第1146話 ワイバーン突撃
地上での戦闘を見ながら、どうした物かと考えている俺に、ボスワイバーンが吠える。
エルサの通訳がないので何を言っているかはっきりとわからないけど、なんとなく自分に任せろと言っている風な感じがした。
聞いてみると、コクコクと頷いてくれたのでその通りらしい。
ふむ、ボスワイバーン達は魔物と戦うのに躊躇いはないのか……まぁ、魔物を食べていたワイバーンもいたから、同種ですらない魔物なら問題ないんだろう。
再生能力が高いし、元々ワイバーンの皮膚は硬いのを考えれば、魔物の大群の中に突っ込んでも大丈夫そうだ。
……エルサや俺と戦っている時に、皮膚の硬さを実感する事はあまりないけど、ソフィー達に言わせたらあまり参考にならない事らしいからね。
「うーん、それじゃ、あの白い物体……二つある白い鎧には絶対に攻撃しないように。それで、周辺の魔物を蹴散らす。できる?」
「ガァ!」
シュットラウルさんに対して攻撃してしまったら、ワイバーンを受け入れづらくなってしまうかもしれないし、それでなくても攻撃しちゃダメな人だ。
そこら辺に気を付けて魔物と戦ってくれるかの確認をすると、意気込んで返事をしつつ頷いたボスワイバーン。
できれば、シュットラウルさんと話してからワイバーン達の受け入れや、実践投入をしようと思ったんだけど、状況が状況だから仕方ないか。
シュットラウルさんのいる場所に近付ける人がいないし、俺やエルサは残りの魔力に不安があるから。
「それじゃ……あ、もしかすると、驚いたシュットラウルさん達……あの白い鎧の人から攻撃されるかもしれないけど、できれば気にしないように。まぁ、傷を負わされたら気にしないってのは無理かもしれないけど、反撃はしないでね? こっちからも声をかけてみるから」
「ガァゥ!」
空からワイバーンが襲来したら、当然戦闘中のシュットラウルさんの攻撃対象になるだろう。
こちらの状況は伝わっていないし、魔物の援軍かと思ってもおかしくない。
反撃はしないように注意しつつ、俺からも空から声を掛けるのを約束する。
ただ……あの状態のシュットラウルさんに声が届くのかは、不安だ……鎧で顔も完全に覆っているから、音も聞こえにくいんじゃないかな?
「えーと、じゃあとりあえず頑張って」
「ガァ! ガァゥ、ガウ!」
「GRUAU!」
ボスワイバーンに向かって許可を出すと、もう一体のワイバーンに吠えた後すぐ、地上に向かって急降下を始めた。
かなりの速度が出ているけど、もしかしてあのまま突撃するのか? と思っていたら……。
「おぉ、そういえばボスワイバーンは魔法が使えるって言っていたっけ」
「魔物が怯んでいるのだわ」
ワイバーンのブレスとでも言うのか、魔法なんだろうけど口から炎を吐くボスワイバーン。
ちゃんと、シュットラウルさんに影響が及ばないような場所に炎を吐いて、魔物達を怯ませる。
結構な数の魔物が、焼けたようだ……ワイバーンの魔法を、客観的に見ると結構凄いんだなぁ。
空を飛ぶ事以外でも、強力な魔物だと言うのが頷ける。
「ワイバーンって、強かったんだなぁ」
「ふん、あんなのただの飛べるトカゲなのだわ」
「まぁまぁ、エルサは空の覇者だから」
ワイバーン達を見ながら、感想を漏らす。
地上に降りて、噛み付き、前足にある鋭い爪で斬り裂き、巨体を生かして小さな魔物を踏み潰し……と、シュットラウルさんの近くで魔物を蹂躙し始めたワイバーン。
ボスワイバーンもそうだけど、ワイバーンの方も弱い魔物の攻撃を意に介さず、左右に別れて蹂躙している。
「おっと、見ているばかりじゃいけないな。んんっ! シュットラウルさーん!!」
ワイバーンに見惚れているだけじゃいけない。
幸い、シュットラウルさんはボスワイバーンの先制魔法と、いきなり空から飛来した事に驚き、動きが止まっている。
自分達ではなく、周辺の魔物を攻撃しているからなのもあるんだろう。
「シュットラウルさーん!! 大隊長さーん!!」
聞こえているのかわからないけど、二人に呼びかけ続ける。
でも、ワイバーン達を見るばかりでやっぱり、こちらの声が届いていないのかと諦めかけた時、ハッとなったような動きをして、大隊長さんがこちらを見上げた。
「おーい!!」
できる限り声を振り絞って、見上げた大隊長さんに見えるようにエルサの背中から体を乗り出して、手をブンブン振ってみる。
お、大隊長さんが気付いたみたいだ、隣のシュットラウルさんに何やら話しかけている素振りが見えた。
「あの鎧、結構動きづらいのかな? まぁ、機敏な動きができそうな見た目ではないけど。とにかく、呼び続けておこう、おーい! シュットラウルさーん!」
大隊長さんから話しかけられたシュットラウルさんは、ワイバーン達に武器を向けようとしていたところで、振り向こうとして持っていた武器が大隊長さんの鎧にぶつかっていた。
大隊長さんは少しだけバランスを崩した程度だから、重さはそこまででもないのかな?
全身を完全に覆っているから、動きづらいのは当然として……大きさもかなりの物だから、人間が中に入っている事を差し引いても、かなりの分厚さだろう。
ものすごく分厚い金属の鎧の中に入り込んで、魔法で防御性能を上げつつ重さも軽減して動けるように、ってとこかな?
そりゃ、大きさも相俟ってかなりの魔力量が必要になるのも無理はないよね。
「おーい! おーい! あ、ようやくシュットラウルさんが気付いた」
続けて呼びかけつつ手を振っている俺に、大隊長さんが武器で空を示してようやく気付いたようだ。
大隊長さん、鎧が邪魔で腕を真上に上げたり、自由に動かせられないんだろうなぁ。
それはともかく、シュットラウルさんは俺に気付いたのを示すように、頭上に向けた突撃槍のようなものをグルグルと回している。
「さて、気付いてくれたのはいいけど、これからどうするか……」
多分、叫び声はなんとなく聞こえているんだけど、ワイバーンの事を伝えられるくらいに聞こえているのかどうか……。
向こうも俺達に向かって何か言っている風ではあるけど、一切何も聞こえないし。
ワイバーンが魔物を蹂躙する際の音や咆哮、周辺一帯の魔物の声や音などが溢れている。
「とりあえず、叫んでみるのだわ? もしかしたら聞こえるかもしれないのだわ」
「……そうだね。とにかく伝えないと。シュットラウルさん、やっぱりワイバーンを警戒しているようだし」
エルサの提案に乗って、伝わるかどうかはともかくワイバーンに危険がない事を伝える事にする。
俺達を見上げつつも、油断なくワイバーンの方を見ている様子だし。
魔物を攻撃しているといっても、ワイバーンも魔物だし何も知らない人からすれば敵にしか見えない。
そもそも、魔物に囲まれている状況下で、途切れない魔物を運んできているのがワイバーンだと知っているはずだからね。
「えーっと。んんっ! シュットラウルさーん! そのワイバーンは、敵じゃありません! 攻撃はしないで下さい!」
できる限り喉を振り絞って叫んだ。
けど……シュットラウルさんは武器を斜めに倒して、よくわからない様子。
多分首を傾げる代わりって事だろうけど、俺の声自体はなんとなく聞こえていても、何を言っているかまでははっきりわからないみたいだ――。
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