6.それはそれは美しい奇跡でした

「ん...。朝、か。」


 この倉庫、もとい部屋での暮らしもだいぶ慣れたと思う。そんな手つきで顔を洗い、パンを焼いて食べる。

 そして、今日の授業は...と考えてから、思わず眉を寄せてしまう。

 今日は、はじめてのアラン師団長直々の魔法の授業の日だった。


 2ヶ月という短すぎる期間でなるべく多くを得るために作られたスケジュールは、これまたかなりキツイものだった。

 1週間のうち、6日は毎日同じ科目がいくつか入っていて、例えばマナーや文字、この国の歴史なんかを学ぶ。そして最後の1日は終日魔法の練習に当てられていた。


 髪をすきながら、あの師団長の顔を思い出す。

 黒に見えてその実、日に透けると藍色が柔らかく浮かびあがる長髪は後ろで緩く束ねられ、菖蒲しょうぶのような色の切れ長な目を軽く伏せれば、そこにいるのは儚げな美人である。


「でも頭の中は魔法とそれに使う実験体のことしか考えてないよなぁ、あれは。」


 はぁ、と溜息をついて師団長の部屋に向かう準備をするのだった。




 -・*・-

「今日はまずここで魔法とはそもそも何なのか、ということについて話そうか。」


 と言われて連れてこられたのは城の裏山。

 なんでも太古からの神聖な森を手つかずのまま守ってきたものだそうで、いつ来てもこの森だけは全ての季節・気候の植物が生い茂っているという不思議な場所。


 木は一本一本がっしりと根を張り、上の方は複数の木の枝が入り混じって所々に網目のように木漏れ日を落としていた。

 幹にはツタが絡まり、足元にはコケと様々な草花が可愛らしく咲いている。


「...まるで天国みたいですね。」


 すると真顔で師団長がこう言った。


「君の琥珀のように透き通った髪と若苗のような色合いの瞳によく似合うね。これは期待できそうだな。」


 少しドキッとした私を許してほしい。

 だってこの人、ただの鬼畜ドS男かと思いきや、こんなに綺麗な顔でしれっと女ったらしなことを言ってのけるなんて反則でしょう。


「期待って、何にですか。」


 頰が赤くなるのに気がついて、慌てて質問を返す。


「あぁ、魔法を使うには自然のものと仲良くなる必要があるんだけどね、君のその容姿は緑によく溶け込むから期待できそうって話だよ、もちろん。」


 アー、デスヨネ。この人魔法にしか興味ないんだったわ。


「あれ、でも確か私は透明な魔力持ちですよね?魔物を通してしか魔法は使えないんじゃ?」


 つまり、透明な魔力持ちだったおかげでシャリリグランの街中で急に魔法が発現して魔力持ちとバレたりせずに済んだ、ということだ。それに関しては感謝していたところなのだが...


「うんそうだね、君は透明の魔力持ち。でもそれはあくまで適性がそうだというだけ。他の魔法が使えないわけじゃないよ。」


「そうだったんですか⁈」


 初耳である。


「言ってなかったっけ。まぁ今言ったから。とにかく、はじめはどの植物や動物がどの適性と繋がるのか、ということから覚えてもらうよ。その魔法にあった媒体を持っていればもちろん、イメージするだけでも魔法の威力に大きな違いが出るから。」


 それ結構重要な情報ですよね。

 まぁもうそういう人だってなんとなくわかってきましたけどね!


「まずは、僕の適性のひとつ、火から。」


 そう言って師団長が摘み上げたのは#蘇芳__すおう__#の花。


「ーーーー灯せ。」


 その一言で、師団長の周りに蘇芳の花の形のオーラがまとわりつくように咲きほこり、次の瞬間それは消え、師団長の前にフワッと小さな火が灯った。


「綺麗...。」


 はじめて見たそれは、文字通り目を奪われる美しさだった。


 魔法とはまこと奇跡の力なのだと思い、これから学ぶ奇跡への期待が高まっていくのをシュルカは感じていた。

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