第1072話 土壁作成と思い付きのアイデア
――俺の魔法での失敗はさておき、やり過ぎない程度に魔法で援護をする事に決まった。
というより、俺が魔法を使うのではなく、エルサが使う事になって失敗するとかの心配事はなくなったんだけどね。
皆、エルサがやるとなったら思いっ切り頷いていたのは、俺としては微妙だったけど。
俺に対しては、前回の演習と同じような規則が設けられた……攻撃性のある魔法は使わない、結界は前線に行かない俺やフィリーナ達には全力で使ってもいいけど、モニカさん達には控えめに。
これは、俺に守られてばかりではこちらの訓練にもならないから、とソフィーが言ってモニカさんやフィネさんが了承した。
やり方次第だけど、結界を張っているだけでモニカさん達が武器を持たなくても、勝ててしまうからね、仕方ない。
ちなみに、一応決めた勝利条件として、俺達は壁の内側に侵入して陣地の中央にある目印……簡易的に、地面に刺した剣を倒したり取れば勝ち。
誰も侵入していない状態で、遠距離から魔法などを使って狙って倒したら無効とされる。
シュットラウルさん……侯爵軍側の勝利条件は、前衛をするモニカさん、ソフィー、フィネさんの三人が戦闘不能になったら、勝利となる。
戦闘不能には、武器を一切持っていない状態も含まれるなどだ。
ただし、魔法が使えるモニカさんは、武器を失っても魔法での援護が許可されている。
ここにユノがいないのは、多分誰もユノを戦闘不能にできないだろうから、という予想からだね……大隊長さん達に次善の一手を教えるための訓練を見ていて、シュットラウルさんもそうなると考えていたようだ。
「……随分と、土を積んだんだなぁ。やってみないとわからないけど、これなら結構大きな陣地が作れるかもね。――それにしてもエルサ、こういう事に参加するのって珍しいんじゃない? 魔物と戦う時とかは別だけど」
「仕方ないのだわ。リクに任せていたら大惨事が起こりかねないのだわ。それに、人間が私やリク達に頼らず、自分達を鍛えようとしているのだから、ちょっとは協力しようと思うものなのだわ」
「そんなものなんだ」
土の壁を作る場所……というより、兵士さん達が訓練を兼ねて土を運んで積んでいた場所で、山みたいになっているのを眺めながら、エルサに聞く。
まぁ、俺の魔法は威力を抑えるのが難しいというか、強力過ぎる事が多いし、それを一番近くで見てきたのはエルサだ。
俺自身でも自信を持てないのもわかっているんだろう、どうしようかと悩み始めたシュットラウルさん達に、エルサから自分が魔法を使うと提案された。
エルサはドラゴンで、もしかしたら昔から頼られる事とかがあったのかもしれない……頼りきりにならず、自分達の力を高めようとする訓練だから、協力したいとおもったのかもね。
……俺はなぜかドラゴンのエルサよりも魔力量が多く、むしろエルサが引くくらいだからあまり頼らないけど、ドラゴンというだけで頼ったり縋ったりする何者かっていうのは、よくいたんだろう。
ものすごく長く生きているから、過去にそういった経験をして嫌気がさしていても、なんらおかしくはない。
今度、エルサの過去話とか聞いてみようかな?
「とにかくリクは、魔力供給タンクとして私にくっ付かれているといいのだわ。調整は私がやるのだわー」
「魔力供給タンクって……俺も一応探知魔法を使ったり、もしものために結果の準備くらいはしておかないといけないんだけど。まぁいいか。とにかく、ちゃちゃっと土の壁をつくってしまおう」
演習の間、エルサが魔法を使う代わりに俺はそのための魔力を供給する役割らしい。
魔力量が多過ぎて、滲み出してはいるらしいんだけど、意識的に魔力を外に出す事でそれをエルサが吸収する事ができる。
まぁ、契約して繋がっている状態だからなんだけど、一番効率よくエルサに魔力供給ができるのは、いつもの状態……つまり、俺の頭にくっ付いているのがいいらしい。
ちなみに、本来の人間とドラゴンの契約だと、魔力の少ない人間がドラゴン側から魔力供給を受ける事が多いのだとか。
そんな事を考えながら、魔法を使って土の壁を作り始めた。
えっと……確か指定は人間の身長より少し高めだから、二メートルくらいかな。
幅は一メートルくらいでいいか……それを、横に数百メートル作ってって、そのまま地面に置いたら押せば倒れる状態になるね。
埋めるのは手間がかかるし……面倒だから、地面から生えている状態にして押しても絶対に倒れないようにしようかな。
山になっている土を使い、地面に幅二メートル程度で固め、そこから繋げて高さ二メートル、幅一メートルの壁をそそり立たせる感じだ。
イメージを固め、かなり見上げないといけない土の山を使って、次々と土壁を作って行く……。
「うーん、まぁ想定は乗り越えるなんだけど、他に侵入する手段も作った方がいいかな?」
「……余計な事はしない方がいいと思うのだわ。けど、確かにリクの言う通りなのだわ」
防衛訓練とは言え、ただ壁の内側で守っているだけというのも、何か違う気がする。
本来の街防衛なら、出入り口になる門があってそこを重点的に守るはずだ……そこから、内側の兵士が打って出たりという事だってあるわけで。
だったら、単なる壁じゃなくてそういった出入口を作るのも、訓練として悪くないと思う。
当然ながら、守りやすく強固なものにしないといけないけど……モニカさん達を有利に、とかそういった意図はない。
「うーん……そうだ!」
「……変な事を思いついたようなのだわ」
「変な事とは失礼な。多分、おかしな事にはならないと思うよ」
少しだけどうしようかと考えて思いつき、手を叩いた俺にエルサが呟く。
ただ壁を挟んで戦うだけじゃなくて、こういったアクセントみたいなのも必要だと思うから、悪い事にはならないはず……きっと。
「うん、よし。これなら大丈夫そうだね」
「まぁ、悪くはないかもなのだわ」
思いつきではあるけど、ただの土壁じゃなくてちょっとした変化を持たせた物を作成……まぁ、土で作っているんだけど。
エルサからも、文句ではなく悪くない認定をされてちょっと満足感。
それは、壁の間に四メートル近い高さのアーチで、横幅は三メートル程度にして人が余裕を持って通れるようにした。
街の門と比べると全然小さいけど、壁の高さとかも低いんだからこんな物だろう。
さらにそこへ、地面から一メートルくらいの高さで壁を作ったうえで、外側へ向かって土の棒を伸ばす。。
簡単に越えられるくらいの壁ではあるけど、単純に走り抜けられないように、モニカさん達が楽に通れないようにとした措置だ。
内側からは出やすく、外側からは入りにくいようにしたつもりだ。
これで、重要部分を守る、攻めるといった戦略的な事が少しは生まれるはず……多分ね。
「ほぉ、これは中々……どう守るかも、考えさせられるだろうな。ここを手薄にしたら、侵入される可能性はあるが……さりとてここばかり守るわけにもいかない」
土壁を全て完成させた後、アーチをシュットラウルさんに見せたら感心された。
もし不評だったら潰して他と同じ壁にしようと思っていたけど、そのまま受け入れられて採用された――。
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