第1080話 戦いの流れを掴むのは大事な事
兵士さん達は、今回の演習を経て防衛での動きに慣れたり、兵士さん達が先に魔法でこちらを牽制したりしていたら、結果は違ったかもしれないし、少なくとももっと戦闘が長引いていただろう。
人数が少ないので、長引かせてしまうとこちらが不利だっただろうし……アマリーラさんとリネルトさんの活躍も大きい。
ちなみにだけど、これまでほぼ注意して見ていなかったユノは、エルサが最初の水球を放つ前にいつの間にか内部に侵入しており、兵士さん達を蹴散らして混乱を巻き起こしていたらしい……本当、いつの間に、だ。
もしかすると、そのおかげで向こう側の援護魔法の数が少なかったり、こちらの魔法で簡単にかく乱できたのかもしれない……のかな?
「怪我人とかは、大丈夫でしたか?」
「はっ、多少の怪我をしている者は多数いますが、動けない程の者はおりません」
怪我人について聞いてみると、大怪我をした人はほとんどいないらしい。
鎧が破壊されている人も少ししかいなかったし……被害としては俺との演習の方が多かったっぽいね。
「そうですか……動けるとしても、もし治療が必要なら言って下さい、協力します。あ、あと火傷した人は後で治しますね」
「心遣い、感謝いたします。また、前回に続き今回の演習で我々の未熟さを痛感させられました。リク様や他の方々のご協力、ありがとうございます!」
ちょっとした切り傷や擦り傷ならまだしも、火傷はエルサの影響が大きいだろうから、責任取って治さないといけない。
そう思って声をかけると、大隊長さんは深々と頭を下げて陣幕を出て行った。
「今回の事でわかったが……守りとはいっても、機先を制するというのは重要だな」
「そうですね。ヘルサルでの防衛戦でもそうでしたけど、魔法や弓矢、遠距離からの攻撃をしつつ前衛で押す事で、流れをこちら側に引き込むことができるかもしれません。あの時は、そのおかげでこちらのけが人はほとんどいませんでしたから」
大隊長さんを見送った後、シュットラウルさんが顎をさすりながら唸るよう言う。
大人数の戦争にくわしいわけじゃないけど、先に敵を圧倒する事での利点というのはなんとなくわかる。
ヘルサル防衛戦では、ゴブリンが相手だったのもあるけど……魔法と弓矢での先制攻撃がなければ、門を出て戦った俺やマックスさん達は、もっと苦戦していたかもしれないし、多くの怪我人が出ていたかもしれない。
それこそ、隙を突かれて外壁に取りつかれたりなんて事もあり得たからね。
「もっと、色んな魔法を撃ちたかったわ」
「でも、フィリーナ達の援護があったおかげで、助かったわ」
「モニカこそ、私やフィネの死角をよく見てくれていた、助かったぞ」
「そうですね、斧で戦うとどうしても敵との距離が近くなる分、周囲を見渡す事は難しいですから」
「私は、以前フィリーナが後ろから指示を出すのを見ていたから、参考にしただけよ」
シュットラウルさんと話す俺とは別に、少し離れた場所でモニカさん達が休憩しながら、演習について褒め合っていた。
ユノはエルサを抱いて一緒に椅子で寝ているけど、モニカさん達は興奮冷めやらぬ様子……まぁ、演習で訓練とはいえ戦闘後だからね。
カイツさんは、またさらに離れた場所で椅子に座ったまま白く燃え尽きていた。
疲れ切ってしまったんだろう……魔力枯渇まではいっていないから大丈夫だろうけど、フィリーナにこき使われていたから仕方ないか。
ちなみにアマリーラさんとリネルトさんは、不甲斐ない兵士さん達に説教をして来ると言っていた。
負けて意気消沈していたり、怪我をした人もいるのに追い打ちかなぁと思ったけど、反省会と思えば早いうちにやっておいた方がいいのかもしれないと思い直し、何故かいい笑顔のシュットラウルさんと一緒に見送った。
シュットラウルさん、あっさり負けたのは納得しつつも、もっと厳しく……なんて呟いていたからなぁ。
「それにしても、エルサ様の魔法には驚いたな……あれだけの規模、そして兵士達に満遍なく降り注がせておきながら、威力は抑えてあった」
「俺がやったら、あぁはいかなかったでしょうねぇ」
「あれで、今回の演習での趨勢を決定づけたようにも思うな。先手を打って動き出したのも大きいが……まだ何とかできていた範囲だ」
「まぁ、エルサが大きくなって蹂躙するよりは、加減と遠慮ができたんじゃないかと」
「……大きくなるというのは、空を飛ぶ時と同様にという事か。あれをやられたら、兵士達の士気は総崩れだっただろうな」
ユノに抱かれて寝ているエルサを見つつ、シュットラウルさんと話す。
演習の時はただ魔法を使ってだったけど、本当にエルサが戦闘に参加するとなったら巨大化するからね。
そうしたら、兵士さん達は戦う気力すら奪われていたかもしれない……無謀にも立ち向かうと考える人がいないとも限らないけど、少数だろう。
ルジナウムで、キマイラやキュクロプスをちぎっては投げ、ちぎっては投げをしているエルサは、味方にすると頼もしいけど……敵にしたら絶望しか感じないだろうし。
そうして、休憩がてら演習を振り返りながら話をした後は、後片付け。
ほとんどの片付けは兵士さん達がしてくれたけど、俺が作った土壁はどうにかしないと……と思ったら、訓練に使えるからと基本的には形を変えるだけでほとんどそのままにして欲しいと言われた。
大きくはないけど、五百人の兵士さん達が余裕で内側にこもれる大きさなので、街の外にある拠点として改良しようかとも言っていたっけ……まぁ、邪魔にならないのなら俺は別にそのままで構わない。
他には、大きな怪我をした人はあまりいなかったけど、小さな火傷をした兵士さんが結構いたので、その治療だね。
カイツさんの魔法に当たった人もいるけど、ほとんどがエルサの魔法が原因だったし、酷い火傷というわけじゃなかったけど、一応治癒魔法で跡形もなく治療した。
今回は前回と違い、鎧や武器などの破損が少なく、演習終了後から執事さんが割とニコニコしていたのが印象的だったかな。
シュットラウルさんが、予算の関係で小言を言われなかったからだろう、コッソリホッとしていたのを目撃したりもした――。
防衛演習訓練からさらに二日が経ち、今日もまた自分を囮にしてセンテを歩く俺。
俺を監視している何者かはまだ見つかっておらず、さらに周辺の調査にも進展はない。
「今日はどこを調べるかなぁ?」
「どこでもいいのだわー」
最初は結構面白がっていたのか、ノリノリで話したりしていたエルサも、段々と飽きて来て投げやりな受け答えになっている。
そろそろ、成果が見られないようなら別の方法を考えないといけないかな……。
「あっちだ、追い込め!」
「待て、逃がさんぞ!」
「ん?」
「騒がしいのだわぁ」
適当に街中を歩いて、調査のために外へ出ようと西門へ向かっていると、途中で騒がしい声。
そちらに目を向けてみると、捕り物でもしているのか衛兵さんが数人、走って通りを横切って行くのが見えた――。
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