第73話 W12の咆哮

「どう、見たことないでしょ?これ」


「いやあびっくりしました・・・・初めて見ましたよ・・・・こんなエンジン。」


そう、そのトゥアレグには世界的にも非常に珍しいタイプのエンジン、6リッターW型12気筒エンジンを搭載していたのだ。


通常よく四輪車に使われるレシプロエンジンは、ピストンを縦に配置した直列エンジン、ピストンを斜めにして左右交互に配置し、多気筒化してもコンパクトに収まるようにしたV型エンジン、ピストンを左右方向に水平に倒した水平対向エンジンと3種類があるが、このW型エンジンでは、V型エンジン二つを左右斜めに並べたような構造になっていて、いわばV型エンジンの発展形のようなものになっている。この構造を取ることによって通常のV型12気筒エンジンよりコンパクトに12気筒を成立させられるようになっているのだ。


最高出力はトゥアレグに搭載されるものでは450馬力、最大トルクは600Nmを発揮していて、それに組み合わされるトランスミッションは6速AT。なんと2.5トンもある車体を僅か5.9秒で時速100キロまで引っ張る怪力を持っているのだ。


この形式のエンジンを製造しているのは、世界でもフォルクスワーゲンのみで搭載車種もフォルクスワーゲンの上位モデルであるフェートン、そしてトゥアレグ、また同じフォルクスワーゲングループのアウディなどに限られていて、大変希少なものとなっている。


ちなみにこのトゥアレグの正式名称は「トゥアレグ W12スポーツ」といい、このW12気筒エンジンを積み、専用エアロや専用セッティングの電子制御サスペンションが搭載されたスポーツの名に恥じない本格的なものになっている。 日本では世界限定500台のうち、100台が輸入され、当時フォルクスワーゲンでは史上初の販売価格1000万円超えをしたことでも話題になった、色んな意味で面白い一台になっている。


ある意味、自分が乗っているパジェロエボリューションにも近いところがあるので、非常に親近感も感じていた。


おおおお・・・・とうなりながら、私はこう続けた


「なるほど・・・・そういう事でしたか。割とエクステリアはシレっとしてるのに、中身はこんなモンスター級だとは・・・。」


「そうそう!そこが気に入ってるところなんです! 見た目は大人っぽいし、普段乗りしてる分には快適なんだけれど、ひとたび踏み込めば暴力的な走りをしてくれるのが本当に気に入っててね・・・・自慢の愛車なんです。」


男性は、トゥアレグのルーフを撫でながらそう言った。


話し込みすぎちゃったし、この人にも悪いからそろそろ引き下がっとこうかな・・・・と思い始めたその時だった。


「あの・・・もしよければ、少し横乗ってみませんか?」


男性が提案してきた。


「え、いいんですか!?どうしようかなあ・・・・じゃ、お言葉に甘えさせて頂こうかな・・・・」


私はほぼ即答でOKを出してしまった。 世界でも稀有なW12エンジンがどのようなものなのか・・・・という好奇心に負けた結果である。


トゥアレグのナビシートに失礼し、私はその時を待った。


続く。

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