第1082話 男の尋問を開始
「なんだと? はっきりと答えろ!」
「あー、ちょっと待って下さい……」
「な、なん……い、痛みが……?」
縛り付けられている椅子をガタガタと揺らしながら、体が動かせない事に戸惑っている男につかみかかるような勢いで問い詰めるアマリーラさん。
ただ、話をするのにこのままだとちょっと聞き取りづらいので、アマリーラさんの横から手を伸ばし、男の頬に触れながら魔法を発動。
治癒魔法でみるみるうちに、頬の張れが引いて行く……もし関係ない人だったら後で、と考えていたけどちゃんと喋れないとアマリーラさんがイライラしているようだからね。
……喋りづらくしたのはアマリーラさんだけども。
「このような男に、リク様のお慈悲を与えなくても……」
「お慈悲って……まぁ、ちゃんと話をするためですから」
「はぁ、わかりました。――おい、リク様がお慈悲をお与え下さったのだ。知っている事を全て話せ!」
「は、話せと言われても……」
お慈悲なんて大層な事じゃないんだけどね。
とにかく、腫れていた頬は完全に元に戻っているので、これでまともに話せそうだ。
「リク様を尾行していただろう! 知らないとは言わせない!」
「尾行……さぁ、なんの事かな?」
強く問い詰めるアマリーラさんに、頬の痛みがなくなって余裕ができたのか、男がしらばっくれる。
俺を尾行していた事そのものは、横道に入った俺の後を付いてきた以外にも、数日間に渡ってアマリーラさん達に確認されているので、今更知らないと言っても無駄だと思うけど。
「ふむ、この期に及んで言い逃れができると思っているのか……はぁ……」
「あー、リク様。少しだけでいいので、外に出ていた方がいいですよ~」
「え、そうなんですか?……あ、はい、わかりました。あまり、やり過ぎないようにしてくださいね?」
「止められるかはわかりませんが……善処します~」
男の答えに、深く溜め息を吐いたアマリーラさん……笑顔をひきつらせたリネルトさんが、俺の背中を押して部屋の外へと誘導する。
急にどうしたんだろう? と思ったけど、アマリーラさんの方から不穏な気配というべきか、怒りの気配のようなものがゆらゆらと出ているようだったので、素直に従って外へと出た。
念のため、リネルトさんに注意をしておいたけど……多分無駄だろうなぁ、と諦めながら。
「だわ~、だわ~」
「……エルサ、なんで飛んでいるんだ?」
「暇なのだわー。別に意味はないのだわー」
「そ、そうか」
部屋の外へ出ると、廊下をゆっくり行ったり来たりしながら、エルサが小さいままでフヨフヨと飛んでいた。
エルサは外でメイドさんに抱かれて待っているはずだったんだけど……そのメイドさんの方を見ると、微笑ましそうに飛ぶエルサを見ていた。
これは、空を飛ぶモフモフの毛玉にの虜になった人の反応だな……俺もそうだから、気持ちはわかる。
なんてきっとズレていない納得をしながら、部屋から出てきた俺の頭に着陸するエルサを受け止めた……勢いはなかったけど、飛んでいる状態からそのまま来られたからちょっと首が痛かった。
「は~……」
「だわ~……」
部屋の外で、メイドさんが気を利かせてお茶を淹れてくれ、それを飲みながらエルサ共に息を吐く。
廊下の窓から覗く外は天気が良く、部屋の中で何かが行われているのとは関係なく、平和を感じられた。
ちなみに、部屋の中からは音などは一切廊下には漏れて来ない……結界の影響だろう。
だから何が行われているのかわからないのが、ちょっとだけ不安。
いつもの冷静なアマリーラさんなら、問題ないんだろうけど。
兵士さん達が俺に疑う視線を向けていた時以上の、不穏な気配だったからなぁ。
あの時も、それなりに物騒な事を言っていたから……リネルトさんが抑止力になってくれる事を願う。
「あの~、リク様? もう大丈夫なようですので~」
しばらく窓の外を眺めてぼーっとして過ごし、大体十分程度、お茶を飲み終わるくらいのタイミングで、そっと部屋の扉が開いて、リネルトさんが顔をのぞかせる。
終わったようだけど……中は大丈夫だろうか?
「あ、リネルトさん。わかりました。――お茶ありがとうございました。それと、またエルサをお願いします」
「お願いするのだわー」
「はい、畏まりました。ふふふ、エルサ様の抱き心地は天にも昇る気分ですね……」
リネルトさんに頷き、メイドさんにお茶のお礼とエルサを任せる。
……やっぱり、メイドさんはエルサのモフモフの虜になったので間違いなさそうだ……胸に抱いた瞬間から、恍惚とした表情になったのは驚いたけど――。
「……あー、まぁ、なんとなくわかりました」
中に入ると、荒れ果てたという表現が正しい部屋になっていた。
それを見るだけで、かなり派手にやったんだなぁと納得。
結界が張ってあるので、壁には傷一つ付いていないけど……宿の一室だった寝泊まりするための家具類は、ほぼ全滅と言っていい。
……テーブルなんて、どうしたらそうなるんだろう? というくらい曲がりくねって前衛的な芸術品になっていた……木のテーブルが折れずに曲がるだけって、色々とよくわからない。
「な、なんでも、お聞き下さい……私にわかる事であれば、全てお答えいたします……」
「リク様、男の方は全てを話す心構えができたようです。話せばすぐに理解してくれました」
「あははは……そうなんですね……」
俺が入って来たのに気付いた男とアマリーラさん。
男の方は、項垂れた状態で色々と観念した様子……足を繋いでいた椅子の足が折れている。
晴れやかな表情をしているアマリーラさんには、とりあえず苦笑いと乾いた笑いしか出て来ない。
「……アマリーラ様、男を直接痛めつけたらリク様が治すだろうからと、周囲の物を使って脅していました」
「は、はぁ……」
同じく苦笑しているリネルトさんが、耳打ちして教えてくれる。
確かに、見るも絶えないような怪我とか、話すのに都合が悪い状態になっていると、また俺が治癒魔法を使っていただろうけど。
だからってなぁ……まぁ、家具類の弁償はシュットラウルさんが請け負ってくれると信じよう。
請求されたら、俺も払うけど。
「さて、リク様も来たところで……聞かせてもらおうか。貴様は何故リク様を尾行していた?」
「っ!……俺ぁ、頼まれてやっただけだ」
気を取り直……せているのかはともかく、改めて椅子に縛り付けられている男に向き直り、アマリーラさんからの質問。
よっぽど脅しがきいたのか、声を聞いて体をビクッ! とさせた後、男が渋々答えた。
頼まれてかぁ……ふむ。
「頼まれた……誰にだ? 嘘を言って言い逃れはできないぞ?」
「嘘なんて言ってねぇ。だが……誰かは言えねぇ」
「貴様……!」
「あ、アマリーラさん落ち着いて」
「失礼しました、取り乱しました」
続いての質問に男がかぶりを振ると、瞬間沸騰したアマリーラさんがまだかろうじて形を残していた、何かの家具らしき破片を振り上げた。
慌てて止めに入る俺とその後ろでは、耳を抑えているリネルトさん……できれば一緒に止めて欲しかった。
ともあれ、すぐに収まってくれたようで、アマリーラさんは俺に対し頭を下げてくれた。
まぁ、まだ鼻息が荒いけど――。
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