第1095話 破壊神の意図
「一番違和感が大きくなって気付いたのは、ついさっきだけどね。干渉力……これが関係しているんじゃないかな?」
「ふぅん……? 確かに私は神だから干渉力を持っているし、それを使って世界に干渉するわ。でも、それと時間稼ぎとなんの関係があるのかしら?」
俺が干渉力という言葉を口にした瞬間、破壊神がピクリと反応し、雰囲気が変わった。
これまでは、こちらを下に見ておもちゃで遊ぶような、そんな楽しさを滲ませていたりもしたんだけど、今度こそ本当に遊び相手を見つけたとか、そんな雰囲気だ。
遊ぶのには変わりないけど、使って遊ぶおもちゃと、意思がある遊び相手としての違い、かな? 自分でも、はっきりわかっていないけど……でも、先程までとは確かに違う感じがする。
「わざわざ空間を切り離してまで、俺とエルサだけを隔離した事、かな? 本当に俺達を破壊するというのなら、一緒にいたアマリーラさん達とかもまとめて破壊したらいいだけだからね」
「単純に邪魔だったのよね。余計な干渉力を使うわけにはいかなかったし。そもそも、干渉力を理由にするのなら、時間稼ぎをするなんてただの無駄とは思わない? こうしている間にも、私が干渉できる力は減っているのよ?」
アマリーラさん達に対して、余計な干渉力をというのは本当なんだろうと思う。
俺の前に姿を現し続けている時点で、干渉力を使っているのもだ。
だけどそれなら、干渉力を減らさないためにさっさと決着を付ければいいだけの事……アマリーラさん達と一緒だったら、助けようとしてもっと不利になっていただろうし。
それこそ、干渉力を無駄に使っているように思える。
「なのにこうしてゆっくり話している。それに、やろうと思えばできたはずなのに、俺に対して本気で破壊しようとは考えていないでしょ?」
「あれだけの攻撃を受けておいて、よくそう言えるわね?」
まぁもしかしたら、あわよくばという部分もあったのかもしれない。
だけど、破壊神が破壊するだのと言っていても、俺の命を本気で狙っているようには見えなかった。
相手に同情とか、命を奪うのは躊躇われる……なんて理由ではなく、時間稼ぎをしているからじゃないかな? と思い至ったわけだ。
「最初から、急所は狙ってなかったでしょ? あれだけの攻撃と言っても、連続で攻撃を始めたのは俺が防げる、避けられるとわかってからだから」
閃光は、何度か避けてからの連発だったけど、最初に放った時から急所を狙っていなかった。
初めての時なんて、俺は結界があるからと安心していて反応できなかったし……それなのに急所ではなく肩に当たった。
本気で相手を破壊するのであれば、あの時心臓辺りを狙えば良かったんだ。
「リクが、一度の光だけでどうにかなるとは思っていないわ。だからこそだとは思わないの?」
「確かに、あの閃光は火傷したけど深手にはなっていなかった」
心臓を狙っていても、届いていたかどうか……自分が受けた攻撃に対して、どうなっていたかを考えるのはあんまりいい気はしないけど。
「まぁ、とりあえずそれっぽい理由とかを並べてみたけど……一番の理由は攻撃方法かな」
「へぇ?」
「閃光と衝撃、その二つしか使っていない。やろうと思えば、他の事もできるんでしょ? 破壊神が、立った二つだけの攻撃方法なんてわけがないと思うよ」
威力などはけた違いと言っていいと思うけど、破壊神らしいかどうかと考えたら、ちょっと微妙だ。
別に破壊神だからと、暗いうごめく闇を操れというわけではなく、もっと大きな破壊をもたらす方法や圧倒的な力だってあると思うんだ。
少なくとも、破壊のための力が衝撃と閃光の二種類しかないわけがない……はず。
「ふふふ、あははははは! そう、そうね。破壊神だったら、もっと派手に大規模に、あらゆるものを破壊して見せないとね!」
「……そこまでは言っていないけど」
笑い始めた破壊神。
ちょっと大げさに受け取られたみたいだけど……これは、時間稼ぎをしていたと認めていい、のかな?
「リクの言う通り、私はただの時間稼ぎ。隔離して、しばらくリクをこの場に留めておくだけの役目。破壊神が使いっぱしりみたいな事をしているけど、楽しそうだったからね。それに、リクと話して見たかったから」
「破壊神と話したいと思われるのは、光栄なのかな?」
「創造神と同等なのよ、光栄に思うべきね。あぁ、そういえばその創造神に名前を付けて、一緒にいるんだったわ。リクにとっては、創造神とか破壊神ってそういう相手ではないのかもね」
いや、なんというかユノは神様だっていうのは知っていたけど、創造神だとは思っていなかったし。
そもそも、神様がどれだけいるのかもわかっていなくて……あと、小さな女の子の姿で、見た目相応の振る舞いをする事が多かったから、ほとんど神様って事を忘れていただけなんだけどね。
破壊神も見た目はユノと同じで、敬う気持ちとかそういうのが沸きにくいのが影響しているっぽい。
「とにかく、なんで破壊神が自ら時間稼ぎを?」
「ふむ……まぁいいわ。そろそろ良さそうだし、話すのは使う干渉力を少なくて済むから」
これも時間稼ぎなんだろうか……少しだけ考える仕草をした後、ゆっくりと話し始める破壊神。
「私がリクに直接会いたかったというのは本当よ。そして、隔離したのもリクがこれから……いえ、今起こっている事に関与しないためね」
「今起こっている事……?」
「切り離しているから、私でもなんとなくしかわからないのだけど……今リクの元居た場所、じゃないわね。近くの人間が多くいる場所かしら。そこは今、大変な事になっているわよ?」
「近く? まさか、センテの事じゃ!?」
「呼ばれ方なんて知らないわ。とにかく、リクが最近ずっといた場所ね」
ずっといた場所で、最近ならセンテで間違いないだろう。
王都やヘルサルもそれなりに滞在しているから、候補には上がるけど、最近はずっとセンテにいたからね。
「それじゃまさか、センテの周辺で起きていた事って、君が主導していた?」
「私じゃないわ。私だったら、あんな回りくどい事はせずに直接破壊するわよ。例外を除いて、大きな破壊はできないのだけど」
「例外……?」
大きな破壊ができない理由も、干渉力が関わっているのだろうか?
だけどその例外って言うのが気になった。
つまり、何かしらの理由なりなんなりがあれば、破壊神は本当に破壊の限りを尽くすって事でもある。
「それは教えてあげられないわね。とにかく、リクが調べていた事は、私がやっていた事じゃないの。利用はさせてもらっているけど……」
破壊神曰く、センテ南で魔物が多くなっていたり、復元ワイバーンがいたのは自分とは関係ない事だとか。
話ぶりから、帝国への知識供与みたいな事も出て来たから、想像していた通り帝国やそれに連なる組織が関係していると思われる。
そして、洞窟という限定されている空間に俺が入る事を知り、ついでにと利用したという。
俺達が来る前に、洞窟内にいたワイバーンは移動できなかったはずなのに、何もいなかった理由は破壊神が先回りして、俺やエルサと同じように空間を切り離して隔離。
だから、洞窟内を探しても何も見つからなかったわけだ。
そして頃合いを見計らって、俺とエルサを隔離すると同時にワイバーン達の隔離を解除して、入れ替えたんだとか――。
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