17.野性のスライムが現れました

「うしっ、じゃあそろそろ行くか!」


『きゃんっ!』


 ーー君らのために休んだんだけどね?

 そんな3人の気持ちに彼らは気づく様子もなく、


「ちゃっちゃっと終わらしてリィナさんに褒めてもらうぞ!」


 おら早く来いよーなんてこっちに向けて言ってくる。


「...まぁ、行こうか。」


 また溜息をつきそうになった私たちに先んじてカイルが言うと、


「そうね。あいつに先導させるよりマシね。」


 とラーサも立ち上がった。




 -・*・-

「! いた、スライム。」


「本当ね。あれは...悪性の方かしら。」


 スライムには悪性のものと良性のものがある。

 良性のスライムは、その体から出す粘液は植物に栄養を与える。逆に、悪性のスライムが通って粘液がついた植物は枯れてしまう。


「...みたいだね。」


 そのスライムの周辺の草花は黒くくすんでいた。


「あとは被害規模だけど...二手に分かれて見回ろうか。」


 そうカイルが提案する。


「おう、そうだな。問題はどう分かれるかだけど。」


 うーん、とみんなで考える。

 そして、ラーサがこう言った。


「ロウラは怪力ゴリラで、カイルは俊敏さ重視の剣技、私はその中間の王道派だから、カイルとシュルカが組んだ方が良いかしら。」


「ちょ、怪力ゴリr」


「そうだね。君らは幼馴染ということだし、2人で組んだ方が癖とか分かっててやりやすいだろう。」


「待て、ゴリラって」


「うん、魔法なら速さには対応できるから私とフテラもそれで良いよ!」


『きゃん!』


 え、ちょ、とかなんとかぐちぐち言ってるロウラを無視してグループは決定した。




 -・*・-

「さて、僕らは右回りか。ここら辺もだいぶ黒ずんでるみたいだね。これは被害が大きそうだ。」


「そうだね、こんな大きな木まで...。」


 見回り方は、はじめのスライムを見つけた地点から黒ずんだ草花に沿って右回りと左回りに決まった。


 被害はかなり広がっていた。

 騎士団によるとスライムが見つかったのは最近とのことだけど、もしかしたら沼とその周りの茂みに隠れてだいぶ前から居着いていたのかもしれない。


 フテラも辺りの様子がおかしいことは分かっているのだろう、不安そうな顔をしている。


「スライムは繁殖力も強いからね。...ところで、フテラは光魔法以外はどれくらい使えるの?」


「うーん、上位魔物だからある程度は使えると思うんだけど、まだあまり試せていないんだよね...。」


「そうか。じゃあ練習としても、清浄の効果を持った水魔法を使ってみたらどう?」


 そういえばそうだった。

 悪性スライムの粘液による腐食は、清浄効果のある水魔法で治せるのだ。


「...フテラ、やってみる?」


『きゅ!』


「それじゃあ、この媒体はどうかな?」


 と言って渡されたのは瑠璃(ラピスラズリ)の首飾り。


「え? こんなのつけて歩いてたの⁈」


 何か首飾りをつけているのは分かっていたが、その先端は服の中に隠されていて見えていなかった。

 それがまさかこんなに綺麗な瑠璃なんて...。


 いくら成金の商家といえど、子どものためにこんなものが買えるほど余裕があるのだろうか。


「前に安く売ってるのを見つけたんだよね。できそう?」


 そう言われて逡巡し、


 <魔法は思い浮かべるものによって効果が大きく変わる。それは、具体的なものなら特にその"もの"の生きてきた歴史、味わってきた経験、そういうものが影響するからだよ。>


 というアラン師団長の言葉を思い出す。


 少なくとも、草より石は長い歴史があるだろう。

 でも、フテラならできる気がした。


 そう、信じて。


「よし、フテラ、行くよ。」


『きゅ。』


 フテラも私の感情を感じ取ったのかまじめに前を見据える。


「ーー清めよ。」


 フテラの周りを石の欠片のような輝きが舞う。


 そして深い青の光がふわっと広がり、それが消えるとフテラを中心として半径10メートルほどの草花が綺麗な緑を取り戻していた。


「やった! 成功だよフテラ‼︎」


 そうしてフテラを抱きしめて喜びをわかり合う。

 フテラもどことなく大仕事をやり遂げだ様子で、満足そうな顔をしていた。


 ーーその背後で。


「できちゃうなんて、やっぱり面白いね。」


 とカイルが笑っていたことにシュルカたちは気づかなかった。


 そのあと、思ったより大規模の被害を見て、浄化するのは今度にした方が良いね、と判断した私たちは恐らくほぼ円形の被害範囲の半分辺り、つまりロウラたちとの合流地点であろうところの近くまで来た。


 そのとき、


「おい、なんだお前らいきなり何を、おい!やめろ‼︎」


 というロウラの叫び声が聞こえてきた。

 次いでいくつかの爆発音と剣戟けんげきの音。


 ーー何かがあった。


 そう即座に判断した私たちは、一瞬顔を見合わせて頷き合ったあと、その声向かって走り出した。

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