第1145話 白くて大きな物体



「単なる国民は、盾部隊なんて任せられないと思いますけど……」

「……センテのギルドマスターと、ヤンにはめられた」


 溜め息を吐くように言って、項垂れるマックスさん。

 そういえば、どうしてマックスさんが盾部隊を任されているのか、と思っていたけど……現役時代の実績からだったのか。

 ヤンさんは同じパーティだったらしいし、センテのギルドマスターのベリエスさんは当然、現役時代の実績を知っている。

 魔物に囲まれたセンテを守るため、冒険者ギルドとアテトリア王国の正規兵が協力する時、ヤンさんやベリエスさんから推薦があったんだろう。


「本来なら、俺もマリーも南門でモニカ達と戦うつもりだったんだが……」

「ま、まぁでも、マックスさんとマリーさんが頑張ってくれているおかげで、こうして東門を突破されていないんだと思いますよ? ね?」

「も、もちろんです。マックスさん、マリーさんの指示は的確で……現役を退いたとはいえ、経験豊富な冒険者だったお二人に部隊を任せるのは、間違いではなかったと」


 俺は二人の活躍を全部見たわけじゃないけど、戻って来た時、部隊を指揮して魔物を引き付け押し留める姿は少しだけ見た。

 演習の時に兵士さん達の動きは見ていたけど、あぁいった事はマックスさん達がいたからできたんじゃないかと思っている。

 中隊長さんにも話を振ったら、深く頷いて同意し、マックスさん達を称賛した。


「お、おだてても、何も出ないぞ? 獅子亭に来たら、たっぷり大盛で美味い物を食べさせてやるくらいだ」

「十分出てますよね」


 そっぽを向いて頬を指先でポリポリ掻くマックスさん、照れているようだ。

 獅子亭は大衆向けの料理屋で、冒険者からも人気が高いお店。

 安い美味いを地で行くのはマックスさんの理念だろうけど……量も多い。


 それをたっぷり大盛でというのは、人によっては拷問に近いのではないだろうか? 食べきれずに残したら、マリーさんからの鋭い視線が飛んで来るし。

 いや、怒られるわけじゃないんだけどね。


「とにかく、用件はわかりました。シュットラウルさんにはこちらに戻って来るようお願いしてみます。聞き入れてくれるかどうかまでは、保証できませんけど」

「いえ、言って下さるだけで十分です」

「対等以上に話せるリクなら、聞き入れてくれるだろうと思うが……任せた」

「はい。それじゃ……うーん、兵士さん達がいる間を通って行くのも、邪魔になるかな。エルサ、空から行こう」

「了解したのだわ」

「ガァゥ?」


 シュットラウルさんがどうするかはともかく、戻るように言う事は約束する。

 そうして門の外へ向かおうと思ったけど、兵士さん達が門を固めている場所を、エルサやワイバーンを連れて通るのは邪魔になるからと、空を飛んで行く事に決めた。

 地面に伏せて俺を乗せてくれるエルサ、それを見て首を傾げるボスワイバーン。

 なんとなく、自分に乗って欲しそうな目をしている気がするけど……それはまたの機会だ。


 エルサよりワイバーンを優先して背中に乗ったら、エルサが拗ねそうだし。

 あと、リネルトさんは気に入ったみたいだけど、やっぱりエルサのモフモフが俺にとっては一番だからね。


「それじゃあ、行ってきます。――エルサ、お願い。ボスワイバーン達は付いて来て」

「頼んだ」

「了解したのだわー」

「ガァゥ」


 ふわりと浮かぶエルサ、翼をはためかせるワイバーン……ちょっと、近くにいた兵士さん達に風圧が当たっていたけど、人が飛ぶほどじゃないっぽいから大丈夫か。

 エルサと違って、ワイバーンは魔力を使いつつも翼を強く羽ばたく必要があるみたいだね。

 ……飛び立つ時は、周囲に気を付けた方が良さそうだ。


「んーっと……あ、あれか」


 周辺が一望できるくらいの高さになり、門を越えたところでシュットラウルさんらしき人がいる場所を発見する。

 魔物の集団の中、特に魔物が群がっている場所だ……他の人達と一緒に戦っているのかと思っていたけど、考えていたより魔物達の中に食い込んでいた。

 さらにその周辺には、外壁の上から魔法が絶えず降り注いでいる。

 炎の魔法や爆発する魔法ではなく、氷の矢とか槍のような魔法なのはシュットラウルさんに影響を与えないようにだろう、多分マリーさんの指示だ。


 それと、シュットラウルさんがいるらしき場所から、少し離れた場所に向けているのも、直撃しないための措置だろう。

 一応、群がる魔物達の足止めにもなっているので、囲まれてはいても押し流されるような事になっていないみたいだ。


「あれは、なんなのだわ……」

「ほんと、なんだろうね……」


 エルサの呆れ声と一緒に、俺もよくわからないと声を漏らす。

 どう見ても人間サイズではない大きさの何かが二つ、魔物に囲まれながらも頭二つ分くらい出ているのがわかる。

 それらは、魔物が襲い掛かって来るのも意に介さず、ただただ武器を振るっている……片方が、突撃槍ようなものを持っているから、あっちがシュットラウルさんかな?

 もしかすると、もう片方は一緒に前線にでたという大隊長さんかもしれない。


「あれ、鎧って言っていいのかな?」

「リクの記憶に、似た物があったのだわ」

「……確かに似ているけど、多分違う物だと思うよ」


 武器を振るっている大きな二つの何か……形は一応人間とほぼ同じ、まぁ大きさが異常だけど。

 上から見下ろしているからはっきりとわからないけど、多分三メートル近くあると思う。

 頭の先からつま先までを完全に覆う、真っ白なフルプレートアーマーは魔物を打ち倒そうが、魔物から攻撃されようが、傷一つどころか汚れすら付いていないように見える。

 鎧の効果だろうか?


「で、リク……だわ。あそこにどうやって行くのだわ? 魔物を蹴散らすのだわ?」

「うーん、あんなに魔物が密集している場所にいるとは思わなかったからね……どうしよう?」


 アマリーラさん達の時とほぼ同じような状況……違うのは、シュットラウルさんが動き回るのではなく、四方八方から襲い掛かって来る魔物を倒している事。

 リネルトさんのように素早く動き回ったり、アマリーラさんのように剣を振り回して豪快に数体の魔物を一度に斬り飛ばしたりはしていない。

 そうだったら、魔物と距離ができたタイミングを見計らって、結界で隔離のような事ができたんだけど……完全に待ちの体制だ。

 以前アダンラダと戦った時の動きと違って、身軽に動いていないから鎧が重いのかもしれない。


 何もしなくても、魔物が大量に襲い掛かって来る状況だから、待ちに徹するのは体力の消耗を抑えるいい方法だとは思うんだけど……。

 かと言って、エルサの言うように蹴散らすとなると、魔力が心配だ。

 俺もそうだし、エルサも大きな体になっているせいもあって、魔力がそろそろ危険域といったところだ。


「ガァウ? ガァ!」

「どうしたんだ、ボスワイバーン……?」

「ガァゥ! ガァガァ!」

「なんて言っているのかはさすがにわからないけど……任せろと言っている感じ、かな?」

「ガァゥ」



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