第1117話 クォンツァイタの新たな使い道



「南側は俺が行くので、主な魔法具の配備は東と北ですかね?」

「そうだな……今も耐えてくれている東に多く持って行った方が良さそうだ。北も、外壁に張り付かれる事が増えているようだから、多少の応援を向かわせたいが……」

「それなら、門まで引かせた南の人達を振り分ける時、ついでに持って行ってもらうのが良さそうです」

「私も、東に行って協力します。あちらには父さん達がいますし」


 俺が担当する南は少しだけ……外壁上から援護をする人だけに配備。

 東門が一番激戦になっているみたいだから、そちらへの応援も兼ねて多く配備し、北側にも同じく少数配備。

 人と一緒に、遠慮なく魔法を使う手段が増えれば、それだけ有利になるはずだから。

 通常なら、魔法具の魔法だからって自分の魔力の残りを気にしなければいけないけど、クォンツァイタがあればほぼ使い放題に近い。


「……戦争の有り様が一変しそうだな。次善の一手に、クォンツァイタによる魔法具使用か」

「次善の一手を使うと、自分での魔法や魔法具へ魔力を割けづらいですから……分けられるのは、随分助かりますね」

「まぁ、攻撃面だけだけど、それでも助かるよね」


 眉根を寄せて考えるシュットラウルさん。

 確かに、魔法具だけでも魔力を余裕をもって使えるのであれば、かなり便利だ。

 遠距離は魔法武具を使い、近距離は次善の一手を使う、というだけでも一人の兵士さんが活躍できる場が増えるだろう。

 やろうとすれば、魔法が使えない人でも魔法部隊として一緒に参加できるわけでもあるし。


 ぶっちゃけた話、敵側が突撃して来るのに対して魔法具を使って固定砲台と化し、ギリギリまで引き付ける間に延々と魔法で攻撃できるって事でもある。

 事前に準備する必要はあるし、集団で運用するからこその利点でもあるけど。


「わかっているわねカイツ。クォンツァイタの魔法具化を解除しないと、放出状態のままだから逆効果になるの。だから……」

「うむ……成る程な……」


 俺やモニカさん、シュットラウルさんとは別に、クォンツァイタを持ってカイツさんに教え込んでいるフィリーナ。

 魔法具にしたままだと、クォンツァイタから魔力が放出されているから魔力溜まりに持って行ったら、逆に滞留する魔力が増えてしまう。

 そこは、注意して間違えないようにして欲しいところだね。


「ある程度魔力が消費された、クォンツァイタはフィリーナとアルネの所に集めて、魔法具化を解いて南側に輸送して下さい。南側の魔物を殲滅したら、できるだけ早く置いていきましょう」

「うむ、そうだな。フィリーナ殿達は、集めたクォンツァイタを魔法具化して……」

「一旦魔法具化をまとめてやったら、東側に行きます。そちらが一番消費が多そうですから。もし余裕があるなら、北のクォンツァイタは消費した後持ってきて欲しいですけど……おそらく使い切る事は中々できないので、そのままで」

「南は、後で私かフィリーナが行けばいいだろうな」


 まず、今集めてもらっているクォンツァイタを、フィリーナやカイツさんに魔法具化してもらう。

 そして、魔法武器と一緒に各場所へ配備……この時、フィリーナ達は東側へ。

 東側で消費されたクォンツァイタは、順次魔法具化を解いて南へ集める。

 南と北のクォンツァイタは魔力を使い切るのに時間がかかるだろうし、細かく取り換えていたら時間がかかってしまうため、交換できる予備は用意しておくけど、こちらは魔力溜まり阻止にはまだ使わない。


 後で状況が落ち着いた時、一気に魔法具化を解いて使えばいいからね。

 フィリーナやカイツさん、クォンツァイタをあちこち動かし過ぎたらそれはそれで、ロスになるってのもある。

 

「リク殿も戻って来て目覚めた。これからは魔物を食い止めて耐える時ではなく、反撃の時だな。アマリーラ達も張り切る事だろう」


 ある程度これからの動きを決め、耐えるのではなく反撃ののろしを上げる……とシュットラウルさんが真剣な目で言い放つ。

 これまで、魔物に囲まれてセンテの中への侵入を防ぐのに手いっぱいで、ずっと耐えていて、ようやく光明が見えたってところか。

 シュットラウルさんに限らず、兵士さん達も含めて皆フラストレーション溜まってるだろうからなぁ。


「そうですね。そういえば、アマリーラさん達は?」

「あぁ、アマリーラやリネルトは私の連れてきた他の者達と共に、南側で冒険者と協力して魔物を食い止めているはずだ」


 ふと思い出して、アマリーラさん達が今どうしているのかを聞く。

 いや、忘れていたわけじゃなくて、他の話が優先されていただけなんだけど。

 いつもなら、シュットラウルさんの近くにいる事が多いし、今は有事だからこの場にいないのは不思議だったけど……そうか、戦力でもあるから当然皆と一緒に戦ってくれているんだね。


「そうですか……アマリーラさん達には、心配を掛けましたから。会ったら謝っておかないと」


 洞窟内の捜索中に、俺とエルサが急にいなくなったわけだから。

 しかも、その後ワイバーンに囲まれているはずで……無事な事はマックスさんから聞いて知っているけど、こちらも話しをしておかないとね。


「そうだな。酷いものだったぞ、リク殿がいなくなってからのアマリーラ達は。昼夜問わず街や周辺を駆け回って捜索しつつ、宿に戻ったと思ったらどこかにいるかもと、建物内をウロウロしていたからな。雇い主は私のはずだが、まるで飼い主を探しているようにも見えた。一応、報告でワイバーンに囲まれたと聞いたが、その事なんぞどうでもいい事のようでもあったな」

「飼い主って……」


 シュットラウルさんの話を聞くに、よっぽど心配をかけてしまっていたんだな……飼い主だとかは冗談だと思うけど、一緒に行動していたはずなのに見失ったとあって責任を感じていたのかもしれない。

 ワイバーンに囲まれて、相当危険な状況だったのにも関わらず、その事よりも俺を心配してくれていると思えばありがたいながらも申し訳ない気持ちもある。

 まぁ、南側で冒険者さん達と一緒に戦っているのなら、大きな怪我もなく元気なんだろうとわかるし、ホッと一安心だ。


「その辺りは、モニカも大差なかったのよねぇ……ふふ」

「ちょ、ちょっとフィリーナ。私の事は言わなくていいのよ!」

「モニカさん?」

「あ……だって、リクさんがいないと私だって心配くらいするし、パーティのリーダーだし……」

「誤魔化さなくていいのにねぇ」


 フィリーナがニヤリとして言った言葉に、モニカさんが超反応。

 頬をほんのり赤くしながら何やら焦っている様子。

 俺が首を傾げてモニカさんを見ると、視線を逸らした……心配は……そりゃモニカさんだってするよなぁ。

 フィリーナは、モニカさんへさらに追い打ちをかけているけど。


「ありがとう、モニカさん。心配してくれて。俺も……事情は落ち着いたら話すし、モニカさん達みたいに数十日も離れていたとは言い難いんだけど、モニカさん達が無事だとわかって嬉しいよ」

「っ!!」

「はぁ……そこで達、かぁ。リクも相変わらずね」



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