9.勉強が終わりました

 答案におっきく丸が書かれる。

 そして顔を上げたリィナさんが優しく微笑んでこう言った。


「よし、全問正解。これで全部終わりだね。お疲れ様、シュルカ。」


「はいっ! 今までありがとうございました、リィナさん。」


「ううん。2ヶ月間、楽しかったよ。とは言っても、これからは騎士団の方で関わることになると思うけどね。 今日は、この後部屋を移動するんだっけ? 宿舎は魔法師団の方?」


「はい。今までも魔法師団員見習いという立場だったので、これからも魔法師団側として騎士団の練習に参加することになると思います。」


「そうか。じゃあまた騎士団の全体練習で会えるのを楽しみにしてるよ。と言っても、すぐ会うことになるかな。」


「なにかあるんですか?」


「もうすぐ、魔法師団と騎士団の合同演習があるんだよ。今年入った新人向けのね。私は教官として参加するけど...。」


 リィナさんがこちらをジロジロと見て少し考え込むとこう言った。


「シュルカは、特に体を鍛えてはないよね?」


「あ、はい。特にアリウェスタに来てからはあんまり動いてないですね。」


「そう、まぁ勉強大変だったしね。 うん、それじゃあ魔法師として参加した方が良いね。あぁでも、透明の魔力持ちなら魔物がいないと本領発揮できないから...。」


 考え込んでしまったリィナさんを見て、シュルカは少し心配になったが、すぐにリィナが顔を上げてこう告げた。


「うん、少し予定を早めてペアの魔物を選んじゃった方が良いね。団長に伝えておくよ。」


「えっ、でもすぐに選んでも、その、絆とかを深める時間はないんじゃ...。」


「あぁ、それは大丈夫だよ。ペアは徐々に絆を深めるわけじゃない。初めから絆は繋がっていて、力も出会ったときから使わせてくれる。まぁでも、相手にも意思はあるから連携は多少慣れないと難しいけど、全く戦えないってことはないと思うよ。」


「そうなんですか? それなら良かったです。すごく楽しみです!」


「うん、ずっと物欲しそうに飼育場見てたもんね。」


 クスクス、と笑われて少し恥ずかしくなる。でも、まぁ実際そうだった。

 この2ヶ月間、早く魔物と触れ合いたくてずっと楽しみにしていたのだ。やっと私のペアに会えるのか! と、そう考えるだけで顔がにやけてしまうくらいには。


「ふふっ。シュルカは本当に面白いなぁ。じゃあ、さっさと荷物移しちゃおうか。手伝うよ。」


「えっ良いんですか。すみません、ありがとうございます。」


「どういたしまして。」


 あぁリィナさんマジで優しいなぁ...普段アラン師団長にシゴかれてる身としては、本当に身に染みるのだ。


 なんて、ほわほわしながら歩いていくシュルカと、そのダラけた顔に思わず苦笑してしまうリィナの後ろ姿を恨めしそうに見ている人がいたことに、まだ2人は気づいていない。


「...ッ。なんで、あの方が...。許せない。」




 -・*・-

「よし、これで荷物運びは終わりだね。」


 部屋を見回してリィナさんが言う。

 この部屋は魔法師団員一人ひとりに与えられるもので、あのよりは狭いがベッドもふかふかそうだし、本もたくさん入りそうだ。

 何より、やっと魔法師団員の仲間入りできたことがシュルカは本当に嬉しかった。


「はいっ。リィナさんもワルドさんも手伝って下さりありがとうございました!」


 ワルドさんとは、この2ヶ月間でお友達になった衛兵さんの名前である。

 今日で倉庫で暮らすのは終わりだと言ったら、部屋の移動に付き合ってくれた。


「どう致しまして。」


「良いってことよ。2ヶ月間それなりに楽しかったしな。ここでも頑張れよ。」


「はい、ありがとうございます。」


 そのとき、コンコン、とノック音がした。


「シュルカ、入っても良いかな?」


「アラン師団長?! はい、大丈夫です。」


「うん、もう荷物運びは終わったみたいだね。じゃあこれ、君の制服だよ。」


 と言って渡されたのは、白に優しい緑で刺繍の入ったローブのような服と、同じ白生地に肩口と腰回り・スカートの淵に黒で刺繍が入っていて腰回りに緩く紐のついたミモレ丈ワンピース、黒のブーツ、同じく黒の外套と、もう少し軽装の羽織りだった。ちなみにワンピースは半袖と長袖があった。


「ローブは正装ね。ワンピースは普段着、男の場合は僕が今着ているようなゆったり目のシャツとズボン。あとはこれを常に服に付けておいてね。」


 と言って渡されたのは編み込まれた紐の片方の端に黒の小さな、もう一方の端に白の大きな水玉型の水晶のようなものがついたアクセサリーだった。


「腰の紐を通すところに引っかければ良いから。これが簡易的な身分証になるからね。ちなみに魔法師団が白、騎士団は黒だよ。魔物駆りはどっちにも属してるけど、一応君はこっちの管轄だから大きいのが白になってる。」


 なるほど、色で分けているのか。

 アクセサリーみたいでおしゃれだなぁ。


「ありがとうございます。」


「うん、これで君もついに魔法師団の仲間入りだよ。ま、しばらくは僕の元で魔法の勉強をしつつ色々見て回って貰うことになるけど。まぁ頑張ってね。」


 マジか、マジですか。あのドS授業続くんですね。まぁ楽しいけど...。


「でもとりあえずは合同演習にむけて色々やることがあるから、団長から師団長の方に話が回ってくるかと思うよ。良いペアに会えると良いね。」


 リィナさんが助け舟を出してくれる。


「そうさ、まぁ何かあったら俺も何処かにいるからまた話に来いよ!」


 ワルドさんも優しい。


 微笑んで、それぞれの言葉で応援してくれている人たちに改めて向き合って、こう宣言する。


「...はい。皆さん本当にありがとうございます。私、皆さんのお役に少しでも立てるように精一杯頑張ります!」


 新たな日々に少しワクワクする。

 こんな感覚、もしかしたら初めてかもしれない。


 本当に、楽しみだなぁ。そう、ボソッと呟いてシュルカは笑った。

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