第1120話 リクの魔法といつもの失敗
「それでリク、どうするのだわ?」
魔物と兵士さん達がぶつかっている東門、その上空で滞空しながらエルサからの質問。
「想像してたよりも、魔物の数が多いね。俺が突っ切った時より増えている? まぁ、やる事は決まっているんだけど」
上空からだと、魔物が群がり広がっている光景がよく見える。
かなりの広範囲に集まっており、数だけで言えばルジナウムの時よりも多い気がする。
正確な数は数えていられないからわからないけど……まぁ、あっちは大型で強力な魔物が多かったからね。
東門に集まり、魔物とぶつかっている兵士さん達はよく耐えていると思うけど、このまま放っておいたら間違いなく数で押されるだろう。
「とりあえず、兵士さん達のいる付近には何もできないから……巻き込んじゃいけないからね」
「……リクも、それくらいは考えているのだわ」
「失礼な。俺だって味方を巻き込まないようにいつもちゃんと考えているよ。ちょっとやり過ぎる事があったりはするけど」
別に俺だって、魔物を倒せるなら周辺がどうなろうと関係ない……なんて事は考えていないからね。
一応これまでも、本当に味方を命の危険にまで晒した事はないと思うんだけ。
ヘルサルの時はエルサがいなかったら、ちょっと危なかったけど。
……ちょっとどころじゃないかな? まぁ、それはともかくとして。
「エルサ、魔力に余裕は?」
「それなりにあるのだわ。ただ、大きくなって魔物を蹂躙……とかだとあんまり長くはできないのだわ」
「魔法……結界を使う余裕はありそうだね」
「駄神の時みたいな、結界を何重にも張るとかでなければ大丈夫なのだわー」
すっかりエルサからの破壊神の呼び方が、駄神で固定されちゃったね。
まぁ、向こうもエルサの事を駄ドラゴンって呼んでいたから、お互い様だろうけど。
「それなら……」
「ふむふむ……何をするかわからないけどだわ、了解したのだわー」
エルサに結界をどう使うかを話し、お願いする。
少し待ち、俺が言った通りに結界が張られるのを確認。
「でも、これじゃ状況は変わらないのだわ?」
「センテ側に影響を与えないためだからね。状況はこれから変えるんだ」
エルサにお願いした結界は、ぶつかり合う兵士さんと魔物の境目辺りから数メートル上。
そこから南北に数十メートルの結界を張ってもらう事……下が空いているから、魔物を押し留めたりする効果はない。
そもそも、魔物と兵士さんの距離が近すぎて、無理矢理結界で引き離すのはちょっとね。
マックスさん達ならある程度は察してくれるとは思うけど、兵士さん達側から放たれる魔法をせき止めるのも混乱させてしまう可能性があるから、それくらいの空間を開けた。
遠くから飛来する魔物の魔法は、高く打ち上げられる事もあるので少しくらい防いでいるけど。
まぁ、この結界で兵士さん達側を有利にしたいわけではなくて、今からやろうとしている事の影響を減少させるための結界だから。
「広い範囲に満遍なく……まだこれからがあるから、魔力は節約しつつ……」
頭の中でイメージを構築……南側の魔物殲滅が待っているから、あまり多くの魔力を使わないように気を付けて。
思い浮かべるのは、広範囲に及ぶ突風。
魔物の足を止め、押し返すような風……ちょっとその風の中に、凶悪な刃を混ぜるけど。
とはいえ、風受けた魔物が全て倒せるくらいの刃ではなく、ある程度くらいだ……多分遠慮なしにやると、反意が広すぎてセンテに影響が出てしまうだろうし。
「後続が荒れたら前進できなくなるし、先頭の魔物も驚かせられる……はず。よし!」
イメージを完了させ、魔力を練る。
風を発生させるからだろう、体から滲み出る可視化された魔力が、緑色に変換されて行く。
「……リク? 風の魔法だけどだわ、空を飛んでいる私に……」
「ウィンドアップガスト!」
エルサが何か言っていた気がするけど、集中していたのでそちらに意識が向かず、そのまま魔法を発動。
瞬間、俺とエルサがいる東門の上空、エルサが張った結界の上部から広がる魔物の群れに向かって、突風が吹き荒れる。
その突風は、兵士さん達とぶつかっている魔物のやや後方に吹き付け、魔物達を巻き上げながら東へ放り出す。
「だ、だわー!」
「うぉあ! エ、エルサ!?」
魔物達が巻き上がり、一部が空中で風の刃に斬り裂かれながら他の魔物がいる箇所へ落ちていく……のをゆっくり眺める事はできなかった。
突然エルサが叫んで忙しなく羽ばたき、上下左右に行ったり来たり……突然の事で、俺もバランスを取るためしがみ付く。
さすがに、エルサから落ちるのは嫌だからね。
「リクのバカーだわ! 風だと結界を張っていても、浮いている私には影響があるのだわー!」
「あ、ご、ごめん!」
そうか、風を東側に向けたとしても、地面や魔物に当たってこちらに跳ね返ってくるのもあるのか……。
エルサの周囲にも魔力を通すための穴を開けた結界があるとはいえ、空に浮いている。
地面にいて離れた場所に結界を展開しているわけでもないので、跳ね返った結界に翻弄されてしまうわけだ……浮かんだビーチボールが、突風で翻弄されているような状態だね。
今エルサは、結界と自分の位置を調整するので大忙し……結界を解除すれば直接風が吹き付けて、もっと翻弄される事になるし、結界を調整しないとエルサにぶつかってしまうから。
「はぁ……ふぅ……ひどい目に遭ったのだわ。人の影響を与えないと考えるのはいいけどだわ、私への影響も考えて欲しかったのだわ」
「う、うん。そうだったね。ほんとごめん」
少しの間、風の影響であちこちに移動しながら、俺の魔法の影響をやり過ごすエルサ。
さすがにこれは、文句を言われても仕方ないと、素直に謝る。
「……結局、人の方も影響があったのだわ」
「え……? あー、ほんとだ」
落ち着いて、エルサの声を聞いてから地上を確認してみると……俺が風を吹き付けた場所から東側に、かなりの魔物押せてはいた。
それは間違いないんだけど……逆に風を吹き付けて地点から街側では、門に向けて魔物達がドミノ倒しの状態になっていた。
密集していたからだし、魔物も動きを止めていてそれなりの被害を出せているから、結果的には悪くないと言える。
だけど、そのドミノ倒しが盾で押し留めていた兵士さん達にも影響が出ており、一緒に倒れているというか魔物が圧し掛かっている状態だ。
まぁ、周囲の人達が止めを刺しつつ、倒れた人を助ける動きをしているので、直接風の影響はなさそうだけど……それでも、多少の混乱が見える。
落ち着いて対処できているのは、マックスさんや上空にいる俺達を見た隊長格の人が指示を出し、それを聞き届けられた人かな。
「駄神と戦っている時は、感心するくらい的確な対処をしていたのにだわ……どうしてこう、抜けている事があるのだわ?」
「いやまぁ……風がここまでの影響を及ぼすとは思わなかったから。あの破壊神の衝撃から、ちょっとアレンジしてこれでいいかなって思っちゃったんだよね」
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