第116話 ノスタルジック

凛子は、ミラージュのノーズを赤城山の方へと向け、山頂にある展望台を目的地に走り出した。 長い長い上り坂をミラージュは軽快に登っていき、赤城道路の起点へとあっという間にたどり着いた。 どんどん森が深いところへと入っていき、どんどんコーナー数も増えていく。 走り屋時代、皆で集まった姫百合駐車場を過ぎると、昔いつもここを必死になって走り抜けた頃の記憶がバッと蘇ってきた。 暗い夜の中、何回も連続するヘアピンを、ステアリングを駆使して、シフトチェンジをこまめにして、細心の注意を払ってペダルワークをして、頂上まで一気に駆け上がる・・・!! そんな記憶が思わず脳裏に移っていた。


無論、今はそんなに飛ばすはずはなく、流れに身を任せて、肩の力を抜いて走り抜けていたのだが、それだけでも本当に懐かしい気分で気持ちよく走れていた。


ミラージュの軽快なフットワークと、上へ上へと回転を上げていくエンジンフィールをそっと楽しんでいた。


そこそこ流れが良かったのもあって、あっという間にビジターセンターのある上の方までたどり着いた凛子は、そのまま真っすぐ進んでいき、頂上の展望台の方へと進んでいった。


砂利の駐車場には、休日ということもあって、家族連れのファミリーカーや、年配の夫婦、そして私のような如何にも車が好き、運転が好きそうな人の車がたくさん並んでいた。


とりあえず私は、空いていたスペースにササっとミラージュを止め、自販機で缶コーヒーを買って、その景色を眺めながら、休憩することにした。


肌寒いくらいに涼しいけれど、澄んだ美味しい空気の中で飲む、かなり甘めな味付けの缶コーヒーは、あの時と変わらない格別な味がした。 もうあの頃からは何年も経ってしまっていたけれど、この素晴らしさは今も変わらなかった。


こうして軽く流していただけなのに、こんなにも懐かしく、あたたかな気持ちにしてくれるクルマは、やはり素晴らしいな・・・・と凛子は感嘆していると、何やら後ろから私を呼ぶ声がしてきた。


続く。

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