5.とても綺麗なお城でした

「失礼致します、アラン師団長。」


「あぁシュルカ、おはよう。ちょうど良かった、今から僕は執務なんだけど、今日は君に城内の案内をしようと思ってね。今用意するから待ってて。」


「おはようございます。ところで、今から執務とのことでしたが、どなたがご案内してくださるのでしょうか?」


「もちろん僕だよ?」


 なんっっでやねんっっ!!


 危ない、つい声が出そうになったわ。


「...執務があるのでは?」


「そうだよ?だから君を案内するの。」


 ...師団長の隣の男性が無の境地に至っているが。


「師団長はお忙しいでしょうし、私は他の方で大丈夫ですが...。」


 男性が神でも見ているかのような顔になった。


「え?やっぱりシャリリグランに帰りたかったの?」


「是非とも師団長に案内して頂きたい所存です。」


 即答である。

 だがもう男性の顔に目を向ける勇気はなかった。




 -・*・-

「魔法師団の使う部屋はここら辺一帯に揃ってるから。その中でも細かく分かれてはいるけど、それは使うときに追々説明しよう。とりあえず使うのはこの部屋かな。」


 そこは魔法師団の部屋一帯と言われたところから少し離れた小部屋だった。机と椅子、本棚のみの質素な部屋。


「ここは?」


「君の勉強場所だよ。マナー、文字、魔法、王宮内のこと、他にも最低限知識として必要なことは沢山ある。」


「勉強ですか。」


「そうだよ、2ヶ月で詰め込んだから。」


「は?」


「教師は女官兼騎士団員の人にお願いしたから。魔法は僕が教えるけどね。」


「は?」


「じゃあ他の部屋も案内してくよー。」


「ちょ、待って下さい!」


「なぁに?」


 この人絶対確信犯だよ。にしてもめっちゃ良い笑顔だなムカつくけども!


「半年の間違いですよね。」


 ニッコリと笑ってみる。


「耳が悪いみたいだね?治してあげようか。」


「...ッ2ヶ月精一杯頑張ります。」


「治してあげても良かったのに。」


 マジで残念そうな顔すんな絶対嫌だわ。

 んでもってそんな顔ですら美人なのが余計に腹がたつ。




 -・*・-

 ...カツンカツン。

 大理石のように真っ白で磨き上げられた廊下に2人の足音が響く。その音さえも、シャリリグランの王城よりも涼しくて軽やかで耳に心地よい。


「綺麗なお城ですね。」


「みんな陛下のことを心から尊敬しているから、仕事はすすんでやってるみたいだね。逆に、シャリリグランの王宮はどんなところなの?」


「あそこは...私があそこにいたのは1日だけなのではっきりとは言えませんが、空気自体が淀んでいるような気がしました。」


 シャリリグランの王宮も衛生的に言えばとても綺麗だった。だが、シャリリグランでは下働きの人たちは常に無表情で、庭の切り揃えられた木の葉が逆にその無機質さを露呈していてどこか怖かった。

 誰も心を込めて国のため王のためと働いている感じではなかった。

 きっと、自分を守るので精一杯だったのだろう。


「ここは、凄くキラキラしていますね。」


 遠くで、休憩中であろう女官たちが楽しそうに笑っている。その景色はキラキラと光って、春の黄金の陽光や木々の若葉の瑞々しさと相まって本当に綺麗だった。


「キラキラ?意外とロマンチックなんだ?」


 ...そういやこいつは一言多い野郎だった。


「女の子はみんなロマンチックなんです!」


「へぇ。まぁとにかく、この国の人が日々を楽しんでいるのは確かだと思うよ。」


 そう見える。ここに来て間もない私にとっても。

 それは、なんと幸せなことだろう。

 そしてそれはきっと私も。


「私はやっぱり幸せ者ですね。」


 その瞬間、アラン師団長が目を見開き、こちらをジロジロと見る。


「こうやって無理やり連れて来られて、君はそのことに憤ったりはしないの?」


 そう言われても。


「...私が生まれた場所がたまたまシャリリグランという区切りの中にあっただけです。少なくとも私やあそこで暮らしている人にとって、シャリリグランとはその土地の名前に過ぎません。それでも、庶民の生活はその区切りに、国に惑わされますが。」


 神妙な顔で師団長が頷く。


「なら、この土地で自分の幸せを掴むといい。」


 そう言って、こちらに向かって微笑む。


 あぁそうか、師団長は確かにとんだドSだけど、でもそれは実直なだけで、つまりはその笑顔も本物なんだ。

 その微笑みはこの国を体現しているかのように、本当に美しかった。

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