18.襲われていました

「あれは...シュルカ、フテラ、避けて!」


 カイルに袖を引っ張られ、慌ててしゃがんだシュルカの頭上を火の玉が通り過ぎていき、背後の木に当たって爆発音を立てる。


「ッ...今のは、魔法?」


 隣にしゃがんだカイルがその燃えたあとを見て、


「そう、火の中級魔法のようだね。」


 と言った。


 魔法師は自分の適性以外の魔法は基本的に初級魔法しか使えない。それが中級魔法...ということは、相手の適性が火だということだ。


「しかもロウラたちを襲っているのは火の適性持ちだけじゃないな。剣士もいる...これは、随分と用意周到なようだ。」


 そうやって相手の様子を探るカイルはとても落ち着いていて、まるでこれと似た状況を今までに経験したことがあるかのようで。


 ーーいや、そんなわけない、よね。


 あんな人数に襲われるなんてこと、普通の人ーーいくら裕福な商家といえどあるはずがない。


「ちっ‼︎ クソ、このガキども手間取らせやがって!」


 敵の声が耳に入ってきてハッとする。

 そして浮かんだ疑念を首を横に振って打ち消し、頭を切り替える。


「カイル、状況は...。」


「...劣勢だ。流石に連携の上手いあの2人といえど、剣士3人と魔法師1人相手じゃ厳しい。剣士を抑えるのに精一杯で、魔法師に対しては防戦一方だ。長期戦になると困る、僕らが助けに入ればーー、ッ、これはまずいな、もう少し後ろに下がるぞシュルカ!」


 そのとき私たちが見たのは、今ロウラたちと戦っている敵と同じ服装ーー灰色のローブで全身を覆っているーーをした人たちが、こちらに向かって走ってくる姿だった。


 その数、5人。


 ーーこれじゃ、私たちが助けに入っても...。

 嫌な想像が頭をかすめる。


 冷静だったカイルも流石にこの状況を打破する方法は思いつかないようで、ギュッと眉根を寄せて考え込んでいた。


 どうしよう。どうしたら。


 そうこうしているうちにも、ラーサを魔法から庇ったロウラが倒れ、次いでラーサの剣も取り上げられてしまう。


「おい、あんまひでぇ怪我させんなよ! こいつらが今回の1番の獲物なんだからな!」


 敵がそう叫んだ。


 1番の、というのは、つまり、それは。


「ーー他にも捕まった人たちがいるのか。これは、ここで倒して終わりって訳にはいかないみたいだね。僕らは教官を呼んでーー。」


「おい、こいつらあのガラスのやつ持ってないぞ。」


「あぁ、あとの2人が持ってるんだろうな。まぁこの森一帯に風魔法を破壊する結界を張ってあんだ、大丈夫だろうよ。」


「あーあの魔物使いと、やけに華奢な坊ちゃんか。あいつらは見つけなくていいのか?」


「あんま拘り過ぎると教官の方に見つかる恐れが出てくっからな。他に捕まえたやつらも連れてさっさとずらかるぞ。ったく、あのお方も無茶なこと言いやがる...オラ! 行くぞ!」


 そう言ってロウラたちを縛り上げて歩いて行ってしまう。


 そんな! 助けも呼べないなんて...。

 シュルカは呆然とその後ろ姿を見ることしかできなかった。


 だが、カイルは落ち着きを取り戻していた。


「...教官たちを呼びに行く暇はない、か。呼んだところで奴らが去るまでには間に合わないな。」


 そう言って、こちらを向き、怖がる私に少し気遣うような顔をすると、だがその顔をすぐに厳しいものにしてこう言った。


「...シュルカ、戦えるか?」


 それは、彼らを相手に私たちだけで立ち向かい、ロウラやラーサ、他の人たちを取り返しに行く勇気があるか?ーーそういう意味だろう。


 これは、命がけの戦いになる。カイルの目がそう言っていた。


 ーーーー怖い。怖くてたまらない。


「ッ、わた、し、は...。」


 もちろん、ロウラたちは仲間だもの!

 ...そう即答できたら、どんなに良かったか。


 そのとき、恐怖で縮こまってしまった私の上に


「シュルカ、君から見たら私は冷静に見えるだろうが、私も、怖いのはきっと一緒だ。」


 という普段のカイルとは少し違う声色が落ちてきた。


 え...。


 驚いて見上げたカイルの表情は騎士のそれで、全く怖がっているようには見えない。


 だが一瞬目を伏せ、もう一度こっちを見て、


「...僕に、君とフテラの力を貸してくれ。彼らを助けるために。」


 と言ったとき、その顔は緊張と恐怖と、それでも助けたい、そんな強い意志が入り混じった苦しげな表情だった。


 カイルは、強い。

 それは勿論戦力としてもだけど、精神的にも。


 でもカイルだって怖くないわけじゃない。

 それでも、みんなを救おうとしている。救うということに迷いがない。


 ーーそんなカイルが、私に協力を求めている。


 ぐっと気持ちを固める。

 フテラを信じるのなら、自分を信じても良いはずだ。


 私なら、私達なら、


「...カイル、迷ってごめんね。私も一緒に助けに行く。行きたい。ーー私にもカイルの力を貸してくれる?」


 真っ直ぐ彼の顔を見て。


 カイルは少し驚くような顔をした後、見慣れた落ち着いた笑顔でこう言った。


「もちろん。必ず助け出そう、僕らならできる。」


 ーー仲間と一緒なら。

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