第1112話 目覚めはエルサアタック
「気にしないでリクさん。私だけじゃなく、ソフィーやフィネさん、ユノちゃんがいるんだもの。それに、父さんと母さんも駆け付けてくれているの。だから、二、三日くらい休んだって平気よ!」
「マックスさん達とは、さっき会ったけど……ははは、マリーさんと言っている事が同じだね。さすが親子……だ……」
「リクさん?……詳しくは知らないけど、大変な事があったのよね。今はゆっくり休んでね……」
「……う」
マリーさん達と同じ事を言うモニカさんに、思わず笑ってしまいながら、意識が薄れていく。
最後に、モニカさんが何かを言っていたような気がするし、それに頷こうとしたのはような気がするけど、途中で完全に意識が途切れた。
少しだけ、今は少しだけモニカさんの笑顔を見られた事を喜びながら、休ませてもらおう――。
――夢を見ている気がする。
なんとなく、夢だなぁと思うくらいだけど。
どうして夢かなんてわかるのか、多分真っ暗で何も見えない空間をゆらゆらとした霧のような不定形な何かが、人の形になって現れては消えるを繰り返していた。
真っ暗なはずなのにその霧や人の形は見えるのはおかしいから。
ただ、以前見ていた……姉さんとの再会と許されるまでの悪夢と違い、俺の心は暗澹たる気持ちにならず冷静だった。
だからこそ夢だと判断しているのかもしれないし、こうして考えていられるんだろう。
霧のような、不定形のモヤは繰り返し俺の前で形を成したかと思えば、すぐに散って消えていく。
それらは誰かを形作る……男性、女性……大人が多いかな? でも、一度も同じに見える顔はなく、全てが別人にだと思える。
形作られた人、それらは何かを訴えかける、または苦しむ様子を見せて散る。
……本当にこれは夢なのだろうか?
いや、夢以外にあり得ないんだけど。
こういうの、明晰夢っていうんだっけ? 夢を見ているのに夢だってわかる状態の事。
ただこの夢は、これまで見てきた夢とは違っている気がする。
夢のはずなのに、やたらと冷静に見られている事もそうだし、形作られた人の顔は見た事のない人達ばかり。
俺が忘れているだけかもしれないけど……数十、いや百以上の人の顔が形作られ、消えていく……その全てが見覚えないという事は、多分忘れているわけではないんだと思う。
一体、この霧、そして形作られた人達は何を訴えかけているんだろうか?
声は聞こえない、俺自身も声は出せないし体を動かす事もできない。
ただただ、目の前で不定形の霧が人の形を成して散っていく様を見ているだけ。
やっぱり、夢じゃないのかもしれない。
夢というにはすごく冷静にそれらを見ている気がするし、俺の記憶や心に何かが生まれる様子もない。
俺自身が見ている夢というよりは、何かの意識とかそんなものに取り込まれたような感じに近いのかもしれない。
意識? 一体なんの意識? わからない。
本当にそうなのだとしたら、今も続いて人の形を成している何かは、俺に対してどうしたいのだろうか?
何かを訴えている……それは変わらない。
だとしたら、俺に何かをさせたい? いや、それなら声を聞かせた方がいいような気がするし……。
この霧のようなモヤを晴らして欲しい? だとしたら、俺が考えるだけで体が動かせないのはおかしい。
わからない、そればかりが募る……本当に夢なのか、それとは別の何かなのか。
ただ一つだけはっきりしているのは、見ている霧や人の形になった何かは、決して生きてはいない存在だという事。
どうしてかわからないけど、それだけははっきりとわかった。
わからない事ばかりのまま、延々と目の前で人の形を成すモヤ、そしてそれらが散る様子を延々と見続付けていた――。
何か、声が聞こえうような?
誰の声? いや、よく聞いた声、知っている声だ。
懐かしい気もするし、つい最近も聞いていた気もする。
「……リ……さん……リ……さん……!」
体を揺さぶられるような感覚。
いや、ようなではなく実際に揺さぶられている。
それと共に、意識が少しずつはっきりして来る。
聞こえている声も、よく聞こえ始めた。
「おかしいのだわ。私もそれなりに魔力が来ているのだわ。それに、起きようとしたら起きられるくらいのはずなのにだわ」
「エルサちゃんがそう言うなら、確かにそうなんでしょうけど……でも」
あぁ、この声は……。
ずっと聞いていたい声、繋がりを感じる声だ。
「こうなったら、この寝坊助を叩き起こすのだわ!」
「ちょ、ちょっとエルサちゃん!?」
「……ん」
意識の覚醒と共に、声の正体がはっきりする。
モニカさんと、エルサが呼んでいる……あぁそうか、俺はこれまで寝ていたんだ。
そして、俺を起こそうとしているってとこか……。
意識を引っ張る甘い誘惑のようなものを振り切り、目を開けようとした時だった。
「この寝坊助リクーだわ!!」
「ふぐっ!!」
強烈な衝撃が、お腹に突き刺さる。
思わずくの字になった体と、口から漏れる声。
息が詰まり、一瞬何が起こったのわからなくなった後、痛みが襲い掛かる。
当然の事ながら、目ははっきりと見開いた。
「げほっ、ごほっ……つぅ……」
「リ、リクさん。大丈夫……?」
「う、うん。なんとか……」
咳き込み、体を完全にベッドにもう一度寝かせて、痛みを堪える。
横からはモニカさんの心配そうな声……なんとかできるようになった息をしながら、そちらに応える。
あぁ、良かった……やっぱりモニカさんだ。
って、それどころじゃなくて、今俺のお腹に突き刺さったのは……。
「だわ~……ようやく、起きたの~だわ~」
「やっぱりエルサか……起こし方が乱暴すぎやしないか? かなり痛かったんだけど」
「リクが~……起きないのが~悪いの~だわ~」
顔を起こしてお腹を見てみると、俺の腹部に頭頂部を埋めて頭倒立のような状態のエルサ。
パタッと、体を横に倒してふらふらしながら起き上がり、頭を揺らしながら歌っているような酔っているような、そんな声を出す。
「……エルサちゃん、大丈夫?」
「だわ~」
目をグルグル回しながら、モニカさんに抱き上げられるエルサ……大丈夫そうには見えないけど、まぁエルサだから大丈夫だろう。
「そんなになるなら、頭から突っ込まなければ良かったのに」
「リクが~起きないから~……なのだわ~」
「いや、エルサが突撃してくる前にもう起きてたから。目を開けようとしたら、急な衝撃だったし」
ほとんど意識が覚醒していたし、声もちゃんと聞こえていた。
目を開けようとしていたところで、エルサが突撃してきたから……何もしなくてもあのまま起きていたはず。
モニカさんの声と、体を揺さぶられて気持ち良く目が覚めるところが、思わぬ衝撃と痛みを感じて微妙な目覚めになってしまった。
まぁ、おかげで眠気とかが吹っ飛んだのは間違いないけど。
「うん……寝る前よりは、大分回復しているね」
エルサによる無駄だった頭の突撃から、俺もエルサも回復し、ベッドから起きてモニカさんが気を利かせてコップに注いでくれた水を飲む。
そうしながら、体を動かして確認しつつ魔力にも意識を向けて、どれだけ回復したかを確認した――。
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