22.まだ知らぬ痛み(師団長サイド)

「今頃シュルカは演習か。...そういえば、あのときのお仕置きはどうしようかなぁ?」


 うーん、と考える。


 フテラが生まれた日、その珍しい魔物の体をくまなくしてあげようとしたのだが、シュルカがさっさとリードとの訓練に行ってしまい、そこから会う機会もなく、今は演習に行ってしまった。


「...なんか、つまらないね。」


 執務室の椅子に座って、そう呟く。

 と、どこからともなく、


「つまらないとかじゃないですから! 仕事目の前にたんまりあるじゃないですかっ! やって下さいよ‼︎」


 なんてうるさく騒ぎながら直属の文官が入ってくる。


「あ、君が実験体になってくれるんだったらやる気も起こるかm」


「やめて下さいよ! 私が実験体になったところで貴方仕事しないでしょう! 私の分の仕事が溜まるだけですから!」


 必死な形相でそう食い気味に言われる。


 そして短気なのかいつも怒り気味なその文官は、ハァーーッ、と深い溜息をつくと


「シュルカも今は頑張っているのでしょう。部下が頑張っているときに上司が頑張らなくてどうするんですか。」


 と諭すように言う。


 その言い方には少なからず不服なのだが、言われたことはまぁ最もだった。


「分かったよ。」


 ーーさっさと仕事を終わらせてフテラにやる検査の内容を考えるか。


 そう切り替え、目の前に高く積まれた書類に手をかけた。




 -・*・-

 1時間ほどして、再び文官が駆け込んできた。


 また何かに怒っているのか?

 そう思ったが、どうやら様子が違う。


 酷く焦った様子で、ゼェゼェと息を荒げながらこう言った。


「騎士団、と、魔法師団の新人演習でッ、ハァ、何かあったみたいですッ! しかも巻き込まれた中に殿下がーー師団長ッ! 貴方はここで仕事をッ、くそ、待ってください!」


 何やらまだ言っていたみたいだが、体が勝手に走り出していた。


 <新人演習で何かがあった。>


 それも、魔法師団長の自分にまで伝えられる程の何かが。

 その情報だけで、自分が走り出すのには十分、そう判断していた。


 ーーあれ、何のためにだろう。何のために、自分はこんな必死に...?


 あ、そうだ、まだフテラの検査をしていなくて。

 あんな珍しい魔物を失うのは惜しい。


 そうか、フテラ、と、その飼い主のシュルカは助けなくちゃな。


 その理由に何か引っかかるものがあったが、それ以外に自分がここまでする理由はない、はずだ。


「フテラを助けなければ。」


 そう改めて声に出して確認すると、何故か、胸の奥の奥でチクッと小さな痛みを感じた。

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