第1116話 クォンツァイタでの魔力補助



「そう……確かに、今センテの周囲では魔力が濃くなっているわ。南側は特にね。このままだと、魔力溜まりが発生してもおかしくない、とは思っていたわ」


 フィリーナの目から見て、センテ周辺は空気中の魔力が濃くなっていて魔力溜まりが発生する可能性は考えていたらしい。

 ただ、それに対する方法がなく、余計な情報を上げるよりもまず目の前にいる魔物をどうにかしないとと戦闘に集中していたんだとか。

 まぁそりゃそうだよね、魔力溜まりが発生しようがすまいが、センテが壊滅したらそれどころじゃないんだから、魔物を倒す方が優先だよね。


「それでつまり、クォンツァイタに魔力を吸わせる事で、発生を防ぐ……か。成る程」

「どうかな、フィリーナ?」

「多分、できると思うわ。改良したけど、結局性質は大きく変わっていないし……蓄積させると言いう意味では、空気中の魔力を吸わせるのは効率が悪いけれど」


 改良したクォンツァイタは、魔力吸収効率を上げてあるのでむしろ自然の物よりも向いているらしい。

 ただ、だからといって空気中の魔力を無制限に吸い続けていたら、クォンツァイタがある周辺は空気中の魔力がなくなってしまうので、ある一定以上の濃さじゃないと吸わないようにしているとか。

 それを利用して、誰かが持った時に放出した魔力を一気に吸収するようにもさせて、魔力を持った人がいればいっぱいになるまですぐに蓄積させられるとかなんとか……詳しい仕組みはよくわからないけど、そんな感じらしい。


「ただそうね……既に蓄積させた魔力を放出させる方が問題ね」

「結界の維持に魔力を使うようにしたみたいに、誰かが代わりに魔法を使う魔力として、使ったりできないかな?」

「魔法具化して、また戻せばなんとか……といったところね。そうね……ちょっとそのリクが持っているクォンツァイタを貸して」

「元々、フィリーナが来たら試してもらうためだったからね、どうぞ」


 クォンツァイタを渡してすぐ、フィリーナがクォンツァイタを魔法具化。

 どうやら、結界みたいに魔法の維持のためではなく、放出できる状態にしたようだ。


「リク、結界でこれくらいの大きさの箱みたいなものはできる?」

「できるよ。結界……っと。ちょっとわかりやすく色を付けてみた」

「そんな事ができたのね。まぁ助かるわ」


 フィリーナに大きさを指定された通りに、結界を発動……四角い箱の形だけど、完全に密閉ではなく一面が空いている状態だ。

 あと、曲面結界とか反射鏡の応用で、わかりやすく白い色を付けてみた。

 自分で作った結界はなんとなくわかるけど、他の人からは全く見えない状態だと何かを試すにしても不便だからね。

 半透明の白は、これまでと違って中も見える……破壊神との戦いで、必死になって結界のアレンジを考えていたからか、これくらいはすぐにできるようになっているようだ。


「それじゃ、モニカ。このクォンツァイタを持って、貴方の槍で魔法を発動させてみて。できれば全力でね」

「わかったわ。……んっ!!」

「ほぉ、これは中々……」


 フィリーナが魔法具化したクォンツァイタをモニカさんに渡し、柄にくっ付けるようにして、槍に備わっている魔法を発動させるように指示。

 受け取ったモニカさんがすぐ、言われた通りに槍に魔力を込めて発動させると、全力だからかこれまで見た事ない炎が槍から結界に向けて放たれた。

 この威力……成る程、クォンツァイタから魔力を引き出しているからか。


「どう、モニカ?」

「私自身の魔力は、ほとんど使われていないみたい」

「成功ね……ただ、どれだけの魔力を使えば空になるかは、私くらいしかわからないか」

「けど、確かに色が変わっているから、消費はされているみたいだね」


 モニカさんが握っていたクォンツァイタは、黄色からピンク色に変化しているので、確かに蓄積されていた魔力は消費されているんだろう。

 けど、それでどれだけ使われて残りがどれくらいかなどは、フィリーナの目で見なければわからない。

 うーん。


「空にならなくても、満タンになっていなければ魔力を周囲から吸えるのかな?」

「それはまぁ。ただ、魔法具化を解かないといけないから、それはそれでまた処置する必要があるわね」

「それじゃ、魔物と戦っている人に使ってもらって、ある程度消費したら戻して……それを集めよう。とにかく今は、魔力溜まりを発生させない事が重要そうだから」


 理由はわからないけど、魔物を使っている側は魔力溜まりを作ろうとしている。

 だったら、たまにはその思惑を外してやろうと思うんだ。


「そうね……ある程度使えば、滞留している魔力を減らす事もできるか……わかったわ。クォンツァイタへの処置は、私とカイツが当たる事にするわね。――できるわね、カイツ?」

「もちろんだ。むしろ、フィリーナより私の方がそういった事は得意だぞ。戦闘をするより、ずいぶん楽だ」


 少しでも空気中の魔力を減らす事ができれば、魔力溜まりが発生する確率を減らせるはず。

 カイツさんは本来、戦闘よりも魔法具に関する研究をしているエルフだから、こういった処置に関しては専門と言えるだろう。

 まぁ、クォンツァイタを研究していたのはアルネだから、やり方とかはフィリーナから聞かないといけないんだろうけど。


「すみません、カイツさん。巻き込んでしまって……」

「この街に来てしまった私が悪いのです。それに、こうして人間と協力して魔物を倒すというのも、後の研究に行かせる何かがあるかもしれませんから。ワイバーンの調査も有意義でした」

「カイツは研究さえできれば文句は言わないわよね」

「いや、毎日限界近くまで魔法を使わされると、さすがに私も文句を言いたくなるがな?」

「ははは……」


 調査のためとはいえ、俺達がカイツさんに頼みごとをしなければ今頃別の場所にいたはずだし、その時は魔物に囲まれた街の防衛をする事はなかったんだろう。

 ……その時は、方向音痴が原因でどこにいるかわからなくなってるんだろうけど。

 ともあれ、さすがに研究ができるとはいえ、限界近くまで魔力を振り絞って毎日魔物と戦うのはさすがに堪えるようだ。

 それはカイツさんじゃなくてもそうか、と苦笑い。


「侯爵様、至急街にある魔法具の武器類を集める事はできますか?」

「それはできるが……魔法具の武器か。今視型モニカ殿がやったように?」

「はい。クォンツァイタは、魔力を放出しますが……それを人間や私達エルフがそのまま使う事はできません。体内に取り込む事になりますから危険なのです。ですので、魔法具の武器を使うための補助としてならば、遠慮なく魔力を使う事ができるかと」

「成る程な。であれば、魔物との戦闘で踏ん張ってくれている皆の役にも立つだろう。わかった、すぐに集めさせよう」


 人が使う魔法へクォンツァイタの魔力を使用する場合、一度体内に取り込む必要があるらしく、危険なのでできないとの事だ。

 他人の魔力を取り込む事になるから、最悪の場合は組織の魔力を分け与えるのと同じ事になりかねないからね。

 でも武器などの魔法具なら、誰の魔力だとかは関係ないので遠慮なく使えるって事だろう。

 フィリーナに頷いたシュットラウルさんは、すぐ執事さんに魔法具を集めるように指示してくれた――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る