


 ーー何がどうなって"では"に繋がるのか分からないが、先ほどの態度は不問にしてくださるということか? それとも、その態度に対する戒めとして命じられたのか?


 であるなら、断ることなどできるはずもない。


「お任せを。」


 そう言うと、先ほどの考えを更に巡らして行く。

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