16.休憩時間でした

 ゴブリンの群れを倒したことで自信がついた私たちは、その後も何回か魔物と遭遇したが、初めの戦いより群れが小規模のものばかりだったためか危ないところもなく、順調に進んでいた。


 そして、


「沼! あれねきっと!」


 演習開始から1時間半ほどで目的地の沼に辿り着いたのであった。


「ほぼ予定通りだね。調べるのは、周辺のスライムの生息状況か。でもその前にちょっと休もうか。」


 とカイルが横を見ながら苦笑して言う。


 初めの戦いを経て急に仲良くなったロウラとフテラは、道中わちゃわちゃと騒ぎっぱなしだった。まるで初等学校の子どもたちが遠足に来たみたいに。


 ーーまぁあれだけはしゃいでいれば疲れるよねぇ。

 私も多少呆れつつ、2人、いや1人と一匹を見た。


 そこでは、ロウラとフテラがぐでーっと伸びていた。


「はぁ。演習中に何やってるのよこいつらは...。」


 ーーうん、同感だよラーサ!


 ロウラとフテラは、初めはロウラの、実は魔法師に憧れていたけど魔力がなくて諦めて、だからさっきのお前の魔法は凄いの羨ましいの...というフテラの絶賛をフテラが自慢げに聞いている、という感じだった。


 だがその後もつらつらと魔法についての思いを述べたロウラが最後に言ったのは、


「だからお前の魔法をもっと見せてくれ!」


 だった。アホかな?

 流石にそれまで冷静にラーサを宥めていたカイルも、


「演習中なんだし、無駄に魔力を削るようなことはしない方が良いと思うよ? 体力と違って魔力は戻りにくいしね。」


 という忠告をしていた。


「それもその通りか。」


 と呟いたロウラがうーん、と考えて出した結論は、


「じゃあ俺の武力をフテラに仕込んでやるよ!」


 だった。うん、アホなのね?

 魔力がダメなら体力はOKだとかそう言うんじゃないだろ!


 私とラーサとカイルは顔を見合わせ、揃って溜息をついた。

 ーーこいつらは諦めよう。

 言葉に出さずとも意見は一致していたに違いない。


 まぁそんなこんなで、後ろで「やーっ!」だの、『きゅーんっ!』だの奇声をあげはじめた彼らを半ば無視してここまで来たのだった。


「いやぁ、フェンリルっていうのは動きがはえぇな。これは良いライバルを見つけちゃったな!」


 そんな3人の雰囲気を感じ取れていない様子で寝っ転がるロウラはそう満足そうに言った。


「「はぁ。」」


 ラーサと溜息が被って少し笑い合う。


「そういえば、カイルはどこの貴族のご子息なの?」


 突然ラーサがこう切り出した。


 カイルは急な言葉に少し驚いたあと、


「ん? バレてたかな?」


 ははっ、と笑って、


「最近大きくなったばかりの商家だよ。まぁいわゆる成金ってやつ。両親は貴族の一員にでもなった気分で、俺に騎士団に入れって言ってきてね。マナーに関しての家庭教師もつけられた。まぁでも、今回の演習は楽しめているけど。」


 と他人事のように言う。


 そして微妙な顔をした私たちに苦笑しつつ、


「ま、僕なりに楽しんでいるんだしそんな顔しないで? ...それで、君たちはどこから来たんだ?」


 と聞いた。


「私はさっきも言ったけど、ロウラと同じ村出身なのよ。この国の西端、海に面している村のね。同い年はあいつだけ、ってくらい小さな村だから特に話すこともないわ。」


 とラーサが言うと、こっちにチラッと目を向けた。

 私の番だよ、ってことだろう。


 ーーうん、困った。

 隣国出身はともかく、この国に来るまでの経緯を素直に話すわけにもいかない。


 少し考えて、若干ぼかして伝えることにした。


「...私は、捨て子なの。拾って育ててくれたおじいさんと一緒に王都郊外の林の中で暮らしてたけど、数年前に亡くなってからは王都のレストランで住み込みで働いてた。王都で2ヶ月前にアラン師団長にあって、透明な魔力持ちは珍しいからって連れてこられたの。」


 ほぼ、嘘は言ってない。

 実際、父のことなんてもちろん記憶はないし、母も私が7つのときに死んでしまった。そのあとはスラムで隣に住んでいたおじいさんに色々と教わって暮らしていた。でも、そのおじいさんもシュルカが12のとき亡くなってしまって、それからはずっとレストランで働いていたし。

 ーーただし、そのスラムがあった王都は隣国シャリリグランのだけど。


 ラーサはそれを聞いて、


「そうなの...大変だったのね。」


 と同情するような目をしてきたが、カイルは


「...捨て子、か。」


 と小さい声で呟いたかと思うと、一瞬ニヤッと笑ったように見えた。手で口を隠していたのでちゃんとは見えなかったけど。


 ーーえ? 何か変だった?


 少し焦って急遽作り上げた自分のプロフィールを思い出す。


 ...別に、大丈夫だと思うけど。


 だが、その一瞬ののち、カイルも眉尻を下げてこう言った。


「それは辛かったね。アラン師団長とは、上手くやれてるの? ...あの人、ちょっと、なんていうか厳しいって聞いたけど。」


 その、だいぶオブラートに包んだアラン師団長への言葉と本気で心配している表情を見て、見間違いかな? と思った。


 少し引っかかるところもあったけど、何よりこの話を続けると私からもっとボロを出してしまいそうで怖い。そう思って、その話に乗っかることにする。


「そうなの、隙あらば人を使って実験してこようとしてね、この間もーー。」


 そうして、アラン師団長がやってきたアレやコレを話していくうちに段々と感情がこもってきてしまったシュルカは、カイルのあの少し不気味な笑みのことをすっかり忘れてしまっていた。

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