19.後を追いました

 ロウラたちを担いで歩いて行く人たちの後を追うと見えてきたのは、私たちが沼へ行く途中に一番最初にゴブリンと戦った場所にある洞窟だった。

 その場所を見てカイルは何かに気がついたようで、


「! そうか、あれ自体が...。」


 と声をあげた。


「カイル? 何かわかったの?」


 恐る恐る聞くと、


「いや、これは後で話そう。とりあえずは、この襲撃が計画的に騎士と魔法師の新人を狙ったことだっていうのは分かった。それに、かなり相手の規模も大きいだろう。」


 と厳しい顔をして答えた。


「...私たちだけで倒せるかな。」


 さっき振り捨てたはずの不安がまた湧いてきそうになる。


 そんな私を見ると


「まともにぶつかっても勝てない。でも、相手がまだ僕らに気がついていないこの状況なら必ずいける。だから、僕のいうことを信じてほしい。」


 そう、真正面から視線を合わせてカイルは言った。


 "信じる"、それは、もうとっくに覚悟したことだ。

 ネガティブな感情を、もう一度飲み込む。


「うん、信じるよ。きっと私たちならロウラたちを助け出せる。」


 ふっ、とカイルの顔もほころぶ。


「よし、じゃあ作戦を練ろうか。と言っても敵もここでゆっくりはしないだろうから、すぐに移動を始めるだろう。手早く説明するよ。」




 -・*・-

「...だ。できる?」


 その作戦は、大胆なものだった。

 そして何より、シュルカとフテラの力を強く信じたもののようだった。


「聞いて分かったとは思うけど、この作戦の鍵は君たちだ。君たちが出来ないというなら他の方法を考えよう。」


 私たちが鍵。

 それは凄く重い言葉だった。

 昨日生まれたばかりのフテラと、2ヶ月前に魔法師だと判明したばかりの私たちが、できるのだろうか。


 フテラを見る。


『きゅん。』


 と小さく声をあげたフテラの顔には、もし失敗したら...なんて不安はないようだった。


 ーーそうだよね。

 失敗したら、そのときまた考えれば良い。

 今は、今の最善を尽くすだけ。


「大丈夫。できるよ。私たちに任せて。」


 恐怖がなくなったわけじゃない。

 でもこの言葉はきっと本心だから。


 カイルに、にこっと笑ってみせる。


「そうか。じゃあ任せよう。」


 そうカイルも笑い返してくれた。




 -・*・-

 そして数分後。

 洞窟から男たちの声が聞こえてきた。


 私たちは洞窟から10メートルほど離れた草むらの陰で敵の様子を伺う。


「さっさとしろ!」


 敵の数は、10人。

 これはカイルの予想通りだ。


 私たちは顔を見合わせ、こく、と頷きあう。


 だが、次に敵が言った言葉は予想外のものだった。


 1人の魔法師ーー剣を腰につけていなかったから恐らくそうだーーが、紫色に鈍く光る水晶を持ち上げてこう言ったのだ。


「この中にあの6人は閉じ込めてある。あとは普通にこれを届けるだけだろう。焦りすぎるとむしろ怪しまれるぞ。」


「なっ、閉じ込めて、ある、だと?」


 カイルが小さく声をあげた。

 私も声には出さなかったものの、酷く困惑した。


 なぜなら、この世界には空間魔法はのだ。

 風魔法を使い、ある地点同士を繋ぎ空間転移をすることはできるが、空間を圧縮したり異次元を作り出したりするような魔法は存在しない。

 あるとすれば、それは魔物が生まれつき持つ能力によるもの。リード騎士長が教えてくれた、ブラックドッグの危険予知のような。


 でもそこに魔物はいない。

 じゃあ仲間6人を閉じ込めているは一体ーー?


「まさか。」


 恐怖をにじませたそんな声が聞こえてハッと隣を見ると、カイルの顔が青ざめていた。


「...カイ、ル?」


 心配になって声をかけると、カイルがちらっとこっちを見て、


「...シュルカ、ハーピーという魔物は知ってるか?」


 と聞いてきた。


 ハーピー、どこかで聞いた気がするけど...あぁそうだ、リィナさんの授業で習った魔物の中にいた。


「上半身は人の女性で下半身が#鷲__わし__#の中位魔物だよね? 風魔法の適性もちだった気がするけど...。」


「それだ。そのハーピーの能力は空間圧縮なんだ。」


 え? それは、どういうこと?

 まさか、ハーピーがここに?


 慌てて、敵の方を見るも、そこにハーピーらしい姿はない。


 カイルが首を横に振って言った。


「ここにハーピーはいない。あれは、能力を"略奪"したんだろう。そしてあの水晶に能力を持たせている。方法はわからないが、そうと見て間違い無いと思う。それ以外に、あの水晶の中に6人を閉じ込める方法はないはずだから。...これはまた、厄介な事件に巻き込まれたみたいだね。」


 魔物の能力だけを取り出して使う。

 それは、かなり恐ろしい技術だ。

 魔物が持つ能力は魔法で再現できないものも多い。

 もしその技術で、魔物使いとペアにはならないような、どう猛な魔物の能力も取り出せたとしたら?


 それは、この世でその人にしか使えないになる。


 魔法なら、火に対しての水のように相対するものがあるから、たとえ敵に最上級魔法が使える人が1人いたとしても、こっちも相対する適性の最上級魔法を用意するだけだ。例え使える人がいなくても、沢山の適性持ちが協力し合えば最上級魔法は作り出せる。


 だが、魔物オリジナルの力に相対する魔法はない。

 つまり、その人のに効果的にぶつけられるものはない。


 その恐ろしさは、魔法という世界を知ってまだ時間の経っていないシュルカにもよく分かる。


 ーーそれが、目の前にあるあの水晶に...?


 ゴクリ、と唾を飲み込んだ。


 空気に緊張感が増す。

 だが、そのとき、


『ーーーーキュ。』


 と声を上げると、ぺち、と膝の上にフテラが手を乗せてきた。

 もう一方の手は、カイルの膝の上に。


 その手を辿ってフテラを見ると、堂々とした面持ちでこちらを見ていた。


 <みんなを、助けるんでしょ?>


 キラキラとした目が、そう言っていた。


「...そうだよね。今何より大切なのは、みんなを助け出すことだよね。ありがとう、フテラ。」


 そう言うとカイルも、


「そうだね。後のことはそのときに考えよう。ーー今は、みんなを助けよう。」


 と言ってフテラを撫でた。


 そして撫でられて自慢げなフテラを見ると、


「ふ、この3人の中で1番若いフテラに励まされるなんてね。よし、予定通りの作戦でいこうーーこの先の少し開けた場所で仕掛ける。」


 と少し苦笑して言う。


 フテラは満足そうに


『きゃん!』


 と小さく吠えると、前を歩く敵の後ろ姿をぐっと見据えた。

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