15.演習が始まりました

 その後次々とグループが出発していき、ついに私たちの番になった。


「それじゃあ第7グループ、任務は把握したね?」


「「「「はい!」」」」


「よし。じゃあ最後にこれを。」


 と言って渡されたのは、立方体のガラスの中に桔梗ききょうの花が入ったキーホルダーのようなもの。


「一応もう一度説明しておくね。代表者ひとりがこれを持っていて、何か自分たちで対処できないことがあったら即座にそのガラスを割って助けを呼ぶこと。このガラスの中には風の"繋ぎ"の魔法が入っているから、ガラスが割れることが条件となって教官の私たちに繋がるようになってる。魔法が発動したら、助けが来るまで決して無理はしないで。いいね?...じゃあ、はい。」


 事前の話し合いで、後援が主になるであろう魔法師の私がこのキーホルダーを持つことになっていた。


 リィナさんから慎重にキーホルダーを受け取り、腰につける。


 リィナさんがそれをみて軽く頷き、


「それじゃあ、準備はいい?」


 と言った。


 4人で顔を見合う。

 ロウラは自信ありげに、ラーサは少し緊張した面持ちで、カイルは冷静な様子で頷いた。


 シュルカも緊張してはいたが、同時に同じくらいわくわくもしていた。


 シャリリグランにいたならきっと味わえなかっただろう感情。

 それを感じられることの嬉しさが、これから始まることへの期待となって心を強く揺さぶっていた。


 そんな4人の様子を見ていたリィナさんがふ、と笑った。


「良い顔だね。ーーーーそれでは、第7グループ、新人演習、開始!」




 -・*・-

「えっと、目的地は東の沼だから、1時間も歩けば着くかしら。」


「そうだな、任務は沼周辺に最近住み着いたっていうスライムの生息域を調べること、か。すぐ終わりそうだなこれなら。」


「ほらまたそうやって油断する。途中に割と強い魔物がいるところもあるから、気をつけなくちゃダメなのよ?」


 と指摘されてロウラがたじろぐ。


「わ、わかってるよ。当たり前だろ?」


「どうだか。」


 そんな2人の様子を見た私とカイルは、思わず顔を見合わせて苦笑してしまった。


「さて、そろそろあの辺りに洞窟がーーーー伏せて‼︎」


「か、カイル? 何か見えたの?」


 ずっと喋っていて警戒が疎かになっていたことに気がついたのだろう、ラーサが慌てて尋ねる。


「あれ、ゴブリンの群れだよ。あの数相手に無策は少し無謀かと思ってね。」


 ゴブリン...人型で、どう猛。特に人は見つけ次第襲ってくるので魔物駆りとしてペアになることはない。


 シュルカはそう頭の中で思い出す。

 2ヶ月で詰め込んだとはいえ、基本的なことはどうやらちゃんと頭に入っているようだ。


 そういえば、初めての実践だ...。

 途端、心臓がどくどくして思わず掌を握りしめる。


『きゅ。』


 そんな私を冷静にしてくれたのはフテラの声だった。


 <ーー大丈夫?>


 そう聞くかのようにシュルカを見る目は、怖がってなんかいない。

 ! そうだ、私、フテラを信じるって決めたんだもの。大丈夫、仲間もいるんだし負けることなんてない!


「大丈夫?」


 気づいたら、3人が心配そうに見ていた。


 自分でいっぱいいっぱいになって仲間に心配させちゃうなんてダメだ。みんなだって多少は不安なはず。それでも頑張ろうとしてるのに、私ひとりの気持ちで邪魔しちゃいけない。


 そう自分に言い聞かすと、ニコッと笑って頷いてみせる。


 それを見てみんなも笑い返してくれる。


「よし、じゃあ事前準備で話した通りのフォーメンションでいくぞ。俺が引きつけるから、そこをラーサとカイルがつく。シュルカは後方から支援を頼む。」


『きゅっ‼︎』


 名前を呼ばれなかったフテラが抗議するように小さく声を上げると、


「あっ、あぁ。フテラもだ。頼りにしてるぞ。」


 と慌ててロウラは付け足す。


 戦いの前だとは思えないそのやりとりがなんだかおかしくて、みんなの緊張感が和らぐのを感じた。


「ーーよし、行くぞ!」


 と言ってロウラが飛び出す。


 そのままの勢いで剣を振り下ろし一体倒すと、


「ほら! こっちだ!」


 と大声をあげてゴブリンを挑発する。


 ゴブリンたちはいきなり出てきた敵に驚いたようだが、すぐに狙いを定めてロウラを囲むように動いた。


 その隙を逃さず、ラーサとカイルが両脇から飛び出して攻撃する。


 私も、今だ!


「フテラ! 貫け!」


 イメージするのは、#向日葵__ひまわり__#が太陽を真っ直ぐに見上げる様子。


『きゅるる、くる、きゃん‼︎』


 途端、フテラが大きく威嚇の声をあげ、ぐっとゴブリンを睨む。

 ーーその周りに強く咲き誇る向日葵が見えて。

 次の瞬間、ラーサとカイルの間にいた二体のゴブリンを黄色い光が貫く。


「ナイスアシスト!」


 そう言うとラーサは、ロウラを追っていたものの後ろの様子に慌てて振り返ったゴブリンを斬り伏せた。

 その奥では、ロウラとカイルがゴブリンの正面と裏から同時に剣で切る姿が見え、全てのゴブリンが倒れた。


 一瞬の静けさがあって、


「「やった! 倒した(ぞ)‼︎」」


 とロウラとラーサが同時に声をあげた。


 それを機に私やフテラ、カイルの緊張も解けたのが分かった。


「おつかれ、良い連携だったね。」


「本当よね! 私たち今日初めて会ったとは思えないくらいちゃんと戦えてたと思うわ!」


「おう! シュルカ...フテラも、めっちゃ良いタイミングだったな! しかも一撃がつえぇのな!」


「ほんと、綺麗な魔法だった!」


 と言われて少し恥ずかしくなる。


「...みんなのおかげだよ。戦う前は不安だったけど、みんなの迷いのない動きについて行かなくちゃって思ったらできたから。」


「はは! んな謙遜するなって!」


 そう言ったロウラにバシバシと背中を叩かれて思わずよろけそうになる。


「えっ、わわっ。」


『んきゅ、きゅっ‼︎』


 それを咎めるようにフテラが鳴くと、ラーサもそんなフテラの調子に合わせるようにして、


「もう、ロウラ、女の子相手に扱いが雑! フテラも怒ってるじゃない!」


 と眉を寄せる。


 それに対して言い訳をするロウラと、更に追及するラーサ、まぁまぁ、と宥めるカイルを見て思う。


 私、良い仲間に出会えたんだなぁ。


 フテラとの連携も上手くいったし、任務もきっと無事に終えられるだろう、そう思いほっと安堵の息をついた。




 -・* -・* -・* -・* -・* -・* -・* -・* -・*・-


 そういえば、なぜ11グループで魔法師は12人いるのにシュルカのグループの魔法師はシュルカひとりなのか、と思われた方がいるかもしれませんが、実は作者も疑問です。

 神様の作為かもしれません。(計算ミスとも言います)

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