第86話 クルマの楽しさ。

私は、パジェロエボを国道50号線羽生方面へと進ませていた。 理由は後で細かくわかると思うのだが、助手席にいる彼にある体験をさせたかったからだ。


国道50号線はスバルでおなじみ、群馬の産業都市である太田市や、森高千里の「渡良瀬橋」で有名な足利市、そして茨城県の県庁所在地である水戸市までを結ぶ大動脈で、文字通り北関東の物流と暮らしを支える道路なのである。 群馬区間では、ある場所から2車線道路となり、流れも通勤時間とかでなければ結構よく、中々走っていて気持ちのいい区間なのであった。


流れの良い道路を、私は流れに乗って泳がせるようにパジェロエボを走らせた。パジェロエボのエンジンは、その強烈なスペックばかりが見られがちだけれど、豊かな排気量とエンジン特性から生み出される豊かなトルク特性のおかげで、街乗りをしていても気持ちよさを味わえた。


高いギアを維持していてもグングンと車速は伸びるし、低回転で高いギアを保ったままアクセルを強めに踏んだ時の「ドドドドド」というドスの利いた排気音も堪らない。


音だけでも白飯三杯は固いなあ・・・デュフフ。


じゅるりとあふれ出そうになる涎を押さえていると横から声が聞こえてきた。


「おーい!凛子姉ちゃん!!そろそろ右だよ!!」


「おっと危ない! ありがと~陽ちゃん。」


危うく道を間違えそうになったものの、よーちゃんのナイスアシストで難を逃れた。


そこからまた暫く走っていると、陽ちゃんがまた話しかけてきた。


「ねえ、凛子姉ちゃん。なんで凛子姉ちゃんってクルマが大好きなの?」


「えーなんでって・・・・中々唐突だなあ。そうだね、大好きな相棒と呼吸を合わせて、好きな時にどこまでも駆け巡れるから・・・かな?」


「好きな相棒と好きな時にどこまでも駆け巡れる・・・・?」


少し陽ちゃんは首を傾げていた。


「うん、そう。そういうところが私的には魅力かなって思ってる。まあ、私の場合そもそもこのパジェロが大好きってこともあるけど、そんな大好きな相棒との対話を楽しみながら、自由にどこまでも、走っていられる、そんなところが好きだな。 別にどこに行きたいかなんて決まってなくったって、どこか遠くに行きたいと思ったら好きな道辿っていけるし、好きな曲聞いて景色見てしんみりしたっていいし。ある意味、もう一つの自分の世界を持ったような感じになると思うな。陽ちゃんも、いつか本当に乗る時が来たら是非体感してみてよ。」


「ふーん。なるほどね・・・・ま、いつかは、ね。」


少しだけ二ッとした表情を浮かべて、陽ちゃんは答えてみせた。


そんなこんなしているうちに、いよいよ目的地が見えてきた。


続く。

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