2.とても暇でした

じゅわぱちっと良い音がする。

春のこの時期、山菜のあげものはご馳走で、その苦味がそのままお母さんとの思い出になっている。


なんて、過去を思い返して料理をして少し冷静になってみるものの、やっぱりここは住み慣れたあばら家ではない。

今私がいるのは、アリウェスタ王宮内の敷地の別棟、とは名ばかりの、まぁ城の大きさから見れば倉庫のようなところである。とはいえ広さは十分だし、調度品はこれまでの生活で使っていたものと比べれば断然品質が良い。

ちなみに料理だけでなく洗濯やらも自分でやっている。


一応思った。

仮にも姫、仮にも大使、この扱いで良いのか?と。そして案内してくださった方に聞いたところ、どうやら私の今までのことは全て伝わっているようで、つまりは私が、シャリリグランの王妃様の子(私のように庶子ではない正当な王族の方たち)の良い隠れ蓑というか代わり身というか捨て駒というか、とにかくもそういうものとして送られてきたことは既に把握済みなようだった。


そんな相手に割くお金や場所や人手なんてないのは当たり前のことだ。


念の為(といってもこれは私のためではなく王宮内の平和のためだが、)衛兵は常に扉の前に1人ついていたし、何かあれば相談してくれて良いとも言ってくれたのだから、まぁこれはある意味好条件かもしれない。


なにせ、私は根っからの庶民。

あれこれ優遇されても困るというもの。


とはいえ、流石にご飯の材料なんかはただで貰えるためお金を稼ぐ必要もなく、日中の殆どは暇だった。


そう、暇。めちゃくちゃ暇。

1日3行しか書いてなかった日記が、この国に来てから平均1ページ(!)になったぐらいには。


暇すぎて衛兵さんとはかなり仲良くなってしまった。

初めはうざったそうだったが、次第に打ち解けてくれて、今ではこの国の情報をくれる大事な人だ。もちろん暇つぶし相手としても。

曰く、この国は軍事大国で、魔法師団や騎士団の活躍が凄いらしい。とはいっても王が戦争狂いの暴君なんて訳では全くなく、むしろ先進的で、出自に関係なく実力で分け、資本は民に還元し、周辺国と和平協定を次々と取り付けた稀に見る賢帝だそうだ。


「...シャリリグランとは全く違うのね。」


「あそこは、王が息子の言葉に惑わされて国政を決め、王妃に強請られて出費を重ね、周りの貴族にのせられて庶民に国税を課すような、とんでもない国だそうだなぁ。」


その通りである。

17年シャリリグランで暮らしてきたシュルカだが、あの国を祖国というのは抵抗がある。王都ですらスラムがあり、王都から離れればその日の食べ物すらままならない生活を送る人がそこかしこにいる。

それでも税金は毎月のように上がり続ける。もはや、国民には反乱の狼煙をあげる気力すらないのだ。

このまま少しずつ腐っていき、きっと近いうちに隣国のどこかの領地となるだろう。そう思っていた。むしろ、そう望んですらいた。そんな国だった。


アリウェスタは綺麗な国だった。

土地的にはシャリリグランと変わらないはずで、そんなに豊かな訳ではない。でも、王宮に来るまでに通った村や町の人々の顔は幸せそうだった。


「むしろ私、運が良かったとも言えるのかも?」


なんてひとりごちて、揚げ物を口に入れる。

それは、かつてのものと変わらず美味しかった。

でもどこか胸がチクッとするのも感じた。

なんだかんだ言っても、シャリリグランは、その王都は、シュルカの育った町。知り合いもそれなりにいた。友だちと言えるほど親しい人はいなかったけれど。でも、その人たちは今日も今夜の食事のために必死に働いている。


「罪悪感、と言うほどでもないけど、でも私も働かなくちゃなぁ...。このままだと太るだけだしね。」


「よし!」


明日、衛兵さんに相談してみよう。




-・*・-

翌日、上の方々に聞きにいってくれた衛兵さんに提示されたのは、騎士団or魔法師団or下働きだった。

女官はダメなのか聞いたところ、上の方からの指示で、一応、王族に近すぎる仕事はアウトとのこと。

一応、というのは、私がシャリリグランの王族にこれっぽっちも情がないことをアリウェスタ側も把握しているから。

ちなみに騎士団とか魔法師団も場合によっては王族警護とかもあるんじゃ...?と聞いてみると、ニヤッとして、


「あそこは王族にとって1番の守り手であると同時に、それに反旗を翻そうというものに対しては1番の攻撃手。その只中に小娘が入れられて、何かできることがあると思うか?」


と言われた。うっ、確かに。無理だわ。私なんてギッタンギッタンでチリにすらならんわ。いや、王を倒そうなんて考えてもいなかったけどさ。


まぁつまりは騎士団や魔法師団は私にとって監視の役目にもなるからちょうど良いという話なのだろう。


下働きは、当然ながら下っ端すぎて王族と会う機会なんて全くないのでOK。ちなみに給料も少ない。


「騎士団から魔法師団か...。」


「素直に現金なやつなんだな。まぁでも魔法師団は魔力やら適正やら色々あるから、希望しても確実じゃあないぞ。」


...なんか一言多い。お金は大事だろ!!


盛大に眉をひそめつつも、まぁいいか、とりあえずは魔法師団で検査を受けてみて結果が出てから考えよう、そう決めたシュルカだった。

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