わたし、隣国の人質ですが幸せになります

瓶覗しろ

1.王と王子はクソ野郎でした

 羽ばたきの音。頬を撫でる風。少しの不安と、そう、これはきっと高揚感。今の私なら、彼らと一緒なら、できる。




 きっと。




 -・*・-

 私、シュルカって言います。歳は16。名字はありません。


 この国、シャリリグラン王国では貴族しか名字はもっていない。対して、私は王都(とは言っても住んでいるところはスラムとも呼ばれる王都の外れ)で働くごく普通の庶民だからまぁそれは当たり前のこと。の、はず、そう、私は庶民のはず。


 でも今いる状況は普通の人にはちょっと遠い気がする。だって私が今いるのはシャリリグランの王宮のさらに奥の、王の間の近くにある控え室。しかもそこで沢山の侍女さんに囲まれてふわふわのドレスを着せられたかと思ったらゴシゴシ顔を洗われて、今はお化粧の真っ最中。


 ってちょっと、お化粧濃すぎじゃないかな......。そりゃ、普段からお肌に気を使ってるお貴族様とは下地が全く違うけれど。


 とまぁ、とにかく、なんでこんなことになったのか今一度考えてみることにする。ちょうど暇だし。


 数時間前。

 私はいつも通り起きた後、お金を稼ぐためにレストランに向かっていた。

 ちなみにそこらへんの小汚い女にウエイトレスなんかやらせてくれないので、主に掃除やゴミ担当である。それでも、職があるだけマシというものだった。


 そこに。王都とはいえ端っこのここには似つかわしくない立派な馬車がやって来たのだ。そして何かあったのかななんて呑気に考えていた私の目の前に止まった。

 小さな割にはとても精緻なつくりが各所にあるその馬車から、ひとりのこれまたこの場所には綺麗すぎるおじいさんが出てきて、私を目にとめるとこう言った。


「シュルカ・シャリリグラン姫様、お初にお目にかかります。わたくしは陛下より仰せつかり貴女様をお迎えにあがりました、グラン・シャスターと申します。つきましては」


「ちょ、まっ、え、姫、ちょ、......は?」


 食い気味の上に結局ちゃんと言葉になっていないところはご愛嬌だが、それだけ驚いたのである。姫って急に呼ばれたんだし。


 とにかく、その後もゴタゴタと言い合ったけど、結局とりあえず陛下にあってほしいとのことで半ば強引に連れてこられたのである。


「はぁ。とはいえなんかの間違いなんだろうなぁ。お母さんは、まぁ美人だけど普通の人だったし。お父さん、は確かにいなかったな。あれ、いや、でも流石に陛下なんてことは......。」


 そういや今上陛下は下がゆるゆるの方で、良くお忍びでふらふらと出かけては相手を作っているとかなんとか、あれは誰の話だっけか。


 いや、深く考えるのはやめよう、そうきっと全ては気のせいで、夜にはあのあばら家に帰されるわけだから。


 とかなんとかごちゃごちゃ考えているうちに侍女は化粧を終えて下がっており、そこにグランさんが来て、お時間です、と言った。そして王の間に入ってからの諸々の注意を受ける。


 入ると。


「汝、名をシュルカ・シャリリグランなるもの、そなたを隣国アリウェスタの大使として使わす。......で、良いのだったな息子よ。」


 ーークソみたいな王がクソみたいなことを告げた。


 あぁいや、私も年頃の女の子だもの、クソだなんて言わないけど。いやそうじゃなくて。


「......アリウェスタ?大使?」


「そうだ。ちなみにこれは命令であってお前に選択権はない。まぁ、実質はひとじt))あぁいやなんでもない。こちらとあちらの仲を保つために精々役立て。以上だ。陛下はお忙しい、もう下がれ。」


 と陛下の横のクソ王子が言った。いやこれはもうクソでいいだろう。人質とか言っちゃったよこの人。しかもお忙しいって、私、呼ばれた側なんですけど。


 ということで、隣国へ向かう馬車に揺られております。大使だと言うのにお供1人もつけずに。もう良いでしょうか。


「っっっざけんな!!!!あのクソ王とクソ王子!!!!!!!!!!!!!!」

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