20.さらに後を追いました

 敵の後を一定の距離を保って追う、それを始めてまだ間もないはずなのに、酷く長く感じる。


 もう少し...もう少しで、作戦を開始する場所だ。


 ーー必ず、成功する。


 思えば、ゴブリンと戦う前からラーサたちに励まされ、今のこの作戦をやるときもカイルに、フテラに支えてもらった。

 私を信じてくれた彼らに、報いなければ。


 そう決心したとき、ちょうど目の前に開けた場所が見えてきた。


「任せたよ。」


 そう短く告げると、カイルは後を追う。

 私とフテラは開けた場所の手前の草むらに隠れて止まる。


「ーー待て‼︎」


 カイルが敵に向かって叫ぶと同時に、ひとりに斬りかかる。


「ぐぁっ‼︎ ...くそ、いてぇなこの野郎! いきなり何しやがる!」


 急所は外れたようで、切られた男は剣を構えた。

 と、そのときカイルの顔を見た敵の1人が、


「ん? お前、あの俺らが捕まえたグループの残り2人のうちの1人か? なんだ、仲間を取り返しにきたってか。もう1人はどこにいやがる?」


 そう言いながら仲間に手で指示を出す。


 ーーこのガキの仲間がもうひとり隠れてるぞ、周囲の警戒を怠るな。


 そういう意味だろう。

 敵は背中を寄せ合ってぐるっと円形に陣を組んだ。


 そこにカイルが、


「僕ひとりだ! もうひとりには教官を呼びに行って貰ってる。」


 と言って目の前の男に斬りかかったが、男はニヤッとしてその剣を受け止める。


「おいおい、その情報言わねぇ方がいいだろうが、そういうとこがガキだな。」


 そう言って、笑みを浮かべた。


 すると他の敵も、


「じゃあお前もさっさと回収するだけの話だな。」


 と1人が言ったのを機に数人がカイルを捕まえようと陣を解く。

 だが、カイルが言っていることが本当かどうか疑っている人もいるようで、そういう人は相変わらずカイルとは反対側からの奇襲に備えているようだった。


 カイルへの攻撃に回ったのは5人。

 そして次々と攻撃をかける。


「ーー爆ぜろ!」


「ーー引きずり込め。」


 それぞれ火と土の適性持ちであろう魔法師2人が、同時に魔法を発動させる。


 カイルは、


「ぐっ...くそ!」


 と声を上げると土に足を取られそうになりながらも、なんとか火の玉を避ける。


 が、そこに剣士が現れ、ニヤッと歪んだ笑みを浮かべて容赦なくカイルに剣を叩き込んだ。

 それもなんとか避けようとするも、腕に少し当たってしまったのか血が飛ぶのが見えた。


「...ッ!」


 シュルカは思わず声を出しそうになったが、なんとか堪えた。

 カイルが怪我をしたことも、敵の不敵な笑みも、とても恐ろしくて。


 それでも、


 ーーここで私が声を出せば、気づかれれば、全てが無駄になるっ...。 大丈夫、カイルを信じるんだ!


 そう自分に言い聞かせて、今すぐに走り出そうとする体を何とか抑える。


 攻撃を受けたカイルは、その顔に強い焦りを滲ませ、


「くそ‼︎ 僕は、約束したんだ! あいつは、教官を連れて必ず助けに来てくれる! 僕はそれまで足止めすると約束した! だから、だから...ッ!」


 そう言って斬り込むも、易々と受け止められてしまう。


 だが、その声を聞いた敵の動きに変化があった。


 ーーカイルの本気の焦りと、そのカイルが怪我をして追い込まれてなお現れないもうひとり。

 つまり、なんていないのではないか?


 そう考えたようで、円形の陣を保っていた5人が顔を見合わせ、全員が同じ見解に達したのを確認するとカイルの方を向いたのだ。


 ーー今だ。


 そう、これこそカイルの作戦だった。

 カイルが囮となり、敵の注意を一箇所に集めること。

 そしてそのとき、シュルカとフテラがやること。


 フテラをチラッと見るとフテラはもう準備万端のようで、歯を剥き出しにして、ぐぐっと敵をにらんでいた。


 シュルカも敵に目を戻すとひとつ息を吸って、


「ーーーーまたたけ‼︎」


 と叫んだ。

 両手でカイルから貸して貰った瑠璃の首飾りを握りしめて。


 その瑠璃の表面は、黄鉄鉱という金色の夜空の星のような石の欠片が天の川のようにたくさん並んでいた。


 その瞬間、シュルカの後ろで立ち上がったフテラが強い光を出した。

 すると、


「んなっ、ぐぁぁあ‼︎ 目、が!」


「くそ、何も見えねぇ‼︎」


 と敵の全員が動きを止めた。

 その隙を逃さず、


「ーーまとい登りつめ、その息を絡み取れ!」


 と声を張り上げる。

 想像するのは、もちろん天の川。


 そして流れ出した水が敵の足を絡めとり、そのまま体を登り口元を塞ごうとうごめいた。


 ーー上手く、いった...。

 そう息をつこうとしたその瞬間、


「ーー波立て、逆らえ!」


 ひとりの魔導師がそう言って足元の水を避け、口に水が到達する前に飛びのく。


 そして


「惑わせよ‼︎」


 と叫び、その体が、片手に持った紫色の水晶と共に蜃気楼のようにゆらっと揺れたかと思うと、ふっ、とその姿を消してしまった。

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